固定資産評価の取消最高裁判決

最高裁が、固定資産評価基準に従って決定される土地の価格と適正時価との関係についての判断を示しました。不動産評価に関わる最高裁判決は近時では珍しいので、取り上げたいと思います。

 

結論①:評価される土地に適用される基準によって算定するものは適正な時価算定根拠として一般的な合理性を有する。

結論②:当該土地の登録価格がその評価方法に従って決まったX額を上回っていなけれ  ば、特段の事情がない限り、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正時価を上回るものではないと推認できる。

 

本件は、固定資産標準の登録価格が争われたものですが、行政庁には一般的に裁量権があるわけですから、結局、それが違法な登録価格となるのは、①基準で計算した価格を上回る場合、②上回らないが、その評価方法が時価算定方法として合理性がない場合、つまり結論②による推論を覆すだけのリーズナブルな理由があって、結局適正時価を上回っている場合-との判断を示しました。

 

適正時価よりも高く登録されてしまえば固定資産税が高くなるので国民の側は不利益を被ることになるわけです。

今回の判例も、昭和38年自治省告示第158号による評価基準が妥当なベースラインとして引かれている、ということを確認しましたが、この告示による評価を上回らない場合においても一定の場合、つまりその評価方法が算定方式としてリーズナブルではない、という合理的理由を論証できれば違法になる、という余地を示したものとして注目できるものではないか、と思います。

 

もっとも、本件は、職業裁判官出身の千葉勝美の補足意見があります。そして、納税者の側が、アドホックな形で鑑定意見書を証拠として提出してきて、この土地の評価は2000万円が妥当です。従って、告示による評価が3000万円であるのは不当です、という主張の仕方は認められない、ということを補足している点としては、やはり国側にも有利な判断ともいえるかもしれません。

 

固定資産税というのは賦課税ということもあり、最高裁は申告税よりもその判断は厳しくなる傾向にあります。固定資産税の賦課処分が取り消され行政の現場が結構混乱したというのが先の最高裁判決であり、そのことを意識して「公平かつ効率的な処理」ということを述べているのかもしれません。

 

そこで、土地所有名義人が独自の鑑定意見書を提出して、登録価格を争おうというときも、アドホックに鑑定意見書をぶつけるというスタイルでやるのはどうかということをいっています。

 

そして、今回の判例で示された告示の評価基準に定める評価方法によることができない特別の事情、要するに時価算定にあたりリーズナブルではないということを主張立証するべきとされたということになります。

 

そういう意味では、告示による評価基準がベースラインにあることが確認されて、それによる不合理さの主張立証が求められていくということになる、ということになるわけです。

 

もっとも、固定資産税というのは、「時価」を基準とするのに、他方で公平と効率性を持ち出されても、時価と異なる金額を登録価格とされてしまって「公平と効率」といわれてもな、という感想を持ちます。

 

もちろん、この点を裁判、前提となる不服申立で正すことが認められており、この判断枠組みの一端が本判例により、明らかにされたと考えられます。

 

【判文】

 地方税法は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたもの(以下,これらの台帳に登録された価格を「登録価格」という。)とし(349条1項),上記の価格とは「適正な時価」をいうと定めている(341条5号)ところ,上記の適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。
 したがって,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば,その登録価格の決定は違法となる(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照)。
イ また,地方税法は,固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣(平成13年1月5日以前は自治大臣。以下同じ。)の告示に係る評価基準に委ね(388条1項),市町村長は,評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(403条1項)。
 これは,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村全体の評価の均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するために,固定資産の価格は評価基準によって決定されることを要するものとする趣旨であると解され(前掲最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照),これを受けて全国一律に適用される評価基準として昭和38年自治省告示第158号が定められ,その後数次の改正が行われている。これらの地方税法の規定及びその趣旨等に鑑みれば,固定資産税の課税においてこのような全国一律の統一的な評価基準に従って公平な評価を受ける利益は,適正な時価との多寡の問題とは別にそれ自体が地方税法上保護される。
 したがって,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録価格の決定は違法となる。
ウ そして,地方税法は固定資産税の課税標準に係る適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準の定めを総務大臣の告示に係る評価基準に委任したものであること等が認められる。
 このことに照らすと,評価対象の土地に適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり,かつ,当該土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格がその評価方法に従って決定された価格を上回るものでない場合には,その登録価格は,その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である(最高裁15年7月18日第二小法廷判決,最高裁平成21年6月5日第二小法廷判決参照)。
エ 以上に鑑みると,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは,当該登録価格が,① 当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るとき(上記イの場合)であるか,あるいは,② これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合(上記ウの推認が及ばず,又はその推認が覆される場合)であって,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき(上記アの場合)であるということができる。

(2)ア 本件敷地登録価格の決定及びこれを是認した本件決定の適法性を判断するに当たっては,本件敷地登録価格につき,適正な時価との多寡についての審理判断とは別途に,上記(1)エ①の場合に当たるか否か(前記2(2)の建ぺい率及び容積率の制限に係る評価基準における考慮の要否や在り方を含む。)についての審理判断をすることが必要である。
 そうすると,原判決には,土地の登録価格の決定が違法となる場合に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理不尽の違法があるといわざるを得ず,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 また,本件敷地部分の評価において適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるか,その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるか等についての審理判断をすることが必要である。
 しかるに,原審は,前記3のとおり評価基準によらずに認定した本件敷地部分の適正な時価が本件敷地登録価格を上回ることのみを理由として当該登録価格の決定は違法ではないとしている。
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