定款の変更、組織再編、事業譲渡、M&A

第7編 会社の基礎の変更

第1 会社の基礎の変更

⇒ ①定款の変更,②組織再編行為,③事業譲渡

1 単独行為型

① 定款の変更

② 組織変更

2 契約型

① 組織再編行為

② 事業譲渡

*契約型は経済的観点から分類すると3つに分けられる

Ⅰ リストラ型

⇒ 窮極的な事業支配の変更はない

Ⅱ M&A型[1]

⇒ 事業謝意の変動を伴う企業買収

Ⅲ 合弁型

⇒ 2つ以上の精力が対等の立場で共同事業を行うタイプ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2 定款の変更

1 意義

定款の変更とは,株式会社の根本規範である定款を変更する会社の行為

2 要件

(1) 原則⇒資本多数決

① 株主総会の特別決議があること(466条・309条2項11号)

② 招集通知に議案の概要を記載すること(299条4項・298条1項5号)

(2) 例外

ア することができないこと

授権枠は発行済株式総数の4倍を超えて増加できない(113条3項)

∵ 取締役会に無限定の授権を与えない趣旨

イ 資本多数決の要件の加重

(ア) 要件

① 会社が発行する全部の株式を譲渡制限株式(2条17号)とする場合

② 譲渡制限会社で剰余金の配当・残余財産の分配,株主総会の議決権に関して,属人的な定め(109条2項)

(イ) 効果

特殊決議が要件となる

ウ 資本多数決の否定

(ア) 要件

① 発行する全部の株式を取得条項付株式(107条1項3号・2項3号)とする定款の定めの新設(110条)

② 特定の株主からの自己株式取得について売主の追加請求権を排除する定款の定めの新設

(イ) 効果

株主全員の同意を要する

エ 資本多数決の敗者の結果受忍義務の不存在

(ア) 要件

「会社が発行する全部の株式を譲渡制限株式(2条17号)とする場合」の定款変更に反対している株主であること

(イ) 効果

株式買取請求権の発生(116条1項1号・118条1項1号)

オ 取締役会決議による定款の変更

① 会社が株式の分割を行う際に定款に定める発行可能株式総数を株式の分割割合に応じて増加させる定款の変更をするのであれば,通常の定款変更手続ではなく,株式の分割手続により可能である

② 単元株制度を新たに採用し,または一単元の株式の数を変更するための定款の変更を行う場合でも,それによって各株主の有する議決権数が減少しないのであれば,通常の定款変更手続でなく,取締役会の決議で可能

 

3 定款変更の効果

効力発生日は,定款変更決議により定めることができる

 

4 反対株主の株式買取請求権

(1) 定義

株式買取請求権とは,会社の基礎の変更の行為に反対する株主が会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することにより,投下資本の回収を図る権利をいう

(2) 要件(以下に該当する株主に)

ア 実体要件

① 譲渡制限を新たに設けるなどの定款変更

② 種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為について,定款で種類株主総会が不要とされる場合(116条1項3号)

③ 事業譲渡(469条)

④ 吸収合併消滅会社(785条)

⑤ 吸収合併存続会社(797条)

⑥ 新設合併消滅会社(806条)

イ 手続要件

Ⅰ 株主は,総会に先立って定款の変更などに反対する旨を会社に通知していること

∵ 会社に対してどの程度の株式買取請求がなされる可能性があるかを認識させ,議案の提出前に再考する余地を与えるため

Ⅱ 株主は,株主総会において当該行為に反対していること(116条2項1号イ,469条2項1号イ,785条2項1号イ・797条2項1号イ・806条2項1号)

∵ 定款変更などに総会で賛成の議決権を行使しつつ,定款変更などに起因する株価の下落のリスクをヘッジするのは権利濫用的

Ⅲ 効力発生前の20日前から前日までに株式買取請求に係る株式の種類・数を明らかにして請求をすること(116条5項,469条5項,785条5項,797条5項,806条5項)

(3) 社会的機能

ア メリット

① 閉鎖型タイプでは株式を譲渡して会社から離脱することが困難

② 多数派の決議の内容の不当性を問わずに救済が認められる

③ 会社財産の社外流出が生じるので多数派を慎重にさせる

イ デメリット

濫用の危険

 

 

 

第3 合併

1 意義

合併とは,2つ以上の会社が契約を締結して行う行為であって,当事会社の一部又は全部が解散し,解散会社の権利義務の全部が清算手続を経ることなく,存続会社又は新設会社に一般承継されるという効果を持つものをいう(2条27号28号・748条)

2 要件

3 効果

(1) 消滅会社の株主の承継[2]

ア 新設合併∧消滅会社の株主

新設会社は,消滅会社の株主に対して,消滅会社の株式に代えて新設会社の株式を交付(753条1項6号7号・755条1項4号)

イ 吸収合併∧消滅会社の株式

⇒ 存続会社の株式を交付されるとは限らない(749条1項2号ロハニホ3号・751条1項3号)!!

* 「吸収合併では,消滅会社の株式は当然に存続会社に株主として承継されるわけではない」という命題を承認することになる(=交付金合併・三角合併の許容)

ウ 交付金合併

(ア) 定義

交付金合併とは,吸収合併の存続会社が消滅会社の株主の承継という効果を受けない合併のことをいい,存続会社は金銭のみが交付される

(イ) 少数派の排除(squeeze-out)

制度の濫用から消滅会社の少数派を救済する法理(江頭798)を検討すべき[3]

(2) 権利義務の全部の一般承継

⇒ 消滅会社の債務を承継しない旨の合併承認決議をしても無効

∵ 存続会社・新設会社は,合併により消滅会社の権利義務を一般承継する

2 合併の種類

*合併の種類

吸収合併 新設合併
吸収合併は,当事会社のうちの1社が存続し,他の当事会社が解散するもの(2条27号) 新設合併は,当事会社の全部が解散し,それと同時に新会社が設立されるもの(2条28号)

*実務上,吸収合併がほとんどで新設合併は極めて稀とされる

第2 合併の手続

1 要件

(1) 実体要件

① 合併契約を締結していること

② 株主総会による承認決議があること(783条1項・795条1項・804条1項)

* 決議要件は特別決議(309条2項12号,例外あり)

③ 債権者の異議手続を履行したこと(750条6項・752条6項・922条1項1号ホ2項1号ハ)

