お役立ちコラム

「悪」の問題って―ライプニッツで甥っ子と繋がる。

甥っ子が、僕が弁護人をしていると、ミッション系の学校に通う甥っ子が議論を吹っかけてくる。いわゆる神が完全ならばなぜ故「悪」が存在するのかという、神義論とか、弁神論とか、いわれている議論をふっかけられる年代に成長したのだなあとしみじみ感じつつ。

 

すなわち、「悪」も神が想像したものなのか、というこということだ。

 

曹洞宗に親和的な僕には、どうでもいい話しだが、欧米では昔から有神論者には4つのテーゼがある。その際、問題になるのは、「悪」というのは神が作ったかということだ。ダンラザーがイブニングニュースから降板する際の別れの挨拶を思い出す。彼は、ニューヨークでの同時多発テロや津波を引き合いに出して、傷ついた私たちの心は修復の過程にある、と挨拶した。

 

4つのテーゼというのは、①神は全能である、②神は全知である、③神は完全な善である、④この世には悪が存在するのだ。

 

キリスト教徒にとっては自然なことでも、哲学のアプローチからは、善しかない世界を作れば良いでしょう、ということになる。甥っ子のシュシュからも昔、「僕は世の中を平和にするために勉強をしているんだ」という言葉を聴いたことがある。

 

そのとおりで、哲学からは、神は全能であるのに、意図的に悪を創造したのだ、といわれてしまうのだ。

 

その回答として提供されるのは、「この世に悪があるのは、神のせいではない」というものだ。

 

つまり、神は世界は創造したが、人間が悪さをしていると考えるのだ。そのレトリックというのは、神は人間に自由意思を与えたが、悪をなくすには自由意思を与えるのをやめる必要がある。しかし、人間が自由意思を与えるのを止めるのでは、現実の世界が悪いものになってしまいます。だから神は最善の選択をして、人間に自由意思を与えて結果として悪が生じたということになる。結果的に、このレトリックは、「人々に勤勉であれ」と説くことになります。

 

しかし、自然災害が多い我が国では、もし全能の神がいるなら東日本大震災など起きるはずがない、日本では、八百万の神や仏教が調和し、絶対神の宗教があまり広がらない感覚というものかもしれない。

 

意外なところで、ライプニッツが出てくる。

 

弁護士であれば、交通事故の損害計算でライプニッツ係数でお馴染みだ。そのライプニッツが、回答を与えている。キリスト教の影響をそれなりに受けている甥っ子くんと僕がライプニッツで異なる視点で繋がる。

 

例えば、津波であっても、「津波のない社会は、ある社会よりも悪い」と論じる。数学者らしく、ライプニッツによれば、例えば、天気の変化を支配する見事な法則を見出すことができなくなるからだ。

NHKも弁護士も報道や弁護活動に委縮がでないように。

NHKの経営委員が、NHK会長に「報道現場の委縮克服」などを求める内容の申入書を提出した。

 

文書では、NHKの幹部がニュース番組の責任者に対して森友学園問題を「トップニュースとして伝えるな」と指示をしたことが問題視され、また、森友問題を取材してきた記者が人事異動で記者職から外され左遷された。

弁護士会においても、懲戒権を背景に副会長が、特定の立証活動を特定の懲戒事由とまったく関係ないのに「リベンジポルノ」と罵倒したり、裁判所に同一事件で同一日に2つ期日を開催するようごり押しをして飲ませるなどの行為が分かっている。加えて、公共事業的意味合いを持つ後見人、アイズ委員会を特定のメンバーだけで既得権化し、特定の詳しい人物を排除するなどの行為もあるのではないかと憶測を呼んでいる。

 

そして、弁護士自治の本懐は、役所に顔をうかがわないように、弁護活動をする点にあるはずであるが、かえって理事者のパワーハラスメントの道具にされているとすれば、日大と構造は同じといえる。NHKの経営委員は独立した立場から、現場の職員を委縮させるような人事権を含む権限の濫用を退けるよう要求している。そして、当該記者も異動は不当かつ不合理として中止を求めている。

 

弁護士会も、一部のインナーで運営をされており、会内民主主義が根付かなくなっている。今後、理事者が懲戒権などの権限を背景にパワーハラスメントをしてくる場合、告発をしたり、独立した経営委員が必要になってくるのではないかと思われる。特に、一部の既得権益グループ化は相当ではなく、また、役所の顔色ばかりうかがっているのでは弁護士自治の元来の意味が喪失しているといわざるを得ない。

 

そうした弁護委縮の克服をすることをNHK同様、求めるべきであり、弁護士会が裁判所を忖度することが跋扈すれば、それこそ弁護士自治の自殺行為といえよう。

定年後の再雇用、最高裁格差を容認―最高裁が初判断

運送会社「長沢運輸」(横浜市)で定年退職後に嘱託社員となった運転手3人が起こした訴訟で、定年後の労働条件差別が認められるかが問題となっていた。既に名古屋高裁でトヨタ自動車事件が確定しており、同一の論点、すなわち定年後雇用を占う上での注目の最高裁判決が出されたといえる。

最高裁は、長期雇用を前提とした正社員と定年後再雇用の嘱託社員とで会社の賃金体系が異なることを重視。定年後再雇用で仕事の内容が変わらなくても、給与や手当の一部、賞与を支給しないのは不合理ではないと判断した。このように、長期雇用を前提としていないことは、給与体系を変える合理的根拠としていることが指摘されます。

全体的に長澤運輸事件判決とトヨタ事件判決が相反していたものの、結論においては、差別を認める長澤運輸東京高裁に軍配が上がり、藤山雅行裁判官(定年により退官)のトヨタ事件判決は実質的に規範的効力を失ったものといえます。

なお、休日を除く全ての日に出勤した者に支払われる「精勤手当」を嘱託社員に支給しないのは不合理で違法と判断しましたが、些末なことであり、事実上、再雇用は格差を容認し、再雇用に広い門戸を開いた結果となったといえそうです。

この論点は、再雇用後の待遇が争われたもので、いわゆる均衡待遇が争われたハマキョウレックス事件とは、取り扱う論点が異なるといえます。しかし、ハマキョウレックス事件では、予想外に実質的な判断がなされており、「あてはめ」次第では、格差自体は容認されるものの、一部は容認されない可能性があります。労務に詳しい弁護士・社会保険労務士の名古屋駅ヒラソル法律事務所にご相談ください。

背景には、公的年金の引き揚げを背景に、高齢者雇用安定法は、65歳までの継続雇用をもとめていますが、75パーセント賃金を切り下げることを条件とした助成金制度も存在しています。ゆえに、再雇用を条件に賃金の引き下げは広く行われていました。

