募集株式の発行、第三者割当というパッケージ、新株発行の差止め、新株予約権

第6編 資金調達

第一 株式の発行・自己株式の処分(募集株式の発行)

第1 募集事項の決定(公開会社の場合)

1 要件

(1) 原則

取締役会決議があること(202条3項3号・5項)

(2) 払込金額が特に有利な金額である場合(201条1項・199条3項)

① 株主総会特別決議があること

② 取締役はその株主総会において当該払込金額で募集株式の発行を行うことを必要とする理由を説明すること(199条3項・200条2項)

 

第2 株主割当てというパケージ

1 デザイニング(譲渡を認めるか)

(1) 法律構成

各株式が割当てを受ける募集株式の数に応じた新株予約権を無償割当て(277条)

(2) 要件

取締役会決議があること(278条3項)

(3) 効果

株主は新株予約権の無償割当てを受けて,これを譲渡することにより,「募集株式の割当てを受ける権利」を譲渡できる

(4) 制度趣旨

株主割当てというパケージでは,募集株式の払込金額は株式の時価よりも安く定められるので,割当てを受ける権利には経済的価値がある。他方,譲渡を認めると会社の事務処理が煩雑になる。そこで,譲渡を認めるかは会社の裁量に委ねられている。現実には譲渡を認める例はないといってよい

2 勧誘

(1) 基準日公告

株主割当てというパケージで新株を募集する場合は,基準日に株主名簿に登載されている者に権利が与えられる。そこで,株券発行会社の場合は,基準日公告をする(124条3項・江頭669)

(2) 権利内容の通知

基準日現在の株主名簿上の株主に対して通知(202条4項)

3 株式の申込み

(1) 要件

① 募集株式の割当てを受ける権利があること

② 株主が引受けの申込期日までに引受けの申込みをしたこと

(2) 効果

会社は募集株式を割当てする義務が生じる(202条2項)

 

(3) 割当ての効果

引受けの申込者は,募集株式の引受人(206条)

4 出資の履行

(1) 引受けの効果

払込金額を払い込みする義務が発生する(208条1項2項)

*引受人側から会社に対する債権を自働債権とする相殺不可(208条3項)

(2) 引受人が払込期日までに出資の履行をしない場合の効果

当然失権(208条5項)

5 効力の発生時期

払込期日を定めた場合には,払込期日に株主となる(209条1項1号)し,払込期間を定めた場合には,出資の履行をした日に募集株式の株主となる(209条2号)

6 無効・取消しの制限(211条2項)

(1) 要件

① 株主となった日から1年を経過していること

①’その株式について権利を行使したこと

(2) 効果

① 錯誤を理由として引受けの無効を主張することができない

② 詐欺・強迫を理由として引受けの取消しの主張ができない

∵ 102条4項と比較すると,1年間の余裕を認めているが,これはすでに会社が存在しており,引受けの一部の無効・取消しが会社に及ぼす影響小さい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 第三者割当てというパケージ

1 デザイニング

2 通知・公告

(1) 要件

① 第三者割当てであること

② 払込期日の2週間前までにしていること(201条3項4項)

(2) 違反の効果

原則無効

(3) 制度趣旨

株主が不利益を受ける可能性があるので,株主に募集株式の発行の差止請求(210条)をする機会を提供するため

3 株式の引受け・払込み

(1) 申込みと割当て

(2) 出資の履行

ア デッド・エクイティ・スワップ(DES)

(ア) 定義

DESとは,現物出資財産が当該会社を債務者とする金銭債権である場合をいう。第三者割当ての場合は出資の履行方法がDESであることが考えられる

(イ) 検査役の調査

原則 必要

例外 不要(207条9項5号)

① 当該金銭債権の弁済期がすでに到来していること

② 募集事項として定めたその価額が当該金銭債権にかかる負債の帳簿価額を超えないこと

∵ すでに弁済期が到来している債務については,券面額説によっても損害は生じない。というのも,いったん会社が債務を弁済して即座に払込価額の払込みを受けるのと変わらないからである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 違法な募集株式の発行に対する措置

1 募集株式の発行などの差止め

(1) 要件

① 会社が法令・定款に違反する株式の発行・自己株式の処分であること

*法令違反の具体例

法が定める権限ある機関の決定を経ない場合(199条2項4項など)
公開会社で有利発行であるのに,募集に特別決議が欠ける(201条1項)
募集事項が均等ではない場合(199条5項)
株主の募集株式の割当てを受ける権利が無視される場合(202条1項1号)
株主割当てにおいて株主に対して権利内容の通知なし(202条4項)
現物出資につき必要な検査役の調査がない場合(207条1項)
検査役の調査を要しない現物出資の過大評価がなされる場合(207条9項)