* 債権者保護の必要性

① 相手方当事会社の経営状態が悪いときは,他方会社の債権者は債権回収が困難となる危険が増大する

② 合併契約によりさりげなく資本金額が下げられる可能性も

④ 必要であれば株券提供公告を行っていること(219条1項6号)

⑤ 合併差損が生じる場合は存続会社の取締役は説明したこと(995条2項1号2号)

(2) 手続要件

Ⅰ 事前(承認総会2W前)開示

当事会社は,吸収合併契約備置開始日から効力発生の後,6ヶ月を経過するまでの間,合併契約の事項を記載した書面を本店に備え置く必要がある(782条1項1号・794条1項・976条8号)

∵ 株主が合併条件の公正を判断し,債権者に異議を述べるかの資料提供

Ⅱ 合併事後開示

存続会社は,吸収合併の効力発生後遅滞なく合併により存続会社が承継した消滅会社の権利義務に関する事項を記載した書面を作成し,効力発生日から6ヶ月間本店に備え置いて,株主及び会社債権者の閲覧に供する必要がある(801条1項4項)

* 新設合併は形成登記(754条・756条)だが,吸収合併ではただの手続

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 合併契約の締結

(1) 合併契約の意義

合併とは,当事者会社間の契約である(748条後段)であるので,合併契約の締結が要件となる

(2) 合併契約のデザイニング(法定記載事項は3つに大別)(749・751・753)

① 合併条件

② 存続会社の組織・体制

③ 合併手続の進行時期

(3) 合併条件

ア 定義

合併条件とは,存続会社が消滅会社の株主に対して,消滅会社の株式と引換えに何を交付するかについての定めのことをいう

イ 視点

① 合併から生じるシナジー効果をいかに公正に分配するか

② 各当事会社の各株主間に経済的利得・損失が生じないような公正さ

ウ 合併条件の定めは,「公正さ」が要件となるか

(ア) 利益衡量的な視点

① 合併条件の決定は,買収者側には経営判断にすぎず

② 被買収者側の取締役には利益相反の懸念

③ 合併によりシナジーが発生する場合は,当該シナジーを存続会社の株主が独占する形となるのは公平ではない

④ シナジーの分配の不公正が深刻なのは合併交付金が多い場合[4]

(イ) 手続的な保障

合併条件の相当性に関する事項を記載した書面の備置・閲覧の制度(782条1項・794条1項・803条1項)

 

(ウ) 合併条件の不公正は,合併の無効の実体要件となるか

○ ならない

⇒ 株式買取請求権(785条・787条・797条・806条・808条)の救済のみ

(エ) それ以外で争う方法

① 特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な合併条件が決定

⇒ 合併承認決議の取消事由(831条1項3号)となる(東京地判平成元年8月24日判時1331号136頁)

② 株主が代表訴訟により取締役の責任追及

⇒ 許されない(大阪地判平成12年5月31日判時1742号141頁)

∵ 株主に対して損害を被らせるものではあっても,会社に損害なし

⇒ 江頭773は,社債・金銭が交付される場合は,会社に損害が生じることがあるとするので,このケースでは射程外とする

③ 取締役に対する429条に基づく損害賠償請求は余地あり(弥永428)

3 反対株主の株式買取請求権

(1) 要件

① 消滅会社の反対株主であること(785条ないし788条・806条ないし809条)

①’存続会社の反対株主であること(797条・798条)

② 公正な価格で買い取ることを請求したこと

* 「公正な価格」は,シナジーをも反映させたものである必要あり

(2) 効果

存続会社では,買取りの効力は代金支払の時(798条5項)であるのに対して,消滅会社では,買取りの効力は合併の効力発生日(786条5項・788条5項1号・807条5項・809条5項1号)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 簡易合併・略式合併

1 簡易合併

(1) 要件(存続会社について)

ア 積極要件

① 合併に際して交付する存続会社の株式の数に1株当たり純資産額を乗じて得た額を超えないこと

② 合併に際し交付する存続会社の社債その他の財産の帳簿価額の合計額が存続会社の純資産額の5分の1を超えないこと

イ 消極要件(796条3項ただし書き)

Ⅰ 存続会社について合併差損が生じる場合

Ⅱ 存続会社が譲渡制限会社であって株式を交付する場合

Ⅲ 存続会社が株主に対して株式買取請求に係る通知・公告(797条3項4項)を行った日から2週間以内に,規則197条で定める株式数を有する株主が合併に反対する旨を会社に対して通知したとき(796条4項)

(2) 効果

存続会社について,「合併承認の株主総会決議があること」(795条1項)という要件を満たさなくても合併ができる(796条3項)

(3) 制度趣旨

合併であっても,存続会社に比べて消滅会社の規模が小さいなど,存続会社の株主に対して及ぼす影響が軽微なものもある

 

2 略式合併

(1) 要件

ア 積極要件

吸収合併の当事会社の一方が他方当事会社の総株主の議決権の10分の9以上を有すること(468条1項)

イ 消滅要件

Ⅰ 消滅会社である従属会社が公開会社であって,その株主に対して譲渡制限株式が交付される場合(784条1項ただし書き)

Ⅱ 存続会社である従属会社が全株式譲渡制限会社であって,株式の交付を行う場合(796条1項ただし書き)

(2) 効果

従属会社における合併承認の株主総会決議はいらない(416条4項16号)

(3) 制度趣旨

手続の簡素化の観点

(4) 差止め

ア 要件

① 従属会社の株主であること

② 法令・定款の違反がある場合

②’合併条件が当時会社の財産の情況その他の事情に照らして著しく不当である場合

③ 従属会社の株主が不利益を受けるおそれがあるとき

イ 効果

株主は,従属会社に対して当該合併の差止めを請求することができる(784条2項・796条2項)

ウ 制度趣旨

合併承認決議が行われれば株主がその決議の取消しの訴えを提起できるはずのケース(831条1項)について,当該決議がないことから,それに代わる従属会社の少数株主の保護措置として設けられている

 

第4 合併の無効

1 要件(無効原因)

ア 訴訟要件

① 出訴期間

合併の無効の訴えを合併の効力が生じた日から6ヶ月以内に提起していること(828条1項7号8号)

② 原告適格

合併の効力が生じた日に各当事会社の株主,取締役,執行役,監査役,清算人であった者,存続会社・新設会社の上記の者,破産管財人,合併について承認をしなかった債権者(828条2項7号8号)

③ 被告適格

存続会社・新設会社に限られる(834条7号8号)

