敷引特約は消費者契約法10条に反しますか

結論からいえば、賃料の額等に比して、敷引き額が高額に過ぎると評価できない限り、敷引特約は消費者契約法10条には違反しません。

 

いかなる場合に「高額」になるかは事例の集積を松しかありませんが、月額賃料の3.5倍程度の敷引金を許容していることに照らすと、「高額に過ぎる」というのは、常識的には月額賃料の6倍以上相当額となるでしょうか。かなり限定的になるのではないかと思います。

 

敷引きについては、通常損耗ないし自然損耗分、空室損料、賃料の補充としての性格があるといわれています。

 

最判平成23年7月12日判タ1356号81ページでは、敷引き特約は契約当事者間にその趣旨に通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むとしたうえで、原則論として賃借人は通常損耗については原状回復義務を負わないから義務を加重させる側面があると認定した。

 

そして,敷引き額について、契約書に明示されているから、賃借人は賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するものであって、このような場合は、通常損耗等の補修費用が含まれないという一種のフィクションを定立しました。そして、敷引き特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであることはできないとしました。

 

本件では、敷引き額の価額が契約経過年数に応じて、月額賃料額の2倍から3.5倍にとどまっていることから高額ではないとしています。したがって、消費者契約法10条には違反しないという論理につなげています。

 

ところで、この23年判決は、17年判決とどのように理解すればよいのでしょうか。17年判決は、通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると厳格な立場をとっています。

 

しかし、これでは、敷引き特約というようにしておけばよいという藉口理由を与えることにならないか、という疑問が沸いてくるわけです。

 

最高裁はこの点は予測可能性という観点から割り切っていると思われます。つまり、退去時に実費を支払う場合において、補修費用の額について契約時において明確な認識を持つことができず、結果的に予想外の高額な補修費用を負担させられるおそれがあり、これが賃借人にとって特別の負担になると判断したようです。

 

実際、中身は同じであっても敷引きの方は価格の予測可能性が高いことから消費者契約法10条には違反しないとされたものと思われます。

 

なお、平成17年判決と異なり、平成23年判決においては、通常損耗の範囲において、「畳の裏返し、表替え、フローリング・ワックスがけ」などと詳細な一覧表が添付されていたのである。

ページの先頭へ
menu