長澤運輸がアファームされたポイントは、

・定年後の再雇用の嘱託社員と正社員とは賃金体系を明示に区別している

・定年時に退職金の清算が行われている

・年金受給前は調整金で調整を行っている

・年収が退職前の79パーセントになるように配慮されている

以上を指摘し、合理的であると指摘したものです。定年後の再雇用は雇用維持の観点から妥当な判決ですが、労働者側には厳しい内容となりました。

ハマキョウレックス事件、長澤事件判決と均衡待遇

浜松市の物流会社「ハマキョウレックス」事件の最高裁判決が出されました。いわゆる丸子警報器事件と同じく均衡待遇や信義則が問題になった事案でした。

契約書は、同じ仕事をしている正社員と待遇に差があるのは、労働契約法が禁じる「不合理な格差」にあたると訴えた訴訟の判決が6月1日、最高裁第二小法廷でありました。

山本庸幸裁判長は、正社員に支給されている無事故手当や通勤手当などを契約社員に支給しないのは不合理だと判断し、会社側が支払うよう命じた二審判決を支持した。最高裁がこの争点について判断を示したのは初めてです。

原告は同社で契約社員として働くトラック運転手。正社員に支給されている無事故手当▽作業手当▽給食手当▽住宅手当▽皆勤手当▽通勤手当―などの支払いを求めて訴訟を起こした。

一審・大津地裁彦根支部は、通勤手当について「交通費の実費の補充で、違いがあるのは不合理だ」と認定。二審・大阪高裁はさらに、無事故手当と作業手当、給食手当を支払わないのは不合理だと判断し、双方が上告していた。

この日の第二小法廷判決は二審が「不合理」と認めた四つの手当に加え、「皆勤手当」についても正社員に支給しながら契約手当に支給しないのは「不合理」と判断したものです。

原告が皆勤手当の支給要件に該当するかを審理させるため、大阪高裁に差し戻した。一方、住宅手当については、正社員と契約社員の間に転勤の有無など差があることをふまえ、契約社員に支給しないのは「不合理といえない」と原告の訴えを退けた。

また、横浜市の運送会社「長沢運輸」事件で定年退職後に再雇用された嘱託社員のトラック運転手3人が、給与が下がったのは「不合理な格差」にあたるとして訴えた訴訟の判決も同日、同じ第二小法廷で言い渡された。

判決は、出勤を奨励する精勤手当と、算定の際に精勤手当の額が影響する超勤手当について、正社員と嘱託社員に支給額の差があるのは「不合理」と判断。具体的な賠償額を審理するため、審理を二審・東京高裁に差し戻した。

ただ、それ以外の住宅手当や家族手当などについては、正社員と再雇用された嘱託社員に差があるのは「不合理ではない」として原告側の訴えを退けた。

判決を受け、ハマキョウレックスは「判決の内容については真摯(しんし)に受け止めます。今後の対応については、弁護士と判決文の内容を精査して対応していきたい」、長沢運輸は「今回の最高裁判決は、精勤手当以外は会社の主張が全面的に認められたと受け止めています。精勤手当の不支給を違法とされた部分については、判決の内容を精査して、差し戻し審での対応を検討します」とのコメントをそれぞれ出した。

以下のとおり、ハマキョウレックス事件は、均衡待遇が論点となったもので給与が細分化されて、各手当の支給をしないことの適法性が問題となった事例です。長澤運輸事件はそこまでではありませんが、同じ論点です。

(1) 労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契 約労働者」という。)の労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と 無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては,当該労 働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務 の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮し て,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者については,無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働 者」という。)と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図る ため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすること を禁止したものである。

そして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があ り得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の 事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して,その相違が不合理と認められ るものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。

(2) 本件確認請求及び本件差額賃金請求について ア 本件確認請求及び本件差額賃金請求は,有期契約労働者と無期契約労働者と の労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合,当該有期契約労働者の労働 条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるという解釈 を前提とするものである。 イ 労働契約法20条が有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違は 「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや,その趣旨 が有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあること等に照らせば,同条の規定は 私法上の効力を有するものと解するのが相当であり,有期労働契約のうち同条に違 反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される。

もっとも,同条は,有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の 違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり,文言上も,両者の労働条件の 相違が同条に違反する場合に,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である 無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。

そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反 する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対 象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが 相当である。

また,上告人においては,正社員に適用される就業規則である本件正社員就業規則及び本件正社員給与規程と,契約社員に適用される就業規則である本件契約社員 就業規則とが,別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば,両者の 労働条件の相違が同条に違反する場合に,本件正社員就業規則又は本件正社員給与 規程の定めが契約社員である被上告人に適用されることとなると解することは,就 業規則の合理的な解釈としても困難である。

ウ 以上によれば,仮に本件賃金等に係る相違が労働契約法20条に違反すると しても,被上告人の本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものと なるものではないから,被上告人が,本件賃金等に関し,正社員と同一の権利を有 する地位にあることの確認を求める本件確認請求は理由がなく,また,同一の権利 を有する地位にあることを前提とする本件差額賃金請求も理由がない。

(3) 本件損害賠償請求について ア 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の 定めがあることにより相違していることを前提としているから,両者の労働条件が 相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方,期間の定めがあ ることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は,労働条件の相違が不合 理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものという ことができる。

そうすると,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者 と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたもので あることをいうものと解するのが相当である。 これを本件についてみると,本件諸手当に係る労働条件の相違は,契約社員と正 社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであるこ とに鑑みれば,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるというこ とができる。したがって,契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件は,同条 にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができ る。 イ 次に,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件 の相違が,職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならないと しているところ,所論は,同条にいう「不合理と認められるもの」とは合理的でな いものと同義であると解すべき旨をいう。しかしながら,同条が「不合理と認めら れるものであってはならない」と規定していることに照らせば,同条は飽くまでも 労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解することが文理 に沿うものといえる。また,同条は,職務の内容等が異なる場合であっても,その 違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定である ところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては,労 使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。 したがって,同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無 期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであ ることをいうと解するのが相当である。 そして,両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴う ものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当 該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を 妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される。 ウ 上記イで述べたところを踏まえて,本件諸手当のうち住宅手当及び皆勤手当 に係る相違が職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かにつ いて検討する。

(ア) 本件では,契約社員である被上告人の労働条件と,被上告人と同じく上告 人の彦根支店においてトラック運転手(乗務員)として勤務している正社員の労働 条件との相違が労働契約法20条に違反するか否かが争われているところ,前記第 1の2(6)の事実関係等に照らせば,両者の職務の内容に違いはないが,職務の内 容及び配置の変更の範囲に関しては,正社員は,出向を含む全国規模の広域異動の 可能性があるほか,等級役職制度が設けられており,職務遂行能力に見合う等級役 職への格付けを通じて,将来,上告人の中核を担う人材として登用される可能性が あるのに対し,契約社員は,就業場所の変更や出向は予定されておらず,将来,そ のような人材として登用されることも予定されていないという違いがあるというこ とができる。