イ 実体要件

合併の無効原因は,合併手続の瑕疵をいう(江頭797)

* 具体例

合併契約の内容(合併契約の必要的記載事項なし)が違法である
合併契約などに関する書面などの不備置・不実記載
合併契約について法定の要件を満たす承認がない(合併承認決議の瑕疵)
株式買取請求の手続が履行されない
債権者の異議手続が履行されない
簡易合併・略式合併の要件を満たさないのにその手続がとられる
略式合併の差止仮処分命令に違反する
消滅会社の株主に対する株式の割当てが違法になされる
合併の認可がない場合(認可が必要な場合)

ウ 「合併目的の不当性」は合併無効の要件となるか(弁護士の主張)

事例

① 累積未払の剰余金配当額のある優先株式を普通株式に替えることを強制する目的でペーパー・カンパニーを存続会社とする吸収合併を行う

② 少数株主を会社から排斥する目的でペーパー・カンパニーを存続会社とする交付金合併を行う場合に「目的の不当性」を要件とすべき

江頭798の石の流れ

○ 合併無効事由とはできない

∵ 会社の柔軟な業務運営も必要であるから簡単に認めることは問題

× 目的の不当性を理由に合併を無効にすべき必要性がある場合がある(ドイツでは,スクィーズ・アウトに立法的手当てがあるが日本ではない)

○ 合併承認決議の瑕疵を理由に合併無効になると解すべき

⇒ 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(831条1項3号)

エ 訴訟法上の主張制限(行訴法10条1項参照)

江頭799は,合併を承認しなかった債権者は,会社外部者として自己の利益が害されたことのみを無効原因として主張できるとする

2 効果

(1) 訴訟法上の効果

ア 既判力の主観的範囲

対世効がある(838条)

∵ 法律関係の画一的確定

イ 遡及効を否定する立法政策(839条)

(2) 実体法上の効果

① 将来に向かって,吸収合併の存続会社が合併に際して割り当てた株式は無効となり,新設合併の新設会社は解散し,消滅会社が復活する

② 株主・債権債務はもとの会社に復帰する

③ 合併後に存続会社が負担した債務は,復活した各合併当事会社が連帯して弁済する責任を負う(843条1項1号2号)

3 立法政策

法的安定性を図るため合併無効の訴えという形成判決によらなければ無効の主張はできない。また,無効の効力は遡及しないこととする立法政策の採用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 会社分割

第1 意義

1 定義

会社分割とは,株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後の他の会社または分割により設立する会社に承継させることを目的とする会社の行為をいう(2条29号30号)

2 デザイニング

権利義務のどの部分が承継されるかは,吸収分割契約・新設分割計画のデザイニングによる

3 会社分割の社会的機能

① 会社分割制度の制度趣旨は,経営効率化のために事業の一部を別会社化したり,事業の一部をグループ外に切り離す形で移転したりすることを容易にする点

② 同様の目的は,現物出資・財産引受・事後設立などによる子会社の設立,または,グループ外の他社への事業譲渡などの方法も考えられる。しかしながら,既存の制度では,変態設立事項として裁判所の選任する検査役の調査を受ける必要があった。しかも,債務を移転するには債権者の個別の同意が必要であるという欠陥があった。そこで,立法政策は,会社分割制度を採用した

第2 会社分割の手続(※吸収分割を中心に検討する)

⇒ 合併によく似ている!!

1 要件

① 当事会社間で吸収分割契約が締結されたこと(757条・758条・760条・783条・795条・322条1項8号9号)

② 株主総会特別決議の承認を受けていること(783条1項・795条1項・309条2項12号)

③ 吸収分割の各当事会社は,吸収合併契約備置開始日から分割の効力が生じた日の後6ヶ月を経過する日までの間,吸収分割の事項を記載した書面を本店に備置しなければならない(782条1項2号,794条1項・803条1項2号・976条8号)

∵ 株主が分割条件の公正を判断し,債権者に異議申述の判断資料を提供

④ 吸収分割の際に承継会社に分割差益が生ずる場合は,承継会社の取締役は分割承認決議を行う株主総会において,その旨を説明していること(795条2項)

⑤ 債権者保護手続を履践していること

⑥ 分割の事後開示をしていること(791条1項1号2項3項・801条2項3項2号4項・811条1項1号2項3項・815条2項3項2号4項5項)

 

 

 

2 吸収分割のデザイニング(法定記載事項)

① 承継会社・設立会社が承継する権利義務に関する事項

* ①は合併などにはないデザイン事項である

* ①の定め方は,特定の権利義務が分割後いずれの会社に帰属するのが明らかになる程度に記載する必要

* 債務に関する定めは,免責的か重畳的に承継されるのかを明示

② 分割条件が定まっていること

③ 承継会社・設立会社の組織・体制

④ 手続の進行時期

3 反対株主の株式買取請求権

(1) 要件

当事会社の反対株主であること

(2) 効果

株式買取請求権の発生(785条・786条・797条・798条・806条・807条)

* 簡易分割の分割会社の株主には,株式買取請求権はない(785条1項2項・806条1項2号)

∵ 分割会社はもともと損害が出にくいうえに簡易分割の要件を満たす場合は損害も軽微にとどまるから

4 債権者保護手続のスキーム

(1) 基本的視座

ア 債権者の不利益

分割会社の債務であったものが,吸収分割契約のデザイニングによって,承継会社割り振られてしまうと,各債権者に不利益を与える可能性がある

* 特にスキームを考えるのにあたり考慮すべき利益

合併と異なり,会社分割には,不採算部門を切り捨てて倒産させ,他の部門を生き残らせるための手段として濫用されるという固有の危険がある

イ 会社の利益

会社は,企業買収のため会社分割の手続を迅速に進めたいという要請がある

ウ 2つの利益の調和の観点

異議手続の対象となる債権者の範囲を一定類型に限定する[5]ということで,利益の調和を目指す

エ 異議を述べることができると法定された債権者たち

① 分割会社の債権者のうち会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができなくなる債権者(789条1項2号・810条1項2号)

② 人的分割(分割会社が分割対価である株式などを株主に分配する場合)における分割会社の債権者(789条1項2号・810条1項2号の各括弧書き)

③ 承継会社の債権者(799条1項2号)

利益衡量上,吸収合併の存続会社の債権者と同じ⇒平仄を合わせる!

(2) 要求される債権者保護手続

① 各当事会社は一定の事項を公告・催告する

⇒ 減資の債権者保護手続のスキームを参考にしている!!