①’著しく不公正な方法による株式の発行・自己株式の処分であること

*不公正発行の具体例

会社支配の帰属をめぐる争いがあるときに,取締役が議決権の過半数を維持・争奪する目的あり
反対派の少数株主権を排斥する目的あり

② 株主が不利益を受けるおそれがあること

*「会社に損害が生じるおそれ」ではなく,「株主の直接の不利益」を要件

(2) 要件①の「有利発行」の場合

ア 典型例①

(ア) 事例

特定の者の株式買占めにより株式の価格が急騰した時期において,現経営者が買占めに対する対抗措置として第三者割当てによる募集株式の発行をするケース

(イ) 問題点

市場価格は,公正な払込金額の基準としては何の役にも立たない

∵ 買占め者は,自己の取得株式の平均コストが採算に合う限り,現在取得しようとしている株式価格がいかに高騰しようとも買注文を出すのであるから,市場価格は株式の実体価値と大きく乖離する

(ウ) 下級審のプラクティス

証券業界の自主ルールに則った払込金額であれば差止めの対象としない

具体的には,募集株式の発行決議の直前日の価額を勘案し,当該決議の日から払込み金額を決定するために最長6ヶ月さかのぼり,当該決議の直前日までの機関の平均価額に0.9を乗じた価額以上

イ 典型例②

(ア) 事例

第三者割当ての方法による企業提携のうわさが流れた途端,発行会社株式の市場価格が急騰し,その後に行われる急騰前の市場価格を払込み金額とする当該第三者割当てが「特に有利な金額」と主張されるケース

(イ) 問題点

企業提携のシナジー効果を既存株主と募集株式の引受人とどのように配分するのが公正かという問題

(ウ) 江頭690

急騰前の市場価格を払込み金額とすることは通常は公正

∵ 「急騰前」を払込金額とすると,シナジーは,募集株式の発行後の持株比率に比例して配分されることを意味する。そして,シナジーへの寄与度は,新株主の貢献が大きいのであるから,通常,不公正であるとはいえない

(3) 要件①’の不公正発行

ア 不公正発行の定義

不公正発行とは,不当な目的を達成する手段として募集株式の発行が利用される場合をいう

イ 目的の事実認定のプラクティス(主要目的ルール)

主要目的ルールとは,取締役会が募集株式の発行を決定した種々の動機のうち,自派で議決権の過半数を確保するなどの不当目的の達成動機が他の動機に優越する場合にその発行などを差し止める考え方をいう[1]

(4) 効果

株主は,効力発生前に会社に対して,その株式の発行・自己株式の処分をやめることを請求することができる(210条)

 

 

 

 

 

 

 

 

2 新株発行の無効の訴え・自己株式の処分の無効の訴え

(1) 要件

ア 訴訟要件(公開会社)

① 出訴期間

発行の効力を生じた日から公開会社においては6ヶ月であること

② 原告適格があること

株主,取締役,監査役,清算人,執行役(828条2項2号3号)

③ 被告適格があること

被告は会社(84条2号3号)

イ 実体要件

要件は法定されていないが,無効事由は違法な募集株式の発行一般ではなく,限定的に解すべきとされる

∵ 株式譲受人の取引安全の要請及び拡大された規模で営業活動した後で資金調達が無効とされると混乱が生じる

(2) 無効事由と認められる例

*具体例

定款所定の発行可能株式総数を超過する発行(37条・113条)
定款の認めない種類の株式の発行(108条1項2項)
譲渡制限株式である募集株式の発行などに必要な株主総会・種類株主総会決議に瑕疵があること[2]
譲渡制限株式について株主の募集株式の割当てを受ける権利(202条2項)を無視した場合
募集事項の公告・通知を欠く(201条3項4項)
募集株式の発行の差止仮処分命令への違反

(3) 無効事由と認められない例[3]

(4) 閉鎖型タイプの会社についての考察

● 閉鎖型タイプの会社のみ無効事由を広げることはできない

∵ 募集株式の発行の無効が会社債権者に及ぼす影響

×① 法令・定款違反又は著しく不公正な方法により発行された株式が当初の引受人又はその者からの悪意の譲受人の下にとどまっていることが多い

② この判例は旧法下の株式会社に関するもので有限会社についての判例はないところ,新法下では有限会社をベースとされている

(5) 判決の効果

ア 既判力の主観的範囲

対世効あり(838条)

イ 遡及効の有無

なし(839条)

ウ 請求権の発生

当該無効の株式の株主の会社に対する請求権の発生(840条1項・841条1項)

 

3 関係者の民事責任

(1) 取締役の責任(423条1項)

(2) 不公正な払込金額で募集株式を引き受けた者の責任(212条1項1号)

ア 要件

① 取締役と通謀していること

② 著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けていること

イ 効果

会社に対して公正な払込金額との差額に相当する金額を支払う義務が発生

*株主代表訴訟が認められる(847条1項)

(3) 現物出資者の責任(212条1項2号)

ア 要件

募集株式の発行などの効力発生時における現物出資財産の価額が募集事項として定めた価額に著しく不足すること

イ 効果

現物出資者は,会社に対して当該不足額を支払う義務を負う

*一種の瑕疵担保責任なので無過失責任(なお,212条2項)

 

 

 

 

 

 

 

 

第二 新株予約権

第1 意義

1 新株予約権の意義

(1) 定義

新株予約権とは,権利者があらかじめ定められた期間内に,あらかじめ定められた価額を株式会社に対して払い込んだ場合は,会社から一定数の当該株式の交付を受けることができる権利をいう

