非上場株式の評価

最高裁平成27年3月26日が、非上場株式の評価について判断を示しています。

 

本件は,Yを吸収合併存続株式会社,Aを吸収合併消滅株式会社とする吸収合併に反対したA株主のXが,Aに対して株式買取請求権を行使し,会社786条2項に基づいて価格の決定の申立てをした事案である。弁護士からは肯定的意見が多いようであるが、公認会計士からは非上場であるのに非流動性を考慮しないのは釈然としないとの意見が寄せられている。この判決は、裁判所の合理的裁量に一定の制約を課すものと思われ実務上の意義を有すると思われる。
Aは非上場会社であるところ,原審(札幌高決平成26・9・25,平成26年(ラ)第151号)は,収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法)を用いてA株式の買取価格を決定するにあたって,市場性がないことを理由とする25%の減価を行った(非流動性ディスカウト)。
しかし本決定は,①非上場会社の株式の買取価格を決定するにあたり,どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,申立てを受けた裁判所の合理的な裁量に委ねられている,②しかし,一定の評価方法を合理的であるとして,当該評価方法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容・性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されない,③非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない,④吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは相当でない,と判示して,非流動性ディスカウントを行う前の価格を買取価格として決定した(破棄自判)。
本決定は,会社786条2項に基づいて非上場会社の株式の価格を決定するにあたって,非流動性ディスカウントを考慮することができるかにつき,最高裁が初めて判断を示したものである。この点に関しては,東京高決平成22・5・24(平成20年(ラ)第637号)が,「株式買取請求権は,少数派の反対株主としては株式を手放したくないにもかかわらずそれ以上不利益を被らないため株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置として位置付けられるものであるから,…非流動性ディスカウント…を本件株式価値の評価に当たって行うことは相当でない」と判示した一方で,本件の原審のように非流動性ディスカウントを考慮するものもあり,実務は統一されていなかった。また,学説においては,「取引相場のない株式等は,簡単に譲渡できない分だけ上場会社の株式に比して経済的価値が低く,したがって,割引率として後者〔上場会社〕に関係する数値を用いた場合には,算出された金額をいくらか減価することにより調整すべきである」との見解も有力であった(江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』19頁)。
収益還元法は,将来の各期の純利益を現在価値に割り戻し,その総和をもって企業(=株式)の価値を算定するものであって,売却による価値の実現化はこの評価手法のもとでは予定されていないのであるから,理論的には本決定の説くとおり,非流動性ディスカウントを考慮するのは相当ではない。しかし他方で,上記の有力説の指摘もまた傾聴すべき点を含んでおり,本決定を前提とした場合には,今後,非上場会社株式の価格の算定にあたって割引率の妥当性がより厳密に問われることになろう。
以上のとおり,本決定は,従来は不統一であった論点について最高裁がはじめての判断を示したものとして,実務上大きな意義を有するものである。

 

会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は,吸収合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い,その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるところ(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照),非上場会社の株式の価格の算定については,様々な評価手法が存在する.。

しかしながら,どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。

しかしながら,一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。

非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。

 

吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。
したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。

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