分譲マンションの売主に説明義務違反が認められた事例

思い出深い判決が出たなあと思います。

 

学生時代から地裁レベルで争いのあった論点、不動産業者は、日影規制がない状況で日照規制がありません。

 

つまり「日照権」が法的に保護に値するか否かというところをベースラインに議論をしないといけません。

 

そのうえで,控訴審は,日影規制の保護ないこと,日影の影響が及ぶ「可能性」があることを説明する義務があるとしました。

 

しかしながら,インフォームドコンセントと一緒で否定的な情報ばかりでは不動産は販売できないのも事実でもあります。

 

当事務所の周辺も周囲にホテルの建築があったり大学院ができたり,以前と比べると,開発が進んできている印象です。

 

しかし,客観的に自分で調べることもできますから日照権の保証がない場合,やむを得ないケースが多いのですが、そうした点にマンションを建築するという点で商業地区との峻別という都市開発論的問題点をはらむものといえるものと解されます。判決文を読むと,「神戸特殊論」を展開して,「極めて重要」ですがそれは居住に限らず商用利用ですら「極めて重要」なのですから,立論において無理があるように思われます。

 

本契約では,「マンションが建つかもしれないが,プライバシーや日照について本件マンション住民への配慮がされるといった誤解を招く説明をした」という点をとらえた救済判例といえるかもしれないです。理論上は,商用地であって,しかも現実化していないマンションの建設の仮定において日照が阻害されることを日照権の権利性がない地区で主張するのは相当に困難といわざるを得ないように思われます。損害額も25万円程度とされたようです。なお上告不受理決定が出されたことから,改めて紹介されることが増えるようになったようです。

 