* 個別催告の省略について

ア 要件

① 官報公告に加えて,定款に定めた日刊新聞紙または電子公告で公告

② 分割会社であること

③ 不法行為により生じた債務の債権者には個別催告をしていること(789条3項・810条3項)

∵① 不法行為債権者に分割会社の公告ホームページのチェックなどを要求することが困難であること

② 分割会社の債権者は,類型的に合併の消滅会社と比較して債権者の危険が大きい

イ 懈怠の効果

① 789条4項5項・799条4項5項・810条4項5項

② 個別催告を受けるべき債権者が個別催告を受けることができなかった場合は,その債権者は債務の承認についての各当事会社の分割契約におけるデザイニングに関わりなく,いずれの会社についても債務の履行を請求できる(759条2項3項・761条2項3項・764条2項3項・766条2項3項)

5 効果

① 承継会社は,吸収分割契約の定めに従い分割会社の権利義務を承継する(759条1項・761条1項・764条1項・766条1項)

* この承継は一般承継

② 契約締結上の地位も,デザイニングに従って契約相手方の同意なしに承継[6]

第3 簡易分割・略式分割

1 分割会社における場合

(1) 要件

分割会社が承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が分割会社の総資産額として法務省令(規則187条・207条)で定める方法により算定される額の5分の1を超えないことを要する(784条3項・805条)

∵ 承継させる資産の額が基準とされ,純資産が基準とされないのは,後者を基準によると,承継負債額を大きくすれば分割会社から大規模な事業が移転する場合には簡易分割の手続が利用されてしまうから

2 承継会社における場合

(1) 要件

① 分割に際して交付する承継会社の株式の数に一株当たり純資産額を乗じて得た額を超えないこと

①’分割に際して交付する承継会社の社債その他の財産の帳簿価額の合計額が,承継会社の純資産額の5分の1を超えないこと(796条3項)

② 承継会社に分割差益が計上されないこと(796条3項ただし書き)

∵ 吸収合併における存続会社と平仄を合わせている

3 略式分割

(1) 要件

① 吸収分割の当事会社の一方が他方の総株主の議決権の10分の9以上を有すること

② 承継会社である従属会社が譲渡制限会社で分割会社に対して株式の交付を行う場合には略式分割の手続をとることができない(796条1項ただし書き)

(2) 効果

従属会社における分割承認の株主総会決議を要しない

(3) 差止

784条2項・796条2項

∵ 決議取消しの訴えができないこととの平仄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 会社分割の無効

1 要件

(1) 訴訟要件

① 出訴期間

分割の効力が生じた日から6ヶ月以内(828条1項9号10号)

② 原告適格

分割の効力が生じた日に各当事会社の株主,取締役,執行役,監査役,清算人であった者もしくは当事会社のそれらの者,または破産管財人もしくは分割について承認をしなかった債権者のみ(828条2項9号10号)

* 「分割について承認をしなかった債権者」とは,Ⅰ債権者の異議手続において異議を述べた会社債権者のほか,Ⅱ必要な格別の催告を受けなかった者をいう

③ 被告適格

吸収分割であれば分割会社と承継会社,新設分割であれば分割会社と設立会社の双方(834条9号10号)

*被告側が固有必要的共同訴訟(民訴40条)という珍しいケース

(2) 実体要件

会社分割の無効原因は,分割手続の瑕疵である

*具体例

吸収分割契約・新設分割計画の内容が違法である
吸収分割契約に関する書面などの不備置・不実記載
吸収分割契約・新設分割計画の承認決議に瑕疵がある
法定の株式買取請求の手続が履行されない
法定の債権者の異議手続が履行されない
簡易分割・略式分割の要件を満たさないのにその手続がとられる
略式分割の差止仮処分に違反する
会社分割の認可を要する場合にそれがない場合

*吸収分割の場合の分割対価の不公正は,株式買取請求権や取締役の責任追及により救済が求められるべきもので,分割の無効原因ではない(江頭833)

2 効果

(1) 訴訟上の効果

ア 既判力の主観的範囲

対世効あり(838条,937条3項4号5号)

イ 遡及効の有無

否定(839条)

(2) 実体法上の効果

ア 吸収分割の場合

分割後に承継会社に帰属した財産は各当事会社の共有,債務は連帯債務(843条1項3号2項ないし4項,868条5項・870条15号)

イ 新設分割の場合

① 設立会社は解散

② 分割後に設立会社に帰属した財産・債務は分割会社に帰属(843条1項4号・2項ただし書き)

③ 共同新設分割の場合は財産は各分割会社の共有・債務は連帯債務(843条1項4号・2項ないし4項,868条5項,870条15号)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五 株式交換・株式移転

第1 意義

(1) 株式交換の意義

ア 定義

株式交換とは,既存の株式会社又は合同会社Aに対してBの株主が有する全株式が移転してAが完全親会社となるものをいう(767条・769条1項)

イ 社会的機能

株式交換は,企業買収または既存の子会社の完全子会社化などに利用

ウ メリット

⇒ 合併における消滅会社の権利義務の承継に関する複雑な問題は生じない

∵ 株式交換・株式移転では,既存会社の法人格は完全子会社になっても維持

(2) 株式移転の意義

ア 定義

株式移転とは,完全親会社となる株式会社Aが新設され,Aに対してBの株主が有する全株式が移転されるものをいう(773条1項1号・774条1項)

イ 社会的機能

① 既存の1社の会社が持株会社を創設する場合

② 既存の2社以上の会社が1つの持株会社の下に経営を統合する場合

(3) 持株会社の作り方

① 株式交換

② 株式移転

③ 抜け殻方式

抜け殻方式とは,親会社となる会社Aが既存の子会社Bに対してすべての事業を承継させる会社分割を行うことをいう。メリットは,強いて言えば,株式移転と比較して複数の完全子会社を一気に作れる点である(江頭804)。これに対して,デメリットは,①事業を行う子会社に事業用財産を移転する際に対抗要件を具備する必要が生じる,②業種が事業の許認可を要する場合に子会社に再申請させる必要があること(江頭837)

 

第2 株式交換・株式移転の手続

1 株式交換契約・株式移転契約(デザイニング)

(1) 株式交換契約

各当事会社は,法定事項を定めた株式交換契約を締結しなければならない(767条)

(2) 株式移転計画

株式移転は契約相手方が存在しないので契約ではなく,法定事項を定めた株式移転計画を作成する(772条)