*新株予約権は形成権である

*権利行使価額は定められているので,新株予約権の目的となっている株式の時価が上昇すれば上昇するほど,新株予約権者は利益を得ることになる

*誰にでも付与できる

(2) 株式交付の要件

権利行使価額の払込み

(3) 効果

新株予約権は当然に株主となる(828条)

2 新株予約権付社債の意義

新株予約権付社債とは,社債に新株予約権が付されているので,両者を分離して譲渡・質入れすることができないものをいう(2条22号・254条2項・267条2項)

第2 新株予約権の金銭的評価(経済学の見地から)

1 金銭的評価

(1) 新株予約権の行使で得られる株式時価が権利行使価額を上回っている

⇒ 経済的価値あり!!

(2) 下回っている場合

⇒ 行使期間内に上回る期待がいくらかでも存在する限り,価値あり!!

2 プラクティス(新株予約権の有利発行)

有利発行(238条3項)とは,発行時点における新株予約権の金銭的評価の著しく下回る対価で会社が新株予約権を発行することをいう

⇒ 権利の取得に公正な対価が支払われるか否かに法は着目している!!

* 賭けの結果(回顧的にみれば有利であったと評価できる場合もある)が問題となるのではないが,期待値は当然判断の資料に含まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 新株予約権の発行

1 デザイニング

(1) 権利行使価額

権利行使価額とは,当該新株予約権の行使に際し出資される金額をいう(281条1項)

(2) ポイズン・ピル目的の募集新株予約権の発行―信託型[4]

ア デザイニングの構造

① 差別的行使条件が付された新株予約権を信託の受託者(銀行など)に発行する

② 会社は,買収者が登場すると基準日を設定する

③ 基準日における株主名簿上の株主に対して当該新株予約権を無償で分配

∵ 信託の形式は,基準日前新株予約権を実質的に株式に随伴するため

イ 要件

① 有利発行にあたるので株主総会の特別決議が必要

∵ 受託者(銀行)に対する募集新株予約権の発行が名目的な払込金額で行われるので

ウ 差別的行使条件

(ア) 定義

差別的行使条件とは,「20パーセントを超える株式の保有割合を有する株主以外の株主が行使できる」という行使の条件が定められる場合をいう。新株予約権のデザイニングに関する236条1項各号には,行使条件というのは挙げられていないが,それ以外でも定めることができるものと解される

(イ) 平等原則との関係

● 新株予約権にも株主平等原則が適用される

× 新株予約権は株式ではないから,厳格な平等原則は存在しない

⇒ 差別的な行使条件が当然に違法ではない

○ 新株予約権についても「株主平等の原則」の趣旨が及ぶ

⇒ ポイズン・ピル目的の新株予約権の発行については,①買収者の経営支配権取得により会社の企業価値が毀損され,②買収防衛手段としても相当性があれば合理的な差別といえる(最決平成19年8月7日金法1273号2頁[5]

* そして,企業価値が毀損されるかは株主総会が判断すべきとした

∵ 新株予約権無償割当ての制度趣旨(株式の潜在的発行といえる)

* 株主平等原則の趣旨が及ぶとするので防衛側に厳しい要件設定といえる

 

[補論 買収者に対する差別的取扱いを内容とする新株予約権の無償割当てと株主平等原則]

1 差別的行使条件と株主平等原則

(1) 学説

無償割当てや株主割当てという態様で発行される新株予約権について差別的行使条件を付していれば株主平等原則違反となる

∵ 新株予約権が無償割当てまたは株主割当てにより発行される場合には,株主としての資格に基づき,その有する株式数に応じて新株予約権が交付される(241条2項,278条2項)

(2) 北村の評論

∴ 本件新株予約権無償割当ては,278条2項に違反する

∵ 本件新株予約権は,X関係者以外には,「本件新株予約権1個の行使によりY社が交付する普通株式の数は一株とする」及び「Y社は,その取締役会が定める日をもって,所定の数の普通株式を対価として本件新株予約権を取得することができる」とデザイニングされているが,名指しされたX関係者については,「Xは非適格者として本件新株予約権を行使することができない」及び「Y社は,取締役会が定める日に本件新株予約権1個について396円を対価としてX社の有する新株予約権を取得することができる」とデザイニングされていた。そうすると,X社とそれ以外では割り当てられる新株予約権の内容が異なっている。そして,278条2項は,株式数に比例して同一内容の新株予約権を割り当てるという規定と考えられる。そうだとすれば,本件新株予約権は,行使条件があるか否かという点で内容が異なっているから,278条2項との関係で抵触を生じるものと考えられる。そして,278条2項は,109条1項の特別規定であると解されるところ,その趣旨は109条1項の趣旨を強化する点にある。そうすると,278条2項のような個別規定は一般規定と異なり,合理性を要件とする比例的取り扱いからの逸脱は許されないとの見解がある(森本説)。この見解によれば,スティール判決とは異なり,本件新株予約権の発行を違法と解する余地もあったと考えられる。

