競業が不正競争とされ、会社の責任が認められた事例
既に紹介をしてきているように、独立した従業員らが新規に会社を設立するというのは多いとしても、裁判例で多いとまではいえません。
その中でも会社の損害賠償責任を認めたものとしては、実例は少なくなっています。かつて紹介した裁判例では職務について行ったものといえないという判断だったわけです。
そこで、大阪高判昭和58年3月3日ですが、全文が公表されているわけではないようですので、この事案において、不正競争に該当するという部分が集中的にとりあげられています。
Xは、カタログによる通信販売会社であり、顧客名簿を極秘で保管していた。
ところが、YはXの代表者と紛争状態となり、Aを設立して顧客名のを持ち出してAの代表取締役に就任。Xのカタログとほとんど同じカタログを作成し、得意先名簿を利用して、通信販売を開始したというものである。
ポイントは、会社に対しては忠実義務、競業避止義務、不法行為が論拠とされていません。会社に対しては不正競争防止法による請求又は不法行為となっています。
そして、本判決は、Xの使用するカタログに重点を置いて、商品表示、事業表示の判断をしているようですが、いったいどこがどうで商品主体や事業主体が混同を生じさせているのか、読み込んでもよく分かりません。
もっとも、不正競争にあたるということは別としても、会社の責任を認めたという意味では数少ない先例といえるのではないか、と思います。
そして、判決は不正競争に続いて、会社の不法行為責任についても述べています。
「証拠によると、控訴会社が控訴人Yの個人的色彩の強い会社であることを認めることができるので、前記控訴人Yの不法行為は、控訴会社の代表取締役たる控訴人Yの職務を行うにつきなしたる行為と解するべきであるから、控訴会社は、右行為につき被控訴会社が被った損害を賠償すべき義務があるから、A会社は、右行為につきXが被った損害を賠償すべき義務であり、A会社はいずれの責任も負担していることは明らかである」
としています。
先に紹介した裁判例で述べたように職務を行うについてなしたる行為と認められれば、A会社の責任を追及することができるのですが、ここでも、あまりなぜ,職務を行うについてなしたる行為にあたるのかのファクトは示されていないように思います。