(イ) 上告人においては,正社員に対してのみ所定の住宅手当を支給することと されている。この住宅手当は,従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給さ れるものと解されるところ,契約社員については就業場所の変更が予定されていな いのに対し,正社員については,転居を伴う配転が予定されているため,契約社員 と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。 したがって,正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で,契約社員に対し てこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができ るものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当た らないと解するのが相当である。

(ウ) 上告人においては,正社員である乗務員励する趣旨で支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員について は,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,出勤する者を確保すること の必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。 また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中 核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえな い。そして,本件労働契約及び本件契約社員就業規則によれば,契約社員について は,上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされている が,昇給しないことが原則である上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事 情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の皆勤手当を支給する一 方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理である と評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認めら れるものに当たると解するのが相当である。

(4) 以上によれば,本件確認請求及び本件差額賃金請求の全部並びに本件損害 賠償請求のうち住宅手当に係る部分を棄却すべきものとした原審の判断は,いずれ も正当として是認することができる。これらの点に関する論旨は採用することがで きない。 他方,本件損害賠償請求のうち,労働契約法20条が適用されることとなる平成 25年4月1日以降の皆勤手当に係る部分を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

この点に関する論旨は 理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。 なお,その余の請求に関する附帯上告については,附帯上告受理申立て理由が附 帯上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

第3 上告代理人上野勝ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを 除く。)について 1 原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,契約社員と正社員の無事 – 10 – 故手当,作業手当,給食手当及び通勤手当(以下「本件無事故手当等」という。) に係る相違は,期間の定めがあることにより生じた相違であり,かつ,不合理と認 められるものに当たるから,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年 4月1日以降に上告人がこのような相違を設けていることは不法行為に当たるとし て,本件損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。 2(1) 契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件が,労働契約法20条に いう期間の定めがあることにより相違していると解されることは,前記第2の2 (3)アで述べたとおりである。したがって,両者の間で本件諸手当のうち本件無事 故手当等に相違があることが同条に違反するか否かは,当該相違が同条にいう不合 理と認められるものに当たるか否かによることとなる。 (2)ア 上告人においては,正社員である乗務員に対してのみ,所定の無事故手 当を支給することとされている。この無事故手当は,優良ドライバーの育成や安全 な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給されるものであると解されるとこ ろ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないか ら,安全運転及び事故防止の必要性については,職務の内容によって両者の間に差 異が生ずるものではない。また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向を する可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事 情により異なるものではない。加えて,無事故手当に相違を設けることが不合理で あるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の無事故手当を支給する 一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であ ると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認め られるものに当たると解するのが相当である。

イ 本件正社員給与規程は,特殊作業に携わる正社員に対して月額1万円から2 万円までの範囲内で作業手当を支給する旨を定めているが,当該作業手当の支給対 象となる特殊作業の内容について具体的に定めていないから,これに – 11 – 業所の判断に委ねる趣旨であると解される。そして,被上告人が勤務する彦根支店 では,正社員に対して作業手当として一律に月額1万円が支給されている。 上記の作業手当は,特定の作業を行った対価として支給されるものであり,作業 そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であると解される。しかるに, 上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならない。また, 職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることによって,行った作業に対する金銭 的評価が異なることになるものではない。加えて,作業手当に相違を設けることが 不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の作業手当を一律に支給 する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理 であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と 認められるものに当たると解するのが相当である。

ウ 上告人においては,正社員に対してのみ,所定の給食手当を支給することと されている。この給食手当は,従業員の食事に係る補助として支給されるものであ るから,勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその 趣旨にかなうものである。しかるに,上告人の乗務員については,契約社員と正社 員の職務の内容は異ならない上,勤務形態に違いがあるなどといった事情はうかが われない。また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,勤務時間中に 食事を取ることの必要性やその程度とは関係がない。加えて,給食手当に相違を設 けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。 したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の給食手当を支給する一 方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理である と評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認めら れるものに当たると解するのが相当である。 エ 上告人においては,平成25年12月以前は,契約社員である被上告人に対 して月額3000円の通勤手当が支給されていたが,被上告人と交通手段及び通勤距離が同じ正社員に対しては月額5000円の通勤手当を支給することとされてい た。この通勤手当は,通勤に要する交通費を補塡する趣旨で支給されるものである ところ,労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるも のではない。

また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,通勤に要す る費用の多寡とは直接関連するものではない。加えて,通勤手当に差違を設けるこ とが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。

したがって,正社員と契約社員である被上告人との間で上記の通勤手当の金額が 異なるという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものである から,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当 である。 (3) 上記(1)及び(2)で検討したところによれば,本件無事故手当等に相違があ ることは,いずれも労働契約法20条に違反すると解される。なお,所論は,同条 は私法上の効力のない訓示規定であるから不法行為は成立しない旨をいうが,同条 が私法上の効力を有する規定であると解すべきであることは,前記第2の2(2)イ で述べたとおりである。

(4) 以上によれば,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年4月 1日以降において,上告人が本件無事故手当等に相違を設けていたことが不法行為 に当たるとして,同日以降の本件無事故手当等に係る差額相当額の支払を求める限 度で本件損害賠償請求を認容すべきものとした原審の判断は,正当として是認する ことができる。論旨は採用することができない。 第4 結論 以上のとおりであるから,原判決中,被上告人の平成25年4月1日以降の皆勤 手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,被上告人が皆勤手当の支給要件を 満たしているか否か等について更に審理を尽くさせるため同部分につき本件を原審 に差し戻すとともに,上告人の上告及び被上告人のその余の附帯上告を棄却する。

日本版司法取引(捜査協力型)の導入と企業向書誌セミナー

刑事事件の経験豊富な弁護士による日本版司法取引書誌セミナー

 

他人の犯罪を明かす見返りに、容疑者や被告の刑事処分を軽くする日本版「司法取引」が今日から導入されました。

ただ、対象は限定的で、現在のところは証拠の入手が困難な贈収賄、談合、脱税、粉飾決算などの経済刑法が対象となっています。

もっとも、そのこともあり、企業の従業員が取調べを受ける際、今までは弁護士がレクチャーをしたり、弁護士が代理人となったりしているなど、事実上、組織のカルチャーによって、従業員の護り方も異なっていました。これからは、弁護士が同席して司法取引をするという場面も想定されることになるでしょう。その意味で、従業員を守ったり、あるいは、上層部との利害対立が生じたりする恐れもありますね。