2 株主平等原則とその例外

(1) 立法担当者の見解

立法担当者は,109条1項の射程距離について,「株式の数に着目して合理的な取扱いをすることを要求するものにすぎず,必ずしも比例的な取扱いを義務付けるものではない」として,株主平等原則の内容を柔軟化する

(2) 学説

新株予約権を用いる買収防衛策についても,差別的な定めが株主平等原則に反するかは,目的の正当性・手段としての相当性の観点から実質的に判断されるべきとの見解がある

(3) 北村の評論(判例を前提)

ア 買収防衛策の必要性

(ア) 判旨

判例は,必要性の要件を「企業価値の毀損を防止すること」と敷衍している。

この点,判例は,当該買収が企業価値を毀損するものであるかの判断は,最終的に株主が判断するべきであるとしつつ,株主の判断を株主総会の判断に置き換えている。

判例は,株主総会の手続が適正であり,前提事実の虚偽・不存在など判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,防衛策の必要性に関する株主総会の判断が尊重されるとしており,決議内容の合理性について実質審査を避けている。

(イ) 北村の評論

新株予約権の不公正発行が問題となっているケースとは異なり,株主平等原則が問題となっているところ,その機能は少数派の株主を保護するという点にあるから,多数派が支配する株主総会の判断を高く評価すべきではないとする。

北村は,X社の買収によって,『買収手法の強圧性』は認められるとする。買収手法の強圧性とは,株式を手放さないという判断をしている株主であっても,他の株主の動向によって,買収が成功するおそれがあれば,不本意ながら買付けに応じる可能性のことをいう。そうすると,買収手法の強圧性がある場合は,防衛策導入・発動について株主総会に諮ることは,株主に実質的に自由な選択権行使の途を保障するという意味がある。したがって,北村は,原則として,株主総会の決定を尊重することに合理性があるとする[6]

この点,北村は,本件では,「Y社は,経営支配権取得後の経営方針を明示せず,投下資本の回収方針についても明らかにしない」という特殊事情があると指摘している。したがって,このような特殊事情の下では,最高裁の判断も是認できるとする。しかしながら,仮に,上記の特殊事情がない場合,すなわち,Y社が経営支配権獲得後の経営方針を明示し,投下資本回収の方針について明らかにしているという場合には,防衛策の必要性の要件は満たさないものと解すべきであるとしている[7][8]

イ 買収防衛策の相当性

(ア) 判旨

判例は,X関係者には,本件新株予約権の価値に見合う金員が支払われるから,本件新株予約権無償割当ては,相当性の要件を満たすとする。

(イ) 北村の評論

北村は,必要性と相当性の要件は相関的に判断すべきものであり,買収者がグリーン・メーラーの場合は買収防衛の必要性が高いので,その反面で,買収者に支払われる金額が新株予約権の価値に見合ってなくても相当性要件を満たす場合があるとする。たしかに,グリーン・メーラーに利益を得させるような買収防衛策はかえってグリーン・メーラーの暗躍を助長しかねないので,正当な見解と考える。

 

[補論 スティール・パートナー事件東京地裁決定の要旨[9]]

(3) 株主総会決議を不要とするスキーム

ア デザイニングの構造

差別的行使条件のある新株予約権の無償割当て(277条)を取締役会において条件付で決議しておく

イ 問題点

株主の事前の授権がない

∵ 富の最大化原理による効率性の観点から問題とする見解もある(田中)

 

2 発行の決定

(1) 第三者割当て・公募

新株予約権の発行⇒第三者割当てがほとんど!!

∵ 取締役に対するインセンティブ報酬

ア 要件

① 公開会社では,有利発行の場合(238条3項)を除いて取締役会決議をしていること(240条1項)

② 割当日の2週間前までに当該募集事項を株主に対して通知・公告していること(240条2項3項)

 

(2) 株主割当て

(3) 新株予約権無償割当て

ア 機能

① 株主割当ての方法による募集新株の発行についての株式の割当てを受ける権利のツールとして

② 敵対的企業買収に対する防衛策の目的

(4) 申込み・割当て

募集新株予約権は,払込みを待たず割当日に申込者は新株予約権者となる

(5) 払込み

3 新株予約権の譲渡

(1) 譲渡方法

⇒ 譲渡方法は4つ

* 譲渡方法

  ケース 譲渡方法
証券発行新株予約権(記名式) 証券の交付(255条1項)
証券発行新株予約権(無記名式) 証券の交付(255条1項)
証券以外で,振替制度の適用を受けない場合 譲渡は意思表示により効力を生じ,新株予約権原簿の名義書換えが会社及び第三者に対する対抗要件(257条1項)
証券以外で,振替制度の適用を受ける場合 振替口座簿の記載により定まる(社債株式振替163条)

 

(2) 新株予約権の譲渡制限

ア 譲渡制限をする必要性がある場合

① 取締役に対してインセンティブ報酬として付与されている場合

② 新株予約権の目的である株式が譲渡制限株式(2条17号)[10]

③ 社債と同時に私募により募集された場合(新株予約権付社債の場合)

イ 譲渡制限制度(デザイニングの一つ)