 

 

 

(3) 両者のデザイニングについて

① 対価のデザイニング

完全子会社となる会社の株主がその株式と引換えに完全親会社となる会社から何を交付されるかに関する定め(768条1項2号3号2項3項)

* 株式の交付

事例 P社の社長Yは,P社の対立株主Xらがムカつくので株主ではなくす方法を考えた。それは,P社の上にQ社を創設し,株式移転をしてP社の株主には,対価として現金とする交付金株式交換をすることを思いついた。そして,Q社はYの一人会社とする予定である。可能であるかをL弁護士に相談した

∴ できないと解される[7]

② 新株予約権をどうするかのデザイニング

完全子会社となる会社が発行した新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代えて完全親会社の新株予約権を交付する場合の定め(768条1項4号イ)

⇒ 新株予約権が行使されると完全親会社の100パーセント支配が崩れてしまうが,どのような対処をするかは会社のデザイニングに委ねられる

 

2 株式交換・株式移転の要件

(1) 要件

① 株式交換契約を締結していること,株式移転計画を定めていること

② 株式交換契約・株式移転計画などを備置・開示していること(782条1項3号・794条1項・803条1項3号・976条8号)

③ 株式交換・株式移転の承認の特別決議(例外あり)があること(783条1項・795条1項・804条1項・309条2項12号)

④ 株式交換差損が存在する場合は取締役が説明したこと(795条2項3号)

⑤ 債権者保護手続が必要な場合はその履践をしたこと

⑥ 完全子会社となる会社が株券を発行している場合は株券提供公告(219条1項7号8号・293条1項6号7号)

⑦ 事後開示をしていること(791条1項2号・811条1項2号)

 

 

(2) 債権者保護手続について

原則 ⇒ 株式交換・株式移転では債権者保護手続をしない!!

∵ 株主が代わっても財産状態は悪化しない

例外 ⇒ 当事会社の債権者の利害に大きな影響を及ぼすケースのみ(789条1項3号・810条1項3号・799条1項3号)

*債権者保護手続が必要な場合

完全子会社となる会社側 完全親会社となる会社(株式交換のみ)
株式交換新株予約権・株式移転新株予約権が新株予約権付社債に付されている場合の当該社債権者[8] ① 対価親会社の株式以外の例えば金銭の場合(交付金株式交換)の親会社の債権者

② 親会社が株式交換契約新株予約権として新株予約権付社債を承継する場合の完全親会社の既存の債権者

③ 株主払込資本変動額を資本金に計上せず,資本剰余金を増加させる場合の親会社の債権者

 

3 株式交換・株式移転の効果

(1) 株式交換の効果

株式交換の効果は,完全子会社となる会社の株主の有する全株式が一定の日に既存の完全親会社となる会社に移転し,完全子会社の株主は同じ日に完全親会社となる会社から金銭などが交付される。完全子会社となる会社の株主が保有する株式を完全親会社となる会社に対して現物出資して募集株式の発行を受けた場合と同一

⇒ デザイニングされた効力発生日に効力発生

 

 

(2) 株式移転の効果

完全子会社となる会社の株主の有する全株式が新設される完全親会社となる会社に移転し,完全子会社の株主は完全親会社の株主となる。完全子会社となる会社の株主が保有する株式を完全親会社となる会社に対して現物出資して会社を設立した場合と同一

⇒ 株式移転は形成登記(774条)

 

4 反対株主の株式買取請求権

(1) 要件

当事会社の反対株主であること

(2) 効果

株式買取請求権の発生(785条・786条・797条・798条・806条・807条)

 

第3 簡易株式交換・略式株式交換

1 簡易株式交換

(1) 要件

ア 積極要件

① 株式交換に際して完全親会社となるAが交付するA株式の数に一株当たりの純資産を乗じて得た額がAの純資産の5分の1を超えないこと

② 株式交換に際して,Aが交付するAの社債その他の財産の帳簿価額の合計額がAの純資産の5分の1を超えないこと(796条3項)

イ 消極要件

Ⅰ Aに株式交換差損が計上される場合

Ⅱ Aが譲渡制限会社であって株式を交付する場合

Ⅲ 株主に対して株式買取請求に係る通知・公告をした日から2週間以内に規則197条で定める数の株式を有する株主が当該株式交換に反対の意思を通知したとき

(2) 効果

Aは,「株式交換承認の特別決議があること」という要件が不要になる

2 略式株式交換

(1) 要件

ア 積極要件

株式交換の当事会社の一方が他方の総株主の議決権の10分の9以上を有していること

イ 消極要件

① 完全子会社となる従属会社が公開会社であって,その株主に対して譲渡制限株式などが交付される場合(784条1項ただし書き)

② 完全親会社となる従属会社が譲渡制限会社であって株式の交付を行う場合(796条1項ただし書き)

(2) 効果

従属会社における「株式交換承認の特別決議があること」という要件が不要になる

(3) 差止(784条2項・796条2項)

通常の株式交換では差止めができないが,略式株式交換ではできる

 

第4 株式交換・株式移転の無効(828条1項11号12号)

1 訴訟要件

① 出訴期間

効力が生じた日から6ヶ月以内

② 原告適格

株式交換・株式移転の効力が生じた日に各当事会社の株主,取締役,執行役,監査役,清算人であった者,完全親会社のそれらの者,破産管財人もしくは株式交換について承認をしなかった債権者(828条2項11号12号)

* 株式移転の債権者は原告適格なし

③ 被告適格

完全親会社となった会社・完全子会社となった会社の双方(固有必要的共同訴訟)(834条1項11号12号)

2 判決の効力

(1) 訴訟法上の効果

ア 既判力の主観的範囲

対世効(838条)

イ 判決の遡及効

否定

(2) 実体法上の効果

ア 株式交換が無効の場合

① AがBの株主に対して交付した株式は将来に向かって無効(839条)

② Aが有するBの株式は無効判決の確定時点において当該A株式の株主である者に対して交付される(844条1項)

イ 株式移転が無効の場合

① Aは解散に準じて清算(475条3号・478条4項・839条・937条3項7号)

② Aが有するBの株式は無効判決の確定時点において株式移転に際して発行されたA株式の株主である者に対して交付される(844条1項)

③ AがすでにBの株式を他に譲渡している場合は金銭で処理される

 

 

 

 

 

 

第六 事業譲渡・事業の譲受け・業務委託など

第1 事業譲渡(譲渡会社を中心とする考察)

1 意義

(1) 定義

事業譲渡とは,株式会社が事業を取引行為として他に譲渡する行為をいう

(2) 特別決議の規制を受ける要件

ア 積極要件(467条1項1号2号・309条2項11号)

(ア) 法律要件

① 事業の譲渡であること

② 全部の譲渡であること

②’重要な一部の譲渡であること

(イ) 「事業の譲渡」の要件の整理

Ⅰ ゴーイング・コンサーンの譲渡であること

譲渡会社が譲受会社に対して,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産を譲渡していること

*ゴーイング・コンサーンか否かの考慮要素

ⅰ 譲渡会社の製造・販売などにかかるノウハウの譲受会社に対する承継の有無

ⅱ 得意先関係などの提供[9]

⇒ 判例は,「単に承継動産を用いて同種の事業を行う」だけでは足りないとする!!