さて、今回は、贈収賄や脱税、談合、粉飾決算などの経済刑法が対象となります。贈収賄は今日日少ないでしょうが、脱税、談合、粉飾決算はあり得るところでしょう。

組織犯罪処罰法(いわゆる共謀罪)の成立で、治安維持法並みの処罰範囲の広がりを我が国が見せる中で、どのように自社及び従業員などの利益を擁護するのか、など関心もあるところです。また、虚偽の供述の利益による冤罪リスクもありますが、政治的判断が迫られることが、司法の局面でも増えてくるといえそうです。

「被告が裁判で収賄容疑を全面否認しているニュースを見て、申し訳ない気持ちになった。だって賄賂なんて、本当に渡してないんですから」「取り調べに徹底抗戦していたら、関係のない創業家の家の塀にずらりと捜索の車が並び、私的な交遊まで調べられ始めて……。結局最後は検事が言うままに、贈賄を認める調書に署名しました」

上場企業幹部の証言である。真相は分からない。だが平成に入り捜査を受けた側からの、東京地検特捜部に対するこうした批判の声が目立つようになった。内容はほぼ同じだ。「自分たちが描いたストーリーで突っ走る」「強引な調べで一方的な調書を作る」

しかし自分たちの激しい思い込みにストーリーを落とし込んだ結果、平成20年代に入るとこんな項目ばかりになる。「郵便不正事件で元厚生労働省局長に無罪判決」「大阪地検特捜部で証拠品改ざん」「小沢一郎氏の強制起訴をめぐり、東京地検が虚偽の捜査報告書を作成」などの「検察」による世紀の犯罪が発生しました。

なぜ、結論ありきに陥ってしまったのか。だが検察の凋落(ちょうらく)は内部要因だけが理由ではなかった。「悪弊が積み重なっても表面化せず、後に一気に噴き出したのは、検察が刑事司法という閉じられた世界に安住していられたからだ」ともいえる。

しかし、弁護士、裁判官、検察官の分断が比較的組織的に進むについて、「司法ムラ」のもたれ合いが通用しなくなったというのが経緯だ。

特に、刑事事件の裁判に市民が参加する裁判員裁判。検察が起訴をしなかった事件について、市民による起訴を可能にした強制起訴。新しく導入された制度によって、刑事司法の世界に「市民の常識」が流れ込んだ。

市民の目は、取り調べで作られた調書より、法廷でのやり取りや客観証拠を重視する裁判への移行を促す。法務・検察は組織を上げて司法改革の推進に力を入れたが、皮肉なことにそれが自らを衰退させた。

相次ぐ検察の不祥事を受け、取り調べに偏らない捜査を目指す新たな刑事司法の改革も進んだ。目玉は、他人の犯罪の捜査に協力する見返りに自分の罪を軽くしてもらう日本版司法取引。導入は今年6月に迫る。うまく使うことができれば供述や調書に頼ったこれまでの捜査から脱皮できるわけなのである。

 5月に東京都内で開かれた、司法取引のコンサルティングを手掛ける怪しげなセミナー。しかし、参加者は定員100人を超え、土木、建設、IT(情報技術)、製造業など幅広い業種の法務担当者が参加した。土木、建設、IT土建、製造業はこれらのターゲットになりやすいことの現れといえます。

当事務所にも、「企業からの相談は施行が近づくにつれ増えている」といえます。不正事案を想定したシミュレーションの検討や危機対応・調査マニュアルを作成する企業のご案内もしています。

  企業側の関心が高い背景には、詐欺や薬物などの組織犯罪に加え、贈収賄や脱税、談合、粉飾決算など幅広い企業犯罪が司法取引の対象になったことがある。米国のように自白と引き換えに罪を軽減させる「自己負罪型」は認めていません。ですので、他人の事件捜査へ協力する代わりに罪を減免させる「捜査公判協力型」のみ採用したのが特徴だ。

 「粉飾決算は取締役からの指示でした」。ある上場企業の経理担当部長が検察官に重い口を開いた。検察側は部長の起訴を見送る一方、部長の供述に基づき取締役を起訴した――。司法取引はこうした捜査が可能になる。

 ▽価格カルテルに関わった同業他社の役員の犯罪について証言する代わりに起訴を見送る▽脱税事件での求刑を軽減し、脱税資金を政治家への賄賂に充てていたことを証言させる――などが企業犯罪として具体的に想定される。

 社内や取引先などで違法行為があった場合、企業は事実関係を把握して、司法取引に応じるべきかなどを判断する必要がある。司法取引を持ちかけられた場合、どう把握し対応するかも課題だ。まずは刑事事件と企業法務に詳しい弁護士に相談することが大事だが、大手法律事務所は刑事事件を全く知らない。大手法律事務所は頼りにならないとすらいえる。

 検察の運用はハードルが高そうだ。こちらからもちかけても乗ってこないということだ。なぜなら、検察や警察の捜査能力の高さ、罪から逃れたい一心で虚偽供述で他人を無実の罪に陥れる恐れなどがあるからだ。乗ってくるために、客観証拠を示すコツも必要になってくるだろう。検察当局は司法取引で得られる供述に、裏付け証拠が十分にあるかを吟味した上で応じるかを判断することを捜査現場に求めている。当面は経済事犯を中心に検討するとされる。

 司法取引で証拠や供述を得にくい犯罪の解明に役立つことが期待される一方で、安易に利用されると、会社幹部の共謀が簡単に認められることにもなりかねません。

捜査手法が変わる刑事司法の転換点だけに、適正運用が定着のカギを握りそうだ。

「犯罪捜査規範」では、警察が関与する場合、警察本部長の指揮を受けることとしたほか、司法取引に関する供述は取り調べと区別して求めることを明記するなど、警察との司法取引に慣れている弁護士は普段から警察と交渉する弁護士などかなり限られるでしょう。

司法取引は容疑者や被告が共犯者らの犯罪を明かした場合、検察官が起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりする仕組み。贈収賄や詐欺、薬物銃器犯罪などが対象となる。今後、詐欺罪や薬物も含まれているので、対象が広がることも考えられます。司法取引についての法律相談は、名古屋駅ヒラソル法律事務所まで。

プライバシーと実名報道

最近、司法取引が導入されるということで、談合などがあり得る業者を中心に、司法取引のセミナーも行っている。

 

だが、組織と組織の犯罪の場合、その実態の解明が難しいから、刑を問わないというベネフィットを与えて情報を得るという捜査手法というわけだ。

 

話しは変わるが、日大の宮川選手が実名で報道され実名で記者会見をしていた。短期的な戦術としては、担当した多摩地区にある法律事務所の弁護士の風林火山のような戦術はあたったといえるだろう。風向きを一気に、宮川が悪いか否かから、日大の内田及びコーチが悪いか否かに変えさせてしまったからだ。