⇒ 新株予約権の発行の際,権利内容として,その譲渡による取得について会社の承認を要するものと定める(236条1項6号)

(ア) 譲渡の要件

① 会社から譲渡の承認がいる

② 新株予約権原簿の名義書換えがいる(257条1項2項・261条)

(イ) 違反の効果

会社に対して譲渡・取得を対抗できない

* 不承認の場合でも株式と異なり,指定買取人の指定はいらない

 

4 会社による取得条項付新株予約権の取得

(1) 行使期間満了前に会社が新株予約権を強制取得したいニーズあり

① インセンティブ報酬として新株予約権を与えた役員が短期で退職

② 株主の利益になる企業買収提案あるのでポイズン・ピル目的の新株予約権を消滅させたい

③ 株式交換・株式移転により完全子会社となる会社に新株予約権が残存しては困る

⇒ 法は,『取得条項付株式』に相当する強制取得の手続を認める立法政策!

(2) 法定された手続について

ア 要件

新株予約権の発行の決定に際して以下を定めていること

*要するに「発行時」の問題であるので,デザイニングの問題といえよう

① 取得事由

* 取得事由の定め方は,一定の事由が生じたら当然に自動取得されるようにデザインすることも,会社の意思にかからせることもできる

② 取得の対価(236条1項7号)

* 財産分配ではないので,当該対価が金銭の場合でも分配可能額からの制約はない

イ 効果

取得事由が発生した場合は,新株予約権が取得される

 

5 権利の行使

(1) 要件

① 行使期間内であること

② 行為する新株予約権の内容・数を明らかにすること(280条1項)

③ 新株予約権を行使する日を明らかにすること

④ 新株予約権の行使の日に権利行使価額の全額を払い込むこと(281条1項)

⑤ 江頭722は,ポイズン・ピル目的の新株予約権の行使(×発行)は,「株主総会が当該敵対的買収者による経営支配権取得により会社の企業価値が毀損されると判断されたこと」が行使の要件になると考えているようである[11][12]

(2) 効果

新株予約権を行使した予約権者は,行使の日に目的株式の株主に(282条)

 

6 違法な新株予約権の発行に対する措置

(1) 発行の差止め

ア 要件

① 会社が法令・定款に違反して新株予約権を発行すること

*法令違反の具体例

公開会社において募集新株予約権の引受人に特に有利な条件による第三者割当て・公募による発行が特別決議なしで行われる場合
株主割当てで株主に対して権利内容の通知が行われない(241条4項)
新株予約権の内容(デザイニング)が違法な場合(スティール事件)

①’著しく不公正な方法により新株予約権を発行すること

会社支配の帰属について争いがあるときに取締役が議決権の過半数を維持・争奪する手段として新株予約権を発行する場合
上場会社株主に対して敵対的企業買収に対する防衛策として無償割当てされる新株予約権が株式の移転に随伴しないため株主に損害を与える場合

② 株主が不利益を受けるおそれがある場合

イ 効果

株主は,会社に対してその発行の差止めを請求できる(247条)

ウ 対象の射程

法文上は,「新株予約権の発行」となっているが,「新株予約権無償割当て」(277条)も対象となる(東京地決平成19年6月2日金判1270号12頁)

 

(2) 新株予約権の発行の無効の訴え

ア 要件

⇒ 募集株式の発行の場合とほぼパラレルといえる!!

 

(3) 不公正な払込金額などの場合における関係者の民事責任

⇒ 募集新株とパラレル!!

 

第三 社債

 

 



[1] ここは,アメリカ法によるかドイツ法の解釈によるかにより判断が分かれるものと考えられるが,私見はドイツの権限分配秩序説を採用するものである。すなわち,会社の権限分配上,取締役は会社支配の所在に関して決定権限を有していない。そうだとすれば,取締役が支配の帰属をめぐる争いのある時期に第三者割当てによる募集株式の発行を行うことは原則として著しく不公正な方法にあたるとの考え方である。この考え方を主張目的ルールに落とし込むと,「資金調達目的があるか」という問いの立て方ではなく,「権限分配秩序を侵す目的があるか」が問われなければならないということになる。なお,江頭692は,「当該特定株主の会社事業運営計画の具体性に焦点を当ててなされもよさそうであるが,裁判所はその点を正面から判断することを嫌う」とあるが,そもそも株主は事業計画を有しないのは,所有と経営の分離の建前からすれば当たり前なのであるから,その点の具体性を問うのは本末転倒の感があるように思われる。もちろん,「具体性がないこと」が買収防衛の対抗策が認められる一要素となることまでは否定できないが,それだけ重視するのはにわかに首肯できないものがある。

[2] 公開会社においても,譲渡制限株式である種類株式の第三者割当ての方法による発行などに必要な種類株主総会(199条4項)に瑕疵がある場合は,持ち株比率の維持に関心のある株主の権利を害するのは,「譲渡制限会社で株主総会決議が欠いたケース」と同じと考えられる。そうすると,この場合は公開会社ということになるが,判例の射程距離が及ぶものと考えるべきであろう。