大阪高等裁判所判決/平成25年(ネ)第2160号

(1) 上記1の認定事実によれば,次の各事実の存在を指摘することができる。

ア 六甲アイランドは,神戸市主導の下,官民一体となって,利便性の高い都市機能と良好な住環境を両立するように計画的に街作りが進められた地域であり,日影規制の規制値を上回る水準で,他の住戸等からの日影が及ばないように建物が配置されている。そして,被控訴人らも,このような六甲アイランドの優れた住環境を享受できるものと期待して被控訴人マンションを購入した。
イ 法規制(行政処分及び行政指導も含む。)の面についてみると,六甲アイランドの第1種住居地域は,日影規制の対象区域外とされているものの,本件要綱により,六甲アイランド開発当初から住居として使用されることが計画されていた区域については全てその適用区域に指定され,日影規制と同等の日照が確保されている。他方,被控訴人マンション敷地及び本件土地については,同じ第1種住居地域内にありながら,その南側の土地での高層住宅群の建築を可能とするために本件要綱の適用区域外とされ,地区利用計画上も,文化活動,レクリエーション活動の場として,文化,教育,スポーツ,レジャー等の施設を設置することが想定された文化・レクリエーション地区に指定されており,住居のある区域とは明らかに異なる取り扱いがされているが,それにもかかわらず,戸建専用住宅が禁止されるのみで中高層の共同住宅の建築は禁止されていない。このような一貫性を欠くといえる規制の結果として,六甲アイランドの第1種住居地域内の住居で唯一本件要綱の適用を受けない被控訴人マンションが建築されるに至ったものである。
このような被控訴人マンションの状況は,本件要綱が制定される以前の昭和52年10月28日,第1種住居地域については原則としてその全域を日影規制の適用区域とすることが望ましいとする建設省住宅局長通達が出されていたこと(甲27),兵庫県内の第1種住居地域においては,神戸市内の臨港地区,流通業務地区及び特別緑地保全地区といった特殊な用途が想定される地区や一部埋立地を除き,その全域が日影規制の適用区域とされていること(前提事実,甲19の1,弁論の全趣旨)に照らしても,かなり特殊なものというべきである。
なお,控訴人らは,六甲アイランドの第1種住居地域において本件要綱の適用区域外となっている土地は被控訴人マンション敷地及び本件土地のみではないこと,第1種住居地域であっても大阪市のように日影規制のない土地も存することから,上記の被控訴人マンションの状況は特殊なものではないと主張する。しかし,本件要綱制定当時,六甲アイランド内の第1種住居地域内においては,当時ラグビー場として使用されていた被控訴人マンション敷地及び本件土地のほか,美術館,テニスコート,大学施設,駅といった住居以外の施設のみがその適用区域外とされていたのであり,本件要綱の適用を受けない被控訴人マンションがこの地域の中において異質のものであることは明らかというべきであるし,大阪市との比較については,六甲アイランドが埋立地から計画的に街づくりが行われた都市であることや,六甲アイランドと大阪市との都市としての機能や規模の違いを度外視した合理性に乏しい主張といわざるを得ず,採用できない。
ウ 被控訴人マンション販売当時,本件要綱の存在は一般には公表されていなかったのであり,一般消費者である被控訴人らが上記のような被控訴人マンションの特殊な状況を自ら調査して把握するのは極めて困難であった。他方,控訴人らは,被控訴人マンション敷地及び本件土地が第1種住居地域内にありながら日影規制の対象地域となっていないという神戸市の住宅地として特殊な状況を確認しており,本件要綱の適用区域となっていないことも知っていた。
エ 控訴人らは,被控訴人マンション敷地及び本件土地を購入した当初から,被控訴人マンション敷地と本件土地のそれぞれにマンションを建築することを計画していたが,マンションの売行きをみるため,被控訴人マンションを先行して建築した。そして,被控訴人マンションの建築について,六甲アイランドの地区計画に反するとして周辺住民から反対運動を受け,陳情を受けた神戸市の行政指導により建築計画を変更し,隣接する本件土地については,神戸市との間で市有地との交換について協議を継続していた。もっとも,神戸市との協議が難航していたことから,控訴人らとしては,本件土地上にマンションを建築する計画を断念しておらず,建築を実行する場合には,日影規制等があれば建築することができない規模のマンションを建築することを予定していた。
(2) 上記(1)の事実からすれば,被控訴人らにとって,被控訴人らにマンションを購入するか否かを検討するに当たっては,六甲アイランドの優れた住環境を永年にわたり安定的に享受することができるかが重要であり,優れた住環境の内容には日照の確保も含まれるのであるから,被控訴人マンションが含まれる区域の日影規制等についての情報や,本件土地にもマンションの建築計画があるのであればその情報も重要であったというべきである。他方で,控訴人らは,被控訴人マンション敷地及び本件土地には日影規制等がないという特殊な状況にあることを知ってこれらの土地を購入し,被控訴人マンションの販売の当時から,その特殊な状況を利用するかたちで本件土地上にもマンションを建築することを計画しており,計画が実現されれば,被控訴人マンションの日照に影響を与える可能性が十分にあったといえる。このような事情は,日影規制等が及び,それを上回る水準の日照が確保されている六甲アイランドの他の区域の建物との間に,住環境として少なからぬ差異をもたらすものであり,被控訴人マンションの住居としての価値を減少させるものであって,被控訴人らにとって,被控訴人マンションを購入するか否かを検討するに当たって極めて重要な情報というべきである。
そうだとすれば,控訴人らは,被控訴人らに被控訴人マンションの購入を勧誘するに当たり,信義則上,被控訴人らに対し,被控訴人マンションが日照について日影規制等による保護を受けないものであり,控訴人らが本件土地上にマンションを建築した場合に,被控訴人マンションの日照に影響が及ぶ可能性があることを説明すべき義務があったというべきである。
(3) にもかかわらず,控訴人らは,本件説明書により,被控訴人マンションが建築基準法による日影規制の対象とならないことを説明したにとどまり,本件土地にマンションが建築された場合に被控訴人マンションの日照に影響が及ぶ可能性のあることを説明しないばかりか,マンションが建つかもしれないが,被控訴人マンション北棟と同南棟との間隔と同程度の間隔が確保される,プライバシーや日照について被控訴人マンションの住民への配慮がされるなどと誤解を招くような説明をしている
したがって,控訴人らは,上記の説明義務を怠ったというべきである。
(4) 控訴人らは,①本件マンションの日影による日照阻害に違法がないのであるから,これに関し控訴人らに説明義務違反があるとはいえない,②被控訴人マンションないし六甲アイランドは必ずしも優れた住環境を有しているとはいえず,被控訴人マンションに日影規制等が及ばないことは価格上有利な事情であるから,本件要綱の適用区域に指定されていないこと及びその意味など,日影規制等の詳細を説明すべき義務はない,③宅地建物取引業法による日影規制の説明義務は,取引の目的不動産の周辺の建物にまでは及ばないなどと主張する。

しかし,上記①の主張については,被控訴人らの主張する説明義務は,被控訴人マンションの購入を検討するに当たって重要な情報に関するものであって,日影による日照阻害を前提とするものでないから,日照阻害に違法性がなくても,説明義務違反がないとはいえない。上記②の主張については,被控訴人マンションないし六甲アイランドが優れた住環境を有していることは前記説示のとおりである。また,建物の敷地について日影規制等が及ばないことは,建築された建物を購入して居住する者にとっては,建物の価格の面で有利な事情となり得る反面,同様に日影規制等の及ばない隣接地上の建物によって日照を阻害されるおそれがあるという点で,むしろ不利益な事情というべきであるから,同主張も採用できない。上記③の主張は,宅地建物取引業法による説明義務が,控訴人らの説明義務の全部を画するものではないから,これを採用することもできない。
したがって,控訴人らの上記主張は,控訴人らに説明義務違反があるとの前記判断を左右しない。

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