退職後顧客情報を利用できなくし得意先を奪った事例

さて、今度は、従業員が、自分の退職後に会社において、顧客情報を利用できなくして、会社の顧客を奪ったという事例をみていきましょう(大阪地判平成3年10月15日)。

 

本件は,競業避止義務がありますが、そのような特約の効力が大いに問題となると考えられる。もっとも、判決の認定によれば、Yは営業部長、営業活動を統括する立場、会社に顧客情報を残さない、独占的に利用するという事情がありました。

 

事案をみる限り、結論は仮処分で競業行為を差し止めることは妥当である、といえますが、ここは識者により立場は分かれるものと考えられます。

 

判旨をみていきましょう。

 

・会社はチケット、ラベルの製造販売をする株式会社

・特約と特約違反を認定。

・Y氏は売上の7割を生み出していた

・あたかも、Yが設立したA社がX社を承継したような挨拶を配る

・YはXに取引の具体的内容を伝えていない(顧客情報も不明)

・従来の営業を継続することが困難に。

・売上は10分の1に落ち込む

・本件で申請人が防衛すべきものとしている企業利益は、申請人の得意先ないしそれに関する顧客情報であり、特許権ないし権利ないしノウハウほどには特別の秘密保持を必要としないが、それを従業員がその利益のために自由に利用すれば、場合によっては企業の存立にも関わりかねない。この点、特許権などの権利利益とは異なるところのない重要な企業利益であり、企業が合理的な範囲で従業員の在職中及び退職後のその自由な利用を制約することは合理性を欠くものではない。

 

もっとも、大阪地裁平成3年をみても、会社に対する責任は否定されており、仮処分はY個人がA社を通じて商品を販売することを差し止めるなどのY個人の行為です。したがって、Y以外の人がA社で商品を販売しても仮処分の効果は及ばないといえますから、どれほど有意義なものであるかは疑問の余地もあるといえます。

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