 

だが、宮川選手が傷害罪に該当する恐れがある行為をしたことは否定できない。やくざの場合は指示があったか否かを思い浮かべてもほとんど同情する人はいないだろう。長期的にみた場合、社会公共の関心事となった日大ラグビー問題の当事者の動静ということで、社会公共の利益を明らかに優越するプライバシーがあるとはいえないので、グーグルから削除することも難しい。グーグル事件の当事者は中村選手というサッカー選手であったが、男児のわいせつ画像をアップしたということで逮捕、略式罰金命令を受けて事実上、サッカー業界から追放されてしまったのである。しかし、漫画村のアップロード行為やアニチューブのアップロード行為、はたまたもてはやされているユーチューバーのやっていることもたいていは違法行為だ。

 

「るろうに剣心」事件といい、微罪を社会公共の利害としてしまうと、特に中村氏のようにサッカー選手は20代が重要であるのに、事実上引退させられてしまい、「更生させる権利」を警察とそれに談合しているマスコミが奪っているとさえいえるだろう。

 

日大の問題では、井上ヘッドコーチに週刊文春がゲイビデオ出演疑惑を報じたが明らかな名誉毀損と云わざるを得ない。こういう池に落ちた犬をさらに沈めようというのは、我が国の健全な社会通念と異なる。実名で告発した宮川選手や伊藤詩織氏、そして警察とグーグルにより構成の権利を奪われた中村氏。後二者はそれぞれロンドンとタイに出国していて日本を捨ててしまった。そして、日大問題では宮川氏の実名告発を潔しとして被害者側選手に対する美貌中傷がツイッターで起きているのだ、とマスコミは伝えている。

 

日大が組織として、従業員や理事者を守るのは本来の組織のあるべき姿であり全く問題がない。宮川選手についても、日大は別に突き放そうとしたわけではないが、やはり組織の論理から選手一人のせいにするのが合理的であるので、そうなる可能性が高まった時点で、宮川選手は日大の庇護下から出て多摩の法律事務所に依頼をして弁護士の手に委ねたのである。こうしたことは労務をやっていてめずらしいことでもなんでもない。

 

テレビ朝日も、記者は原則実名である。公務員ですら公務執行中の公務員にプライバシーはないとするのが最高裁の判例である。テレビ朝日の進優子記者が福田事務次官のセクハラ疑惑について自社では報道できないと断られたので、怒りに燃えて週刊新潮に持ち込んだのである。眺めていると、テレビ朝日やフジテレビ、NHKは自社の社員を匿名で報道している。TOKIOのメンバー報道によく表れているのではないか。

 

それだけに、巨大組織、それは、日大に限られないがそういう場合は匿名、警察が典型的である。警察は強盗で指名手配されても匿名なのである。これに対して、20代のサッカー選手が、男児のわいせつ画像をアップしたら実名ということで組織も脆弱で守るどころか解雇しかできない。みなさんであれば、家族を守りつつ働くためにどちらの組織で働きたいだろうか。そのうえで問うが、長期的にみて宮川選手の行為は彼にとってプラスであったか、むしろ短期的な奇襲にすぎないのではないか。そんな思いをプライバシー、匿名報道、司法取引をキーワードにセミナーの準備をしていて禁じ得なかった。

法科大学院、一度足をとめてみては?

3日付読売新聞が、法科大学院についての社説を掲載した。

 

 読売は「有能な人材の法曹離れを食い止めるためには、養成制度を大幅に見直すしかあるまい」と指摘しているが、法曹産業というのは1兆円市場である。医療産業は100兆円産業ともいわれるが、産業別に抱えきれる労働者や事業者の数は限定される。法曹に有能な人材を集めたいということであれば、情緒的に「敷居が高い」とか、「(無理筋であることを看過して)依頼を受けてくれる弁護士がいない」といった主観的不満を乗り越えて、理性的な数に限定していく必要はある。

 また、弁護士といっても、隣接業種として公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士がおり、これらも1兆円産業内におけるプレーヤーである。したがって、まずは合格者の数を限定する必要があること、絶対評価を高めること、サンクコストを少なくすること―などが挙げられる。

 弁護士の偏在などの論拠も、いわゆるゼロワン地域がなくなったことやそれら地域の弁護士事務所の経営が厳しいことに照らして、現実的ではないことが明らかになったといえる。

 法科大学院制度を見直しても、根本的には「学校利権」の問題に還元されてしまう可能性もある。今後は予備試験など地方でも司法試験を受験できる内容にするのが相当だ。

 法科大学院の改革では、「法曹コース」の創設なのだという。しかし、一部私大では、5年生は既に行われていたことであり、今更の案がこんな内容のものというのはいささか暗澹たる気持ちになる。また、いまや就職は「売り手市場」だ。こうした景気の中で法曹の志望者が減少するのは、自然なことであり、無理に法曹になりたくない者になってもらう必要まではないだろう。

 そのうえで、勉強時間を減らして学生を確保する狙いがあるとすれば法科大学院制度からして、本末転倒の感を否めない。

 そもそも、司法制度改革の理念自体が間違っていたといわざるを得ない。弁護士はいま無料相談も多くしているが、プロフェッションに診察や相談するのに、普通無料などあり得ないのだ。そうした間違った社会通念の確立や法テラスを通じた弁護士費用の切り下げ圧力が弁護士の職業としての経済的基盤を揺るがし、ひいては、弁護士としての使命感や職業としての魅力の減少につながっているのではないか。

 弁護士は国民にとって身近ではない。それは、法律行為自体が国民にとって身近ではないからだ。それを無理やりトラブルを起こすような「身近な司法の実現」というのは、私たちが目指す社会的正義とは異なるように思われる。

 また、いわれた法曹ニーズは、弁護士の経済的基盤も考えず、企業から「安く使える都合の良い鉄砲玉」弁護士を求めるというニーズを、「適切な法曹ニーズ」とはき違えた点が大きく、「飛躍的な拡大」などというのは見込まれる余地はなかった。

 法曹ニーズを論じるには、司法需要がどれくらいあって、ひとりあたりの割り当てが平均どれくらいになるのか、根拠のある数字とエビデンスを示した議論が必要だ。なにやら「飛躍的に増大するつもりが思うように増えず」では根拠があいまいで砂上楼閣であったことを示す。

 法科大学院の志願者減は深刻というよりも、法科大学院の「利権」を中心とする議論にはうんざりする。かつては74校が、まさに「乱立」であったように、あるべき法曹像を起点に数字とエビデンスで討議をするべきである。