Ⅱ 営業活動の承継を伴うこと[10][11]

譲渡会社が譲受会社に対して,その財産によって営んでいた営業的活動を譲受会社に受け継がせていること

Ⅲ 競業避止義務を負担すること

譲渡会社がその譲渡の限度に応じて法律上当然に商法16条・会社法21条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものであること

 

 

 

 

 

 

(ウ) 事業の「重要な一部」であるかの判断要素

視点 株主の重大な利害に関わる事業再編か否かの観点から量的・質的双方の側面で判断

① 量的な基準

ⅰ 譲渡資産の帳簿価額については形式的基準が467条1項2号にある(総資産額の5分の1以上)

ⅱ 売上高や利益の要素が総合的に見て事業全体の10パーセント程度を超えていなければ通常は重要ではない

② 質的な基準

沿革などから会社のイメージに大きな影響がある場合

 

イ 消極要件

譲渡する資産の帳簿価額が当該会社の総資産額として規則134条で定める方法により算出される額の5分の1を超えない場合

 

3 効果

(1) 手続

株主総会の特別決議による承認(467条1項1号2号・309条2項11号)

(2) 会社分割と異なる点

事業譲渡は会社分割とは異なり,「承継会社は,吸収分割契約の定めに従い分割会社の権利義務を承継する(759条1項・761条1項・764条1項・766条1項)」という効果は生じない

⇒ 譲渡会社は,「事業を構成する債務・契約上の地位を移転する」という効果を欲するのであれば,個別に「譲受会社の同意」が要件となる

* その代わり,吸収分割契約の備置・開示に相当する手続はない

4 株主総会特別決議を欠く場合の効果

原則 ⇒ 無効(最判昭和61年9月11日判時1215号125頁)

● 決議を欠缺について悪意・重過失でなければ譲渡会社は無効主張不可

∵ 取引の安全,要件該当性の判断が明確にできない

×① 株主の利益も考慮すると,取引の安全のみ重視できない

② 実地調査で要件該当性は容易に判断できる

○ 無効と解すべき

例外 ⇒ 譲受人は,決議欠缺による無効を契約後20年経ってから主張するのは信義則違反[信義則による訴訟法上の主張制限と解される])

5 反対株主の株式買取請求権(469条・470条)

6 略式事業譲渡

(1) 要件

事業譲渡の契約相手方が譲渡会社の総株主の議決権の10分の9以上有する

(2) 効果

譲渡会社において,株主総会による承認を要しない(468条1項)

* 事業譲渡については,他の略式手続と異なり差止請求権なし(784条2項・796条2項対比)

 

第2 事業の全部の譲受け

1 総会決議(467条1項3号・309条2項11号)が必要となる場合の要件

(1) 積極要件

① 譲受会社が他の会社の事業を譲り受けること

② 全部であること

* わずかな財産・債務を譲受対象から除外しても,当然に事業全部の譲受けにあたらなくなるというわけではない

②’事業の譲受けが事後設立に当たる場合(467条1項5号・江頭69・863)

(2) 消極要件(要件①②に対してのみ)

Ⅰ 簡易な事業の全部の譲受けにあたること(468条2項。なお,468条3項の場合は簡易手続は利用不可)

∵ 吸収合併存続会社の簡易合併とパラレル

⇒ 譲受会社が対価として交付する財産の帳簿価額の合計額の譲受会社の純資産額に対する割り合いが5分の1を超えないこと

Ⅱ 略式事業全部の譲受けに該当する場合(468条1項)

譲渡会社B社が譲受会社A社の総株主の議決権の10分の9以上を有していること

2 効果

当該契約について株主総会特別決議による承認が必要

3 制度趣旨

吸収合併の存続会社に近い立場に立つ

4 反対株主の株式買取請求権(469条・470条)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 事業全部に関する業務委託

1 特別決議が必要となる要件

① 事業全部の賃貸

* 契約の効果は,賃借人が自己の名及び計算で事業全部の収益をする

② 事業全部の経営委任

* 賃貸の効果と異なるのは,委託会社には,自己の名または計算の一方が残存すること

③ 事業上の損益全部を共通にする契約

* 当事会社の営業損益または経常損益など会社全体の計算に関する損益を合算したうえで,それをあらかじめ合意した何らかの方法で分配する旨の定めをいう

2 効果

株主総会特別決議が必要(467条1項4号・309条2項11号)

3 制度趣旨

実務上業務委託と呼ばれる行為が会社の事業全部について行われるものであり,経営形態が基本的に異なるから



[1] M&A型及び合弁型においては,法定の要件を備える他に,買収契約ないし合弁契約において,表明保証条項,誓約条項,相手方当事者の競業禁止,エスクロー条項を定めることが必要となる。

[2] 今日では,「消滅会社の株主の承継」という効果の射程距離を意識する必要がある。

[3] ドイツでは,会社類型・多数派の持株比率を限定して対価の柔軟性を認めているので,スクィーズ・アウトに対する一定の立法的手当てがなされているのに対して,日本では,その点に対する手当てがなされていないので救済法理を検討していく必要があることになる。