[3] 一番問題があるのは,「著しく不公正な方法による募集株式の発行」と考えられる。というのも,著しく不公正な場合は新株発行がされるとそれは金銭的な解決ができないので価値判断のうえでは無効にすべきものである。しかしながら,上場会社の場合は,当該株式の譲受人の取引の安全の観点から無効事由とならない。そして,判例は,公開と閉鎖会社の無効事由は平仄を合わせるので,不当な結論となると考えられる。そこで,弥永説は無効事由とするわけであるが,そこまでラディカルでなくても,閉鎖会社の場合は取引の安全を考慮する必要がないと類型的にいえるとすれば,例外的に無効事由となると解することもできよう。なお,判例は,閉鎖会社で多い問題にする無効事由を認めているので,プラクティスで不都合な結論はあまり出ないと指摘する見解もある(江頭698)。たしかに,株主総会をすっ飛ばしたり,通知公告をすっ飛ばしたりすることは閉鎖会社でしかできず,たいていはこれらのうちのどれかをやっているはずという読みがあるというのであろう。

[4] 信託型ではない新株予約権の無償割当てについて,東京高決平成17年6月15日判時1900号156頁は,「新株予約権は,基準日後の株式の移転に随伴しないことから株価を低落させ,かつ,当該新株予約権の譲渡ができないことにより,既存株主に損害を発生させる」として,著しく不公正な方法(247条2号)に該当するとして発行が差し止められている。したがって,この高決定に照らすと,随伴性を確保するために,信託型を利用しない限りは差止めの対象になる可能性が高いと考えられる。

[5] 19年判例のコメントは,「株主平等の原則が保護の対象とする個々の株主の利益は,一般的には会社の存立,発展なしには考えられないことからすると,会社の企業価値がき損され,株主の共同の利益が害されるような場合にまで,厳格に株主平等の原則を貫くことは適当ではない」とする。そのうえで,「一般原則である衡平の理念に反したり,相当性を欠くような差別的取扱いが許されないことは当然としても,そうでない限り,株主の共同の利益が害されるような場合にこれを防止するためにする差別的取扱いは,株主平等の原則の趣旨に反しないというべき」とする。
そして,「経営支配権の取得が当該会社の企業価値をき損し,株主の共同の利益を害することになるか否かを誰がどのように判断すべきかは,それ自体困難な問題」とする。コメントは,「本決定は,特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものと判示するが,同時に,それは判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない場合に限られるとして,一定の留保を付している。これは,株主の判断を尊重する場合においても,少なくとも当該判断の形成過程の適否については司法審査が及ぶことを明らかにしたもの」と解説している。

[6] 難しいところであるので,少し詰めてみよう。この点,Y社の株主にJとKがいるとしよう。Jは,Y社がX社に買収されない方が企業価値が上がると考えているので,買収に応じるつもりはない。これに対して,Kは,X社の買収によって,Y社の企業価値が上がるものと信じている。このような場合は,JとKはそれぞれの信じる途に進めばいいようにも思える。ところが,買収手法には,「強圧性」があるものがある。典型的には,強圧的二段階買収というものである。これは,第一段階のTOBでは,高額な買取価額を設定するが,TOBが成功し少数派の株式を買い取るために2回目のTOBをやる場合には著しく低額な買取価額を設定するという行動を採るのが通常である。そうすると,JやKとしては,「自己の意見とは別に,多数派として行動したい」とのインセンティブが働くはずである。そうすると,いずれを多数派とするかについて,株主総会で決議をするということは合理性があり,これを法律要件の中に位置付けると,109条1項の例外の要件である買収防衛策の必要性,すなわち,「企業価値を毀損するおそれがある」という点に位置付けるということになるわけである。そして,株主総会で多数派が形成された場合,株主の合理的な取引行動からして多数派に従うことになるので,強圧的二段階買収などの弊害も防止できるので利益衡量上も相当という意味であると考えられる。

[7] おそらく,北村の思考としては,株主に対して情報を提供するという側面が重視されているものと考えられる。というのも,X社がY社の買収後の方針などを明らかにしない場合は,JやKとしては,買収によらない方がY社の企業価値が増えるのか,それとも逆であるのかということについて,適切な判断をすることができないものと考えられる。そうすると,X社が適切な情報を提供しなかったということは,Y社がX社に買収されても企業価値は増進せず,買収を拒否した方が得策という判断をされてもやむを得ないということではないかと思われる。逆にいえば,北村の思考によれば,X社が適切な情報を提供していた場合については,買収防衛策発動の必要性を基礎付けることはできないという理解になると考えられる。