 この点、読売は、学校利権を擁護する立場から「行き詰まりの最大の要因は、司法試験での合格率の低迷」というが、絶対評価であれば、それは法科大学院側に問題があるのだといわざるを得ないだろう。

 「学生の目標は司法試験に合格し、法律家として社会のために貢献することだ」だが、それに対する手段が、「各校のカリキュラムも再構築」のような小手先のものに終始してしまうことも残念だ。

「狂い咲き」藤山雅行、経過観察中の患者の「要医療性」認める

原爆症の認定申請を国が却下したのは違法だとして、長崎市で被爆した80代の姉妹が国に処分取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が7日、名古屋高裁であった。定年退官が迫っている「狂い咲き判決」の藤山雅行裁判長は、請求を退けた一審・名古屋地裁判決を破棄し、姉妹の訴えを認める判決を言い渡した。経過観察中の原爆症の認定は法律要件の解釈を誤っており、最高裁で見直される公算もあり得る。

原爆症の認定は、病気が原爆の放射線から発症したこと(放射線起因性)や、治療が必要な状態にあること(要医療性)が要件になっている。姉妹はそれぞれ乳がんの手術や慢性甲状腺炎の診断を受けるなどしたが、2009~10年に申請した際、経過観察中だった状態であることに照らして治療が必要な状態とは到底いえないものであった。 姉妹は長崎市の山田初江さん(85)と名古屋市緑区の高井ツタヱさん(82)。

判決理由で「狂い咲き」の藤山裁判長は、積極的な治療が伴う場合だけではなく、経過観察で通院しているケースでも「『現に医療を要する状態にある』と認めることが相当」と独自の見解を披露した。これが広く妥当すれば、日本の交通事故裁判など、根底から覆る「地球がひっくり返るような判決」だ。

藤山は、姉妹の疾病について放射線起因性と要医療性の両方を認定した。一審判決は要医療性を妥当に認めることなく、当然の如く請求を退けていた。

判決によると、姉妹は爆心地から約5.4キロ離れた長崎市内の自宅で被爆した。2人は09~10年に原爆症の認定を申請したが、国は11年にいずれも却下した。

原爆症の認定については、労災と同様、厳しい形式的要件があり、公平性が求められているといえる。経過観察の者の「要医療性」を認めることはできず、不公平として最高裁で見直しを求める声が上がっている。

厚生労働省は「判決の内容は十分承知していないが、国の主張が認められなかったと認識している。今後の対応は判決の内容を精査し、関係省庁と協議して決める」とのコメントを出した。

藤山雅行裁判長は定年間近になって、最高裁判例に違反する判決を連発し、次々と最高裁で藤山判決が破棄されている。

親会社のセクハラ責任を認めた名古屋高裁藤山雅行狂い咲判決を最高裁が破棄!