[4] 少し詰めてみる。まず,典型的に合併比率の不公正が問題となるのは,「合併条件が消滅会社の株主が合併前に有していた株式の経済価値に等しい存続会社の株式・合併交付金の取得」するという定めである。この場合は,論理的には,シナジー効果はすべて存続会社の株主の側が享受するということになりかねない。とすれば,合併比率が不公正であるようにも思われる。しかしながら,翻って考えると,シナジーは,「合併後の存続会社の株式の価値」に反映される。とすれば,一見すると,上記の事例では消滅会社の側ではシナジーが反映されないように見えるものの,存続会社の株式を手にすることができ,そこにシナジーが反映されることになる。そうすると,トータルでみれば,消滅会社の株主もシナジーを享受していると評価することができる。したがって,「合併比率の不公正」という論点の射程距離というのは,そのような石の流れが成り立たない交付金合併あるいは交付金による調整が多い場合と考えられる。たしかに,この場合は消滅会社の株主は,存続会社の株式を手に入れることができない。そうすると,シナジーが反映され得るのは,「合併交付金」に限られるということになると考えられる。したがって,合併交付金にシナジーが反映されない場合に上記論点が問題になると位置付けておくべきと考える。

[5] 回りくどい言い方であるが,要するに,「分割会社の債権者∧分割会社に対して債務の履行を請求できる債権者∧物的分割」の場合の債権者は,異議を述べることできないということである。たしかに,物的分割の場合,分割会社は,事業が移転してしまうが,その対価として,移転した純資産の額に等しい対価を得るので,結局,財産の流出もないと「論理的」にはいえるからである(この点が人的分割と異なる点である)。したがって,ある程度債権者保護の必要はあろうが,迅速性の観点からこの類型の債権者は,債権者保護の対象から切り捨てられていると考えられる。逆にいえば,分割会社としては,債権者保護手続を省略するために,物的分割を選択し承継させる債務についても重畳的に債務引受をしてしまうということも考えられるであろう。この場合には,承継会社側は債権者保護手続が不要となる。

[6] この点,契約相手方である売主などは,承継会社が分割会社よりも信用が劣るという場合は不利益を被ることになるが,迅速性の要請にしたがって債権者保護手続の範囲から除外されている。したがって,法定の保護はないので,この場合の売主は,もともと契約を締結する段階において,「買主の会社で会社分割が行われ,契約締結上の地位が承継会社に移転し,売主が信用が劣ったと判断する場合は契約を解除することができる」という条項を入れることで予防法務を展開するほかないということになる。なお,江頭828は,「債務の移転について売主である契約相手方の同意が必要」とする条項は無効であろうとするが,会社分割制度が同意なしでの効果の発生を予定しているので,私見もそのように解すべきと考える。

[7] 新設合併や株式移転は新たに会社を設立することになるので,まったく新設会社の株式を発行しないという処理はできない。そうすると,問題はP社の株主のうち,「株主Yについては対価として株式を交付するが,株主Xは株式は交付せず現金を交付する」という定めが,773条1項5号6号の定めとして適法であるかという点にある。この点,江頭842は,「共同株式移転の場合に一方当事者の株主に対して株式を交付しないという処理はあり得る」と指摘している。しかし逆にいえば,同一会社内の株主間で割り当てに差をつけるという定めは許容しない趣旨と解される。6号は「割当て」という言葉を使用しているところ,割当てなら割当自由ではないかとも思われるが,江頭は上記のようなケースは想定していないと思われる。

[8] 少し詰めて説明する。そもそも,子会社の発行する新株予約権については,何らの手当てをしないということでも構わない。しかしながら,新株予約権が行使されてしまうと,完全親会社の完全子会社の100パーセント支配が崩れてしまう。そこで,新株予約権を承継する手続が望まれたが立法政策は当初これを否定していた。なぜなら,株式交換や株式移転は債権者保護手続という煩雑な手続をとらなくても,柔軟かつ迅速に組織再編ができるというのが制度の売りであったからである。したがって,立法者は株式交換について債権者保護手続を採用するのを嫌がり,そのため,新株予約権付社債を完全親会社が承継するということが認められなかった。しかしながら,そうすると,新株予約権を発行している会社の組織再編が難しくなるだけであるので,法は株式交換について,「渋々」債権者保護手続を規定し承継を許容するという立法政策を採ったのである(768条1項4号イ)。この結果,完全子会社側及び完全親会社側の②の債権者保護手続が登場することになった。社債権者は,債権者に他ならないのであるから,利害に影響があるということで子会社側は理解しやすいと思われる。これに対して,親会社側でも②が設けられているのは意外かもしれない。これは,親会社が子会社から新株予約権付社債を承継するということは債務が拡大するということを意味しているため,既存の親会社の債権者を保護する必要があるからとされている。

[9] 近時は,ゴーイング・コンサーンが否か,言い換えれば,事業譲渡として株主総会特別決議が必要と規律するためには,「得意先情報の移転」や「ノウハウの提供」という考慮要素が重視されるようになってきている。突き詰めてゆくと,従前は,40年判例が挙げたⅢの「競業避止義務を負担すること」が重視されていた。たしかに,競業避止義務が発生すると譲渡会社は,当該事業の継続をすることができなくなるという重大な効果が生じる。これは,事業が単一の会社では事業継続が困難になると評価することができる。このような点に照らすと,かつては株主総会特別決議が必要な実質的な理由は,「競業避止義務を負担すると事業の継続が困難になるので株主の意向を反映させる必要がある」と説明されてきたと考えられる。このような思考を詰めてゆくと,会社法21条にいう「当事者の別段の意思表示」がある場合には競業避止義務を負担しないということになる。そうすると,譲渡会社は,事業を継続することが困難になるという実態がないので,株主総会特別決議は不要である(21条と467条の事業譲渡が同義であることが前提)から,「事業の譲渡」にはあたらないと思考することが可能となる。

しかしながら,このような思考は今日では妥当性を欠くものと考えられる。

まず,「競業避止義務を負担するか」という形式的な法的効果の発生のみに着目している点が妥当ではない。というのも,究極的には,事業譲渡について株主総会特別決議が必要とされるのは,「株主の重大な利害に関わるから」であるところ,論理的には,競業避止義務を負担しない場合であっても株主の重大な利害に関わる場合はあると考えられる。具体的には,ノウハウや得意先情報を提供してしまう場合である。これらを提供する場合は,少なくとも,譲渡会社が競業可能な範囲でも譲受人に譲渡した得意先を奪い返すのは,「不正競争」(21条3項)と評価されると考えられる。そうだとすれば,結局のところ,ノウハウや得意先情報の提供が伴う場合は,上記で述べた「競業避止義務を負担する場合」に株主に生じる重大な利害関係とその深刻さは変わらないものと考えられる。

