有期契約の場合と労働契約法19条2号

会社の雇止めが無効であるとして,労働契約上の権利を有する地位の確認と雇止め後の賃金等の支払を求め,原審の請求棄却に対し,原告が控訴した事案。控訴審は,原告の肩腱板断裂は労働災害であるが,雇用契約上原告の職種は配送業務に限定されており,雇止めの時点で同職務の遂行が困難であったとした上で,会社に原告の職種を変更して雇用を継続するよう配慮する義務があるとはいえず,労働基準法19条1項の解雇制限の趣旨が本件のような場合にまで及ぶとはいえないとした判例として東京高裁平成27年6月24日があります。労働契約法19条2号については、法定更新の制度がありますね。条文は、有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
とされています。そうすると、本件のように復職のケースはどうなるのだろうか、といっても、有期契約にブランクがある場合、労働者が3~4か月経過して契約締結の意向を伝えた場合は、労働契約法19条2号の類推適用はない、と判断されることになります。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次項のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,5頁19行目の「平成25年」を「平成26年」に改める。
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 本件雇止めの時点で,控訴人は本件配送業務に従事することができたとする点について
ア 控訴人は,2kg以上の物を持てるのは3か月後であるとする本件パンフレットは,腱板断裂手術を受けた全患者に一律に交付されるものであると主張し,A医師の回答書(甲31)には,これに沿う記載がある。しかし,A医師は,平成26年3月27日にB支店長やDと面談した際,同医師の所属する病院のスタッフが,腱板断裂手術を受けた患者に対し,再断裂の可能性をゼロにするために少なくとも1年間くらいは,力仕事はしないようお願いしている等,本件パンフレットの記載(重労働は1年間極力避ける。乙3・4丁目)に沿う発言をしており(甲11・35頁),本件パンフレットの内容が控訴人に妥当しないとはいえない。
また,控訴人は,控訴人の腱板断裂は幅2.5cm,奥行き3.0cmで,中断裂(断裂の幅と奥行きが3cm×3cm以下のもの)に分類されるものであることを前提に,本件パンフレットの記載は,中断裂の腱板断裂手術を受けた者にとっては必要以上の配慮をするものであると主張し,E医師の意見書(甲32。以下「E意見書」という。)の中にはこれに沿う部分も存在する。しかし,E意見書は,小断裂・中断裂の患者で手術が順調に行えたという前提の下で,2kg以上の物を持てるのは3か月後であるとする本件パンフレットを厳しすぎるとしているにすぎず,また,あくまで一般論であると断っているのであって,これをもって控訴人の主張を裏付けるには足りない。かえって,E意見書は,術後3か月半で10kgのものを両手で持ち上げることができても必ずしも驚かないとしつつも,持ち上げないことに越したことはないとも明記しているのであって,E医師が,10kgのものを仕事上日常的に持ち上げるような事態は控訴人のような状況にある者にとって危険であると考えていることがうかがえる。
イ 控訴人は,A医師は,被控訴人から本件配送業務について,実際に想定されている作業よりも過大に説明を受けているにもかかわらず就労が可能であるとの結論に至っていると主張する。
しかし,Dの説明が過大であるとは認められず(甲11の36頁では,台車を押していくことを前提に「百何キロぐらいある?」との発言もあるが,100kgを超えるものを持ち上げると説明したとは読み取れない。),また,A医師は,それを受けて「可能性でいえば,切れない可能性ももちろん高いでしょうし,切れる可能性もありますけれどもという,就労自体はできると思いますよね。」という発言はしているが(同37頁),力仕事は,すればするだけ再断裂のリスクが上がることも認めており(同38頁),控訴人の就労可能性については,シフトを変える等により就労させることを想定していたとも述べているのであって(同40頁,42頁),従前から控訴人が従事していた本件配送業務そのものを想定してそれが可能であると考えていたとは認められない。
さらに,控訴人は,再断裂の可能性は限りなく低かったと主張するが,A医師の補足意見(甲30)中の「医師として総合的に判断し再断裂の可能性はゼロではありませんが,決して高くはなかったため,従前の職務に復職可能であると診断しました。」との記載が,再断裂の可能性が限りなく低いとの趣旨とは理解できない。