最高裁は一般論で親会社に対する責任を否定し、ただ、グループを通じた苦情処理システムがある場合は負う場合もあるが、かかる申出をしていないことや、その他の申出も8か月も経過したなどの事実関係の下では、藤山雅行裁判長の狂い咲き判決を是認することはできないとしたものです。もっとも、最高裁の判決は狂い咲き判決をすべて否定したわけではなく、「上告人は,本件当時,本件法令遵守体制の一環として,本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け,上記の者に対し,本件相談窓口制度を周知してその利用を促し,現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。その趣旨は,本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として,本件相談窓口における相談への対応を通じて,本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為(以下「法令等違反行為」という。)を予防し,又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。これらのことに照らすと,本件グループ会社の事業場内で就労した際に,法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が,本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば,上告人は,相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ,上記申出の具体的状況いかんによっては,当該申出をした者に対し,当該申出を受け,体制として整備された仕組みの内容,当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。」と一定の限度で親会社が責任を負う場合があることを認めている点が注目されます。
平成28年(受)第2076号 損害賠償請求事件
平成30年2月15日 第一小法廷判決
主 文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人後藤武夫ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,上告人の子会社の契約社員として上告人の事業場内で就労していた被上告人が,同じ事業場内で就労していた他の子会社の従業員(以下「従業員A」という。)から,繰り返し交際を要求され,自宅に押し掛けられるなどしたことに
つき,国内外の法令,定款,社内規程及び企業倫理(以下「法令等」という。)の遵守に関する社員行動基準を定め,自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制を整備していた上告人において,上記体制を整備したことによる相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反したと主張して,上告人に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成20年11月,株式会社イビデンキャリア・テクノ(以下「勤務先会社」という。)に契約社員として雇用され,その頃から平成22年10月12日までの間,上告人の事業場内にある工場(以下「本件工場」という。)において,勤務先会社がイビデン建装株式会社(以下「発注会社」という。)から請け負っている業務に従事していた。上記業務に関する被上告人の直属の上司は,
被上告人が配属された課の課長(以下単に「課長」という。)及び係長(以下単に「係長」という。)であった。
 従業員Aは,平成21年から平成22年にかけて,発注会社の課長の職にあり,上記事業場内にある発注会社の事務所等で就労していた。
(2) 上告人は,自社とその子会社である発注会社及び勤務先会社等とでグループ会社(以下「本件グループ会社」という。)を構成する株式会社であり,法令等の遵守を徹底し,国際社会から信頼される会社を目指すとして,法令等の遵守に関する事項を社員行動基準に定め,上告人の取締役及び使用人の職務執行の適正並びに本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正等を確保するためのコンプライ
アンス体制(以下「本件法令遵守体制」という。)を整備していた。そして,上告人は,本件法令遵守体制の一環として,本件グループ会社の役員,社員,契約社員等本件グループ会社の事業場内で就労する者が法令等の遵守に関する事項を相談することができるコンプライアンス相談窓口(以下「本件相談窓口」といい,これに関する仕組みを「本件相談窓口制度」という。)を設け,上記の者に対し,本件相
談窓口制度を周知してその利用を促し,現に本件相談窓口に対する相談の申出があればこれを受けて対応するなどしていた。
(3) 被上告人は,本件工場で勤務していた際に従業員Aと知り合い,遅くとも平成21年11月頃から肉体関係を伴う交際を始めたが,平成22年2月頃以降,次第に関係が疎遠になり,同年7月末頃までに,従業員Aに対し,関係を解消したい旨の手紙を手渡した。
(4) ところが,従業員Aは,被上告人との交際を諦めきれず,平成22年8月以降,本件工場で就労中の被上告人に近づいて自己との交際を求める旨の発言を繰り返し,被上告人の自宅に押し掛けるなどした(以下,被上告人が勤務先会社を退職するまでに行われた従業員Aの上記各行為を「本件行為1」という。)。被上告人は,従業員Aの本件行為1に困惑し,次第に体調を崩すようになった。
(5) このため,被上告人は,平成22年9月,係長に対し,従業員Aに本件行為1をやめるよう注意してほしい旨を相談した。係長は,朝礼の際に「ストーカーや付きまといをしているやつがいるようだが,やめるように。」などと発言したが,それ以上の対応をしなかった。被上告人は,その後も従業員Aの本件行為1が続いたため,平成22年10月4日に係長と,同月12日に課長及び係長とそれぞれ面談して,本件行為1について相談したが,依然として対応してもらえなかったことから,同日,勤務先会社を退職した。そして,被上告人は,同月18日以降,派遣会社を介して上告人の別の事業場内における業務に従事した。
(6) しかし,従業員Aは,被上告人が勤務先会社を退職した平成22年10月12日から同月下旬頃までの間や平成23年1月頃にも,被上告人の自宅付近において,数回従業員Aの自動車を停車させるなどした(以下,従業員Aの上記各行為を「本件行為2」といい,本件行為1と併せて単に「本件行為」という。)。
(7) 被上告人が本件工場で就労していた当時の同僚であった勤務先会社の契約社員(以下「従業員B」という。)は,被上告人から自宅付近で従業員Aの自動車を見掛ける旨を聞いたことから,平成23年10月,被上告人のために,本件相談窓口に対し,従業員Aが被上告人の自宅の近くに来ているようなので,被上告人及び従業員Aに対する事実確認等の対応をしてほしい旨の申出(以下「本件申出」という。)をした。上告人は,本件申出を受け,発注会社及び勤務先会社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたが,勤務先会社から本件申出に係る事実は存しない旨の報告があったこと等を踏まえ,被上告人に対する事実確認は行わず,同年11月,従業員Bに対し,本件申出に係る事実は確認できなかった旨を伝えた。
3 原審藤山雅行裁判長は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,上告人に対する債務不履行に基づく損害賠償請求を一部認容した。
(1) 従業員Aは,本件行為につき,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。また,勤務先会社は,被上告人に対する雇用契約上の付随義務として,使用者が就業環境に関して労働者からの相談に応じて適切に対応すべき義務(以下「本件付随義務」という。)を負うところ,課長らは,被上告人から本件行為1について相談を受けたにもかかわらず,これに関する事実確認や事後の措置を行うなどの対応をしなかったのであり,これにより被上告人が勤務先会社を退職することを余儀なくさせている。そうすると,勤務先会社は,本件行為1につき,課長らが被上告人に対する本件付随義務を怠ったことを理由として,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(2) 上告人は,法令等の遵守に関する社員行動基準を定め,本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備したことからすると,人的,物的,資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して,直接又はその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うものというべきである。これを本件についてみると,被上告人を雇用していた勤務先会社において,上記(1)のとおり本件付随義務に基づく対応を怠っている以上,上告人は,上記信義則上の義務を履行しなかったと認められる。また,上告人自身においても,平成23年10月,従業員Bが被上告人のために本件相談窓口に対し,本件行為2につき被上告人に対する事実確認等の対応を求めたにもかかわらず,上告人の担当者がこれを怠ったことにより被上告人の恐怖と不安を解消させなかったことが認められる。
以上によれば,上告人は,被上告人に対し,本件行為につき,上記信義則上の義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負うべきものと解される。
4 しかしながら,原審藤山雅行裁判長の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係等によれば,被上告人は,勤務先会社に雇用され,本件工場における業務に従事するに当たり,勤務先会社の指揮監督の下で労務を提供していたというのであり,上告人は,本件当時,法令等の遵守に関する社員行動基準を定め,本件法令遵守体制を整備していたものの,被上告人に対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか,被上告人から実質的に労務の提供を受ける関係にあった
とみるべき事情はないというべきである。また,上告人において整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が,勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務を上告人自らが履行し又は上告人の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。以上によれば,上告人は,自ら又は被上告人の使用者である勤務先会社を通じて本件付随義務を履行する義務を負うものということはできず,勤務先会社が本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって,上告人の被上告人に対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない。
(2)ア もっとも,前記事実関係等によれば,上告人は,本件当時,本件法令遵守体制の一環として,本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け,上記の者に対し,本件相談窓口制度を周知してその利用を促し,現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。その趣旨は,本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確
保等を目的として,本件相談窓口における相談への対応を通じて,本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為(以下「法令等違反行為」という。)を予防し,又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。これらのことに照らすと,本件グループ会社の事業場内で就労した際に,法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が,本件相談窓口に対しその旨
の相談の申出をすれば,上告人は,相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ,上記申出の具体的状況いかんによっては,当該申出をした者に対し,当該申出を受け,体制として整備された仕組みの内容,当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。
イ これを本件についてみると,被上告人が本件行為1について本件相談窓口に対する相談の申出をしたなどの事情がうかがわれないことに照らすと,上告人は,本件行為1につき,本件相談窓口に対する相談の申出をしていない被上告人との関係において,上記アの義務を負うものではない。
ウ また,前記事実関係等によれば,上告人は,平成23年10月,本件相談窓口において,従業員Bから被上告人のためとして本件行為2に関する相談の申出(本件申出)を受け,発注会社及び勤務先会社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたものである。本件申出は,上告人に対し,被上告人に対する事実確認等の対応を求めるというものであったが,本件法令遵守体制
の仕組みの具体的内容が,上告人において本件相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。本件申出に係る相談の内容も,被上告人が退職した後に本件グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり,従業員Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。しかも,本件申出の当時,被上告人は,既に従業員Aと同じ職場では就労しておらず,本件行為2が行われてから8箇月以上経過していた。
したがって,上告人において本件申出の際に求められた被上告人に対する事実確認等の対応をしなかったことをもって,上告人の被上告人に対する損害賠償責任を生じさせることとなる上記アの義務違反があったものとすることはできない。
(3) 以上によれば,上告人は,被上告人に対し,本件行為につき,債務不履行に基づく損害賠償責任を負わないというべきである。
5 これと異なる原審藤山雅行裁判長の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この藤山雅行裁判長の過誤につき、かかる趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人は,被上告人に対し,本件行為につき,不法行為に基づく損害賠償責任も負わないというべきである。そうすると,被上告人の上告人に対する請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した第1審判決は結論において是認することができるから,上記部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。

労働基準法37条をめぐって

タクシー大手・国際自動車(kmタクシー)のドライバー14人が、実質的に残業代が払われない賃金規則は無効だとして、未払い賃金を求めていた訴訟(第1陣)の差し戻し審判決が2月15日、東京高裁(都築政則裁判長)であった。ドライバーが逆転敗訴した。

ドライバーたちには名目上、残業代が支払われていたが、「歩合給」から割増賃金や交通費相当額が引かれる仕組みだったため、「実質残業代ゼロだ」と無効を主張していた。現在、この制度は改められている。