また,今日の会社の活動領域は多岐に渡るところ,21条の競業避止義務は「同一及び隣接市町村」に限られるということになる。また,会社の事業目的が単一という会社も今日では少ないように思われる。このような点に照らすと,今度は逆に,「21条の競業避止義務を負担したからといって,株主に重大な利害関係がある」とはいえない場合も登場することになる。

このように考えてくると,「競業避止義務を負担するか」というのは,株主に重大な利害を与えるという優れたメルクマールであるとはいえるが,過少包摂ともいえるのであり,「得意先情報やノウハウの提供」も併せて判断するのが相当と考えられる。なお,江頭859は,「得意先の移転があることは,会社法21条以下の事業譲渡に該当するための不可欠の要件」と解すべきとする。江頭859は通説に反対するが,通説では,21条と467条1項1号2号の「事業譲渡」を同義に解するのであるから,特別決議が必要な場合の「要件」とすることになるが,そこまで硬直的に考えると,かつて「競業避止義務を負担する」という効果を「要件」と解していたことと同じ失敗を繰り返すことになるように思われる。それゆえ,競業避止義務の負担と得意先・ノウハウ情報の提供があるかを総合的に判断するということになると考えられる。

この点,江頭説について検証してみよう。江頭は,たしかに,21条の事業譲渡の要件は,21条2項や3項にかんがみると,競業避止義務の負担がある場合や得意先情報の提供がある場合を「事業譲渡」というと解すべきである。しかしながら,21条と467条の「事業譲渡」は同義に解すべきではなく,467条の事業譲渡とは,「ゴーイング・コンサーン」の譲渡があれば足り,具体的には,「事業用財産にノウハウが付随して移転すればよい」としている。そこで,突き詰めてゆくと,結局,江頭と判例の対立は,「株主に重大な利害関係がある」という抽象的な規範をいかに解釈していくかという点に由来しているものと考えられる。すなわち,江頭は,「株主に重大な利害関係がある」とは,「事業用財産にノウハウが付随する場合」まで拡張するのに対して,判例・近時の学説は,「株主に重大な利害関係がある」とは,「競業避止義務を負担する場合」あるいは「得意先情報を提供する場合」をいうと解する。思うに,事業譲渡において株主総会決議を欠いた場合の効果は無効であるから(江頭862),その要件該当性は明確に判断できるようにする必要がある。とすれば,21条と467条の「事業譲渡」の意義は同義に解すべきである。そうすると,会社法の下では,21条2項及び3項があるので,法文上,事業譲渡の該当性について,①競業避止義務を負担していること,①’得意先情報を提供していること―を導くことが可能である。したがって,法文上は,判例及び近時の学説の見解を妥当と考える。この点,江頭説は,「ノウハウが付随する場合」も含まれるとする。たしかに,ノウハウの譲渡があればそのノウハウが独自性を持つものであれば,譲渡会社はその業界での優位性を失うことになるので,株主の利害に重大な影響を与える可能性がないわけではない。しかしながら,近時では,ノウハウも多岐に渡るわけであり,一般的な業種のノウハウが付随したとしても,それが直ちに業界での優位性に影響を与えるとは限らない。また,江頭説では,譲渡会社は,「競業避止義務」や「得意先情報」の提供はないことが前提となっている。そうすると,得意先情報の提供が内容に含まれない以上,譲渡会社が既存の顧客を維持しても21条3項に反するとは限らないし,競業避止義務も負わない特約があるわけである。そうすると,営業用財産はノウハウ付で譲渡しても,「譲渡会社は,そのままの形で事業を継続することができる」と考えられる。もし,そうだとすれば,それほど「株主に重大な利害を与える」ものと評価できるのか疑問もあろう。また,江頭説によると,特別決議が必要かが「営業用財産にノウハウが付随するか否か」が分水嶺となるが,このような判断は,客観的に判断しにくいものと考えられるので,法的安定性を損ないかねない。もとより,江頭も松田説を批判しているが,「ノウハウの承継を伴わない営業用財産の譲渡はあまり意味がない」という社会的実態があると仮定すると,江頭説も松田説と帰結がほとんど変わらないのではないかと考えられる。したがって,江頭説の松田説に対する批判はそのまま江頭説にも妥当するものと言わなくてはならない。このように考えてくると,私見は,江頭説について,にわかに首肯けないところがある。

[10] 「営業活動の承継があること」という要件の実践的意義は,営業用財産の譲渡のみでは事業譲渡としては足りないとする点にあると解される。もっとも,今日では,「ゴーイング・コンサーン」であるか否かの判断の中に「営業活動の承継があること」の判断も先取りで含まれてしまっているものと考えられる。なぜなら,ゴーイング・コンサーンのメルクマールが,①競業避止義務の負担があること,②得意先情報の提供があること,③ノウハウの提供があること―であるところ,これらは譲受会社が,「譲り受けた営業用財産を用いて事業活動を行う」ということを当然の前提としているように思われる。とすれば,「営業活動の承継があること」という要件は,当然満たすように思われるので,あまり事業譲渡の射程を限界づけるという点では意味のある要件とはいえないものと解される。強いて考えると,この要件の意味は,「譲受会社がゴーイング・コンサーンの承継を受けたが,気分が変わって事業活動をしない場合」ということになるが,これは将来のことであるので,蓋然性判断にならざるを得ないが,それを特別決議をするにあたり譲渡会社が判断するのは無理と考えるのが通常であろう。このように突き詰めてゆくと,「営業活動の承継があること」という要件はほとんど無意味な要件であるといえよう。

[11] 以上の検討を踏まえ思うところを述べてみたい。この事業譲渡について判例が定式化した3要件は今日では維持することができず見直しが図られるべきである。具体的には,467条の制度趣旨にかんがみ,「株主に対して重大な利害がある場合」≒「ゴーイング・コンサーンの譲渡があること」と要件化し,その要件の考慮要素として,①競業避止義務を負うか,②得意先情報の提供はあるか,③ノウハウの提供はあるか―を総合判断すべきである。そして,各考慮要素の位置付けを考えると,①を満たすだけでは足りない場合があるので,②③を総合的に考慮すべきである。逆に,①を満たさない場合でも②を満たせば足りると解されるので,②が中心的な考慮要素となる。なお,③は単独では事業譲渡の要件は満たさない。問題になるのが,①と③の組み合わせということになる。この点は,事業譲渡にあたると解してもよいのではないかと考えるが,具体的に個別の事案について「その会社にとり競業避止義務を負うことのウェイトがどの程度あるのか」ということを考えていくことになるであろう。

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