以上を総合すると,本件雇止めの時点で,控訴人には従前の職務に復帰することによって一定の割合で左肩腱板再断裂のリスクがあったと認められるのであり,控訴人が本件配送業務に復帰可能な状態にあったとの控訴人の主張は採用できない。
(2) 控訴人は,被控訴人には,控訴人の当直業務への配置可能性を検討すべき義務があったとして種々主張するが,いずれも採用できない。
ア 控訴人は,就業規則上勤務箇所や職場の変更が可能とされていたと主張する。
しかし,控訴人と被控訴人の雇用契約上は,職種は本件配送業務に限定されていたことは争いがないのであるから,被控訴人に,控訴人の職種を変更して雇用を継続するよう配慮する義務があるとはいえない。
イ 控訴人は,控訴人を当直業務に配置換えをすることは可能であり,現にB支店長もこれを検討していたと主張する。
(ア) 補正の上引用した原判決2頁5行目から9行目,16行目から18行目のとおり,平成23年3月17日付け雇用契約書(甲3の13)における「従事すべき業務の内容」欄に「当直及び営業」との記載がなされたこともあったが,平成25年9月26日の最後の更新の際は,雇用契約書上,「従事すべき業務の内容」欄に「配送(それに付随する業務全般)」と記載されている。
これを前提として検討するに,証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人における当直業務は,売上金収納,釣銭準備金の用意,緊急時の商品発注手配等の緊急時の対応,金銭の管理,商品入荷の確認と在庫管理,電話対応など,性質上配送業務に付随するとはいえない業務も含まれていることが認められるのであり,控訴人を当直業務に従事させるとすれば,上記契約における職種の変更をしなければならないし,また,当直業務の実態は,配送業務を主な業務とする者が月2回ないし4回程度の当直業務を行うにすぎないものであったことが認められるのであるから,被控訴人において,職種変更を伴い,また,専従者を配置する必要性も認められない当直業務に控訴人を配置換えすることが可能であったとはいえない。
(イ) また,弁論の全趣旨によれば,B支店長が,平成25年12月ころ,控訴人に対し,平成26年2月の復帰が可能であることを前提に,当直業務への補助的業務に従事させることを検討する旨の発言をしたことがあることは認められるが,これは,その文脈からみて,好意による特別の配慮を検討する旨述べたにすぎないことが明らかであり,また,前提となる平成26年2月の控訴人の職場復帰は実現しなかったのであるから,上記発言を根拠に被控訴人に控訴人を当直業務に配置する義務があったとはいえない。
ウ 控訴人は,肩腱板断裂は労働災害であり,雇止めの可否については慎重に検討すべきであると主張するが,控訴人において労働契約で限定された職務の遂行が困難である上,上記イ(ア)のとおり,当直業務は独立の配置換えの対象となるような業務とはいえないなど,本件における事情を総合すると,労働基準法19条1項の解雇制限の趣旨が本件のような場合にまで及ぶとはいえない。
エ 控訴人は,被控訴人としては,平成26年3月31日の時点で雇止めの可否を早急に判断するのではなく,1度は契約を更新した上で,経過観察のため休職期間を延長すべきであったと主張するが,このような義務を発生させる法的根拠があるとは認められず,採用できない。
(3) 控訴人は,被控訴人が,既に何回も腰痛を発症して休職しているCに対しては,車内販売等他の業務に就かせることも検討しており,平成26年3月に直ちに雇止めはせず,いったん更新をした上で同年9月に雇止めをしていることと対比して,控訴人に対して同じ措置を執らずに雇止めをした真の目的は,本件組合の委員長である控訴人を嫌忌し,これを排除するという不当なものであったことは明らかであると主張する。
しかし,Cと控訴人では疾病の内容,その他の事情が異なるのであるから,その対応を異にしたことをもって直ちに控訴人主張の不当な目的を推認することはできないし,その他被控訴人が控訴人に対し雇止めをしたのが,控訴人の組合活動を嫌忌したことによるものと認めるに足りる証拠はないのであって,控訴人の主張は採用できない。
3 結論
したがって,控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

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