[8] 私見は,北村の思考には傾聴に値するものがあると解するものであるが,やはり疑問に思う点もある。というのも,判例が定式化する「会社の企業価値が毀損され,会社の利益,ひいては株主の共同の利益が害される」という要件は,イメージ的にとらえると,グリーン・メーラーのような濫用的買収者が念頭になるのではないかと思われる。そして,X社は,本件においては,株主に対して十分な説明をしなかったのであるから,いわばノンリケットということになり,その結果,必要性が認められてもやむを得ないものと考える。しかしながら,北村のように,その説明を尽くしていれば,必要性の要件を満たさないと解するのは正しくないと思われる。なぜなら,ここでは,「Y社に経営を委ねると企業価値が増進されるか否か」という規範が設定されているわけであり,「X社がY社の株主に対して情報を積極的に開示したか」という規範を設定しているわけではない。そうすると,「情報を提供しない」という事実から,「情報を提供しないということは,何の経営プランもなくただのグリーン・メーラーではないか」という推認が働き,その結果,必要性の要件が満たされるにすぎないと考えられる。そうだとすれば,北村が挙げる情報を提供していたケースの場合は,株主が情報を提供した結果,それぞれの合理的判断の集積により結論を出すのが株主総会であるから,株主においてやはりX社に買収されるよりも独立路線の方が企業価値が増進するという価値判断が示された場合には,それを受け容れるしかないと思われる。なぜなら,株主は強圧的二段階買収にさらされているわけであり,いずれにせよ,株主の多数派に与したいと考えるのが合理的であるわけである。とすれば,もし裁判所がその判断を覆すということになれば,強圧的二段階買収のおそれが生じるとも思える。例えば,本問においても,最高裁でスティールが逆転勝訴した場合は,株主は全員株式を売り払うという取引行動をせざるを得ない。そうすると,スティールは買収価格を引き下げる可能性もあるであろう。いずれにせよ,そのような最高裁の判断が示されると会社の株主全員に重大な利害を与えるということになろう。このような背景にかんがみると,強圧的な買収手法を採る場合は,買収者には,「それ相応の事業計画について株主に説明し,買収が成功した方が現在の会社の企業価値が上昇することを説明する責任がある」という命題を承認することになるものと解される。この意味では,北村の思考は傾聴に値するものがある。そして,かかる説明が履行されない場合は,買収防衛の必要性が認められ,履行された場合の判断は株主の合理的判断に委ねられるものであり,司法の審査もそれ以上踏み込むべきではないように思われる。すなわち,これは結局,将来の蓋然性判断になるから,裁判所が「買収されたほうが企業価値が増進する」などということは確実なことはいえず司法審査は裁判所の判断能力からいっても限界があるように思われる。以上を総合的に考えると,買収防衛の必要性があったという最高裁の判断は正当として是認できるものと考えられる。

[9] 1 新株予約権無償割当てに会社法247条の類推適用はあるか

(1) 新株予約権無償割当てとは,会社が株主に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の新株予約権の割当てをすることができる(277条)というものである。Xは,247条の類推適用を主張するので,「238条1項の募集に係る新株予約権の発行」に限定されている247条を277条の新株予約権無償割当てにも準用することができるかが問題となる。

(2) 247条の趣旨は,既存株式の保有価値が減少したり持株比率低下による影響力の低下を招いたりするなど,新株予約権の発行が株主の地位に不利益な変動を与えるものであることから,株主の利益を保護するという点にある。とすれば,新株予約権無償割当ては,原則として株主の地位に変動を生じさせるものではない。

よって,新株予約権無償割当てには原則として247条の類推適用はできない。

もっとも,新株予約権無償割当ての場合でも,それが株主の地位に実質的に変動を生じさせる場合には,会社法247条が類推適用されると解するのが相当である。なぜなら,この場合,株主が被る不利益は,247条が想定する株主の不利益とは異ならないからである。

(3) 本件についてみると,本件新株予約権にはXの関係者は,『非適格者』として新株予約権を行使できないという差別的行使条件が附されている。そうすると,Xは新株予約権の割当てを受けられるが株式の交付を受けることができず,その結果,支配比率が稀釈化され既存株主としての地位に変動を生じるものと考えられる。

したがって,会社法247条が類推適用されると解するのが相当である。

2 本件新株予約権無償割当ては株主平等原則(109条)に反するか

本件新株予約権には,Xの関係者は,『非適格者』として新株予約権を行使できないという差別的行使条件が附されている。

(1) 会社法109条は,株主平等原則を定め,株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うべきとしている。他方,新株予約権について会社は,一定の行使条件を附すことができることを前提とする。また,会社の一定の事由が生じたことを条件として当該新株予約権を取得できる取得条項を定めることもできる(236条1項7号)。これらは,新株予約権の内容についての定めであり,株主の資格に直接関係するものではないから,株主平等原則には原則として反しない。

もっとも,新株予約権の第三者割当ての場合には,直ちに株主平等原則に違反するということはできないとしても,新株予約権の無償割当ての場合には,例外的に株主平等の原則の趣旨を及ぼすべきと解する。なぜなら,新株予約権の無償割当てが,株主の保有株式数に応じて行われるものであり,新株予約権の内容によって,取り扱いの不平等が生ずることを考えれば,株主平等の原則の「趣旨」が及ぶことは当然だからである。