ドライバー側代理人の指宿昭一弁護士は、「この手を使えば、タクシー業界にかかわらず、残業代を払わなくても良くなってしまう」と警鐘を鳴らし、即日上告したことを明かした。

●「労働効率性」を高める仕組みとして合理性があると判断

判決のキーワードは「成果主義」と「労働効率性」だ。

判決は、歩合給から割増賃金(=時間給)を引くのは、従業員に「労働効率性」を意識させ、残業を抑止する効果があると判断。合理性があり、残業代の支払いを免れる意図でつくった制度ではないと認定した。

また、労働基準法37条は、通常賃金と割増賃金の違いをはっきりさせること(明確区分性)を求めている。裁判では、残業時間によって変動する歩合給は、明確区分性を欠くのではないかが争点になっていた。

この点について、判決は、歩合給が残業代のように労働時間によって変動するとしても、「成果主義的」な報酬として、通常賃金であることには変わらないと判断。その上で、名目上の残業代が、法定の金額を下回っていないことから、国際自動車の賃金規定を有効と判断した。

●ドライバー「裁判所は、業界の働き方をまったく理解していない」

判決を受けて、訴えたドライバーの1人は「裁判所は、タクシー業界の働き方をまったく理解していない」と憤りを隠さなかった。

「裁判所は『労働効率性』と言いますが、ドライバーはお客様を選べません。早く帰ろうと思っても、『回送』にする前にお客様がいたら断れない。乗車拒否として、処罰されてしまいます(道路運送法13条)」

●1月18日にも同種の裁判でドライバー敗訴

この訴訟の一審・二審は、労基法37条の趣旨に反し、公序良俗違反で賃金規定を無効だと判断。ドライバー側が勝訴した。その後、最高裁が「当然に…公序良俗に反し、無効であると解することはできない」として、高裁に差し戻していた。

国際自動車では、同種の訴訟が計4つあり、1月18日には東京高裁で第2陣のドライバーも敗訴、上告している。

●最高裁の考え方

4 説明
〇労働基準法37条は時間外,休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定する。

〇趣旨は,時間外・休日労働は通常の労働時間又は労働日に賦課された特別の労働であることから,それに対し一定額の補償をさせることと,時間外労働に係る使用者の経済的負担を増加させることによって時間外・休日労働を抑制すること

〇労働基準法37条等所定の算定方法とは異なる割増賃金の算定方法の取扱い
〇労働基準法37条は,同法所定の割増賃金の支払を義務付けるにとどまり,同条所定の計算方法を用いることまで義務付ける規定ではないから,使用者が労働基準法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用すること自体は適法

〇労働基準法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法が採用されている事案においては,その算定方法に基づく割増賃金の支払により,労働基準法37条等所定の割増賃金の支払がされたといえるかが論じられることが通常である。

〇従前の最高裁判例は,労働基準法37条等所定の計算方法によらずに割増賃金を算定し,これに基づいて割増賃金を支給すること自体は直ちに違法とはいえないことを前提に,①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(以下「判別要件」という。),そのような判別ができる場合に,②割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として,労働基準法所定の計算方法により計算した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して,労働基準法37条等に定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断しているものと考えられる。学説は,おおむね上記の判例法理を支持するものと理解され(前掲菅野498頁以下,荒木尚志『労働法〔第3版〕』167頁以下,土田道夫『労働契約法〔第2版〕』332頁以下等),下級審裁判例も,上記の判例法理に沿って,当該事案において労働基準法37条等に定める割増賃金の支払があったと認められるか否かを判断しているものと考えられる。

〇賃金規則等において支払うとされている「手当」等が割増賃金,すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものである必要がある。

〇「手当」等がそのような趣旨で支払われるものと認められない場合には,そもそも割増賃金に当たるとはいえず,判別要件を充足するか否かを検討する前提を欠くことになる。上記の各最高裁判例もこのことは当然の前提にしているものと考えられる。

〇判別要件を充足するか否かに係る具体的な判断基準を述べた最高裁判例は見当たらず,また,使用者の賃金規則等において通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かは,個別の賃金規則等の内容に即して判断せざるを得ない。

〇「基本給(歩合給)に割増賃金が含まれる。」といった抽象的な定めを置くのみでは足りず,賃金規則等に定められた計算式等により,支給された総賃金のうち割増賃金とされた金額を具体的に算定することが可能であり,かつ,その割増賃金に適用される「基礎賃金の1時間当たり金額(残業単価)」を具体的に算定することが可能であることが必要であると考えられる。
〇労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしておらず,時間外・深夜労働の有無及び多寡により「基礎賃金の1時間当たり金額(残業単価)」が変動する結果となる定めをすることについて特に規制をしていないことからすると,労働契約においてそのような定めをすること自体が当然に公序良俗に違反し,無効であると評価することは困難

〇労働基準法37条等は割増賃金の算定方法を具体的に定めており,割増賃金の支払方法が同条等に適合するか否かは客観的に判断が可能であることからすると,端的に当該賃金の定めが労働基準法37条等に違反するか否かを検討し,仮に同条に違反するのであれば,その限度で当該賃金の定めが同法13条により無効となり,同法37条等所定の基準により割増賃金の支払義務を負うとすれば足りるものと考えられ,殊更に公序良俗に違反するか否かを問題とする必要はない

〇最高裁は、本件規定を含む本件賃金規則に基づく賃金の支払により労働基準法37条に定める割増賃金の支払があったといえるか否かについて特に判断を示していない。

〇本件賃金規則における割増金等の定めが,既に述べた判別要件を満たしているかや,これを満たしている場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として,労働基準法所定の計算方法により計算した割増賃金の額を下回らないか否かを検討していないため

 

最高裁の判断

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)ア 労働基準法37条は,時間外,休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令(以下,これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に具体的に定められている。もっとも,同条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり,使用者に対し,労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし,これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照),上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
他方において,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきである。
イ しかるところ,原審は,本件規定のうち歩合性の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法37条の趣旨に反し,公序良俗に反し無効であると判断するのみで,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か,また,そのような判別をすることができる場合に,本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく,被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべきとしたものである。そうすると,原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。
(2) なお,原審は,本件規定のうち法内時間外労働や法定外休日労働に係る部分を含む割増金の控除部分全体が無効となるとしており,本件賃金規則における賃金の定めについて検討するに当たり,時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別していない。しかし,労働基準法37条は,使用者に対し,法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず,使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられているものと解されるから,被上告人らに割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては,被上告人らの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要があるというべきである。
5 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。
そして,被上告人らに支払われるべき未払賃金の有無及び額等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

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