医療事故調査制度の実情と課題

表題のシンポジウムに参加してきました。

 

医療事故調査制度が施行されて半年を経たわけですが、この制度の趣旨は医療安全の確保と医療事故の再発防止とのことです。

 

航空事故調査委員会に似ていますね。

 

患者側代理人弁護士は、きちんと調査されるだろうか、という点に疑問を呈されました。

 

どの分野でも問題になる点の底流は同じだな、と改めて感じます。

 

やはり、当該医療機関で公正な調査というより訴訟などにならないような意図をもった調査になるのではないか。

客観性・専門性を確保する仕組みがないのではないか。

第三者機関の検証機能は大丈夫なのか。

調査報告書というペーパーで報告され保身が優先され遺族が蚊帳の外におかれる

 

というものです。

 

先生は、当事者には、強い不信・不安があるので、保身を優先することは信頼関係を破壊することになる、と指摘されました。

 

今後、調査に協力しなければ、ペナルティが必要ではないか、との指摘などもされました。

 

ところで、刑事事件はあまりにメジャーなので、家裁事件について比較してみたいと思います。

 

調査官調査においては、公正に調査がなされるだろうか、という点ですが、家事事件でも同じ問題があります。名古屋家裁では、すでに調査をする前からインテーク意見というのをつけて結論に沿った事実のみひろうという作業をしています。つまり「結論ありき」で公平ではないのですが、裁判所が他方に肩入れする理由はないので肩入れしてもらえなかった方は裁判所に対する不信感を特に募らせるものです。

 

客観性・専門性を確保する仕組みは大丈夫か、ということですが、調査官報告書と航空事故調査報告書を比較対象すると、全く客観性・専門性が異なります。まず家裁の事件は主観的であり、「それはあんたがそう思っているだけではないの」と、多くの賛同を得られないだろうなという意見が書かれています。どうせ「公開されないからめちゃくちゃでいい」という発想が底流に流れているような気がします。家裁も、調査官報告書にすべてが記載されているわけではない、というのです。医療でも同様に、口頭で報告して当事者であっても説明を受けられない、こうした隠された真実で、説得力のない説示はますます裁判所に対する不信感を強める結果に終わることになります。また、専門性ですが、患者側医療弁護士が指摘したのは、なぜ文系の知識者が入っているのだ、という指摘をされました。つまり、門外漢では分からないのではないのでは、という指摘で、こういう委員は往々に発言しないでお飾りで終わってしまうとの指摘がありました。患者の方は、訴える場所が全くない、という気持ちをお話しされましたが、これは、様々な分野で共通することではないか、と思います。そして、専門性の担保といいますが、医師、看護師、主婦連などは、専門性担保はあるのでしょうが、家裁調査官はなぜ専門性があるのか分かりません。裁判所の内部の研修を受けたら専門家というのは、あまりにお手軽といわざるを得ないです。臨床心理士や児童福祉士、幼稚園教諭など外部者でも様々なものがあるものの、なぜ調査官、しかも20代前半の女性を専門家といわれても、少なくとも社会的承認を得ることは難しいと言わざるを得ません。

 

そして、第三者機関の検証機能は大丈夫か、ということです。しかし、医療事故の場合は、メンバーに不満はあれど「第三者」なのでしょうが、家裁の場合は裁判官の部下が調査をするわけです。そうすると、裁判所の暫定的心証からそれに基づいて調査命令を出すのですから、調査官が裁判官のオーダーに即さない事実は、刑事と同様握りつぶされてしまいます。そういう意味では、医療事故調査制度の方が第三者委員会を構成するという意味で、公正性や検証機能は大丈夫といえない!というのがシンポジウムの結論ですが、検察や家裁などもっとひどいところはいくらでもあるということになるでしょう。

 

とても共感するのは、こうした調査は、遺族・家族・被疑者等、もっとも利害関係がある人が蚊帳の外ということです。

調査報告書を交付して説明をしてくれるのか。⇒裁判所では「調査理由がすべて調査官報告書に記載されるわけではない」と書かれたこともありましたが、

保身を優先すると遺族の不満を増大する。⇒家裁でも「結論ありき」では、信頼関係が破壊されます。

 

調査官に調査の経緯を聴いても応えませんし、調査自体の主体、その状況なども非公開ですが、今さら被疑者であるまいし・・・。

 

医療事故調査制度に関連して藤田保険衛生大学病院から、「藤田あんしんネットワーク」の説明がありました。

 

藤田では、医療安全を学問としての確立を目指しているとのことで、情報公開もされることになるでしょう。

 

医療安全管理室には、専従教授、専任医師、専従看護師が配置され、上部組織である医療の室・安全対策部には弁護士も配置されています。

 

この要請なのですが、年間100件から195件程度の急変について報告されています。急変は事故ではありませんが、その予兆は早朝から生じていることが多いのであって、インシデントに対応するMETという部隊がいるようです。初期態勢が重要ですが、聞き間違いでなければ、METが初期対応を藤田では負っているということになるのでしょう。

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