(2) もっとも,株主平等原則といっても,合理的な理由のある区別であれば,これを許容する趣旨している。

すなわち,会社法は,①会社法では,持株比率の維持の利益は,株式の経済的価値の平等より劣後すること(201条1項,240条1項),②会社法では,現金合併等により,経済的利益が確保される限り,株主総会の特別決議によって,少数株主の地位を強制的に失わせることを許容していること(749条1項2号,751条1項3号,768条1項2号,770条1項3号,749条3項,751条3項,768条3項,770条3項),③会社法は,譲渡制限株式の買取りや特定の株主からの自己株式取得等,支配株主等一部の株主のみが利益を受けるおそれがあり,株主平等の原則の上から株主の利害に関わる事項も株主総会の特別決議の下に許容している(140条2項5項,309条2項1号,156条1項,160条1項,309条2項2号,454条4項,309条2項10号)からである。これらに照らすと,会社法は,差別的な行使条件や取得条件のために特定の株主が持株比率の低下という不利益を受けるとしても,一定の場合は,新株予約権の無償割当てが受けられる場合があると解する。

(3) そこで,①取締役会の決議ではなく株主総会の特別決議に基づき,当該新株予約権の無償割当てが行われた場合で,②当該株主の有する株式の数に応じて適正な価額が交付され,③株主としての経済的利益が平等に確保されているならば,本件新株予約権無償割当ては,株主平等原則には反しないと解するのが相当である。

(4) これを本件についてみる。

ア 本件新株予約権の発行決議は,株主総会特別決議による承認を受けているものであり,取締役会の独断で行われたものではない。

イ また,Xの新株予約権をY社が取得した場合にX関係者が交付を受ける額の396円という対価は,当時の株価に照らして新株予約権の価値に見合ったものということができる。とすれば,適正な価額のもと,株主としての経済的利益は平等に確保されている。よって,本件新株予約権無償割当ては株主平等の原則に反しない。

3 本件新株予約権無償割当ては著しく不公正な方法によるものか

(1) 誰を経営者として,どのような事業構成の方針で会社を経営させるかは,株主総会における資本多数決によって決すべき事柄である。

そうであれば,取締役会が行ったのではなく,定款に定められた株主総会の権限行使として,特別決議に基づき実施された本件新株予約権無償割当てについては,その目的が経営支配権の取得を防止することにあったとしても,直ちに株主総会がその権限を濫用したということはできないと解するのが相当である。
したがって,本件について主要目的ルールを適用するのは相当ではない。

(2) としても,株主総会が行う新株予約権の無償割当てであれば,いかなる場合も著しく不公正な方法にあたらないのかが問題となる。

ア 株主総会としては,買収者による経営支配権の取得が企業価値を損なうおそれがあると判断する場合,株主全体の利益保護を図るという趣旨,目的を達成するために,必要かつ相当な対抗手段を採ることが許容されると考えられる。そして,対抗手段の必要性・相当性の判断については,一義的には,会社の最高意思決定機関である,株主総会に委ねられるべきである。

もっとも,多数決の濫用が行われる場合にまで株主総会の判断に委ねるのは妥当ではない。そこで,裁判所は,当該株主総会の判断が不合理であることが明白である場合に限って,対抗手段の必要性が否定することができると解するのが相当である。具体的には,必要な範囲を超えて,買収者の利益を損なうことは許されず,ⅰ会社が対抗手段を採るに至った経緯,ⅱ当該対抗手段が既存株主に与える不利益の有無及び程度,対抗手段が買収に及ぼす阻害効果を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。

イ これを本件についてみるに,ⅰX社は,経営支配権の取得を目指しているのに,経営権取得後の経営方針は具体的に明らかにしていない。また,X社は投資ファンドであるから究極的には投資家への利益還元を目標とするのにその具体的方法も明らかにされていない。このことに照らすと,株主総会においてY社の企業価値を損なうと言う疑念を抱かせるものであると評価することができる。

また,ⅱY社には特定の大株主が少ないことからすれば,特定の大株主の意向が優先され多数決の濫用のような場面はなかったものと評価できる。さらに,ⅲ本件新株予約権無償割当てはTOBに対抗する手段としてTOBが妨げられる以上の不利益を負うものではない。しかも,ⅳTOBへの対抗手段として,X関係者によるY社の経営支配権の取得を妨げると言う範囲を超えて,必要以上にTOBを妨げるものとはいえない。これらに照らすと,X社の株主総会が本件新株予約権を発行することとした判断は必要かつ相当なものといえるから,不合理であることが明白であるとまではいえない。

[10] 目的が譲渡制限株式だからといって新株予約権は当然に譲渡制限となるわけではないので,新株予約権のデザイニングにおいて対処する必要がある。

[11] ここで注意する必要があるのは,江頭722は,「新株予約権の発行」の局面を問題にしているのではなく,「新株予約権の行使」の局面を問題にしているということである。この点,江頭は,スティール・パートナー事件を引用し,「判例によれば,原則として『株主平等原則』の制約を受け」るとする。たしかに,新株予約権というだけで株主平等原則の適用を免れるというわけにはいかない。しかし,判例は,差別的行使条件の合理性を問題にしているものと考えられるのであり,株主による予約権の行使についても株主平等原則との関係で制約があるとするのは,飛躍があるように思われる。もっとも,突き詰めてゆくと,江頭の叙述はTBS事件を念頭に置いているようであり,例えば,TBSが友好企業の東京エレクトロに新株予約権を割り当てているという場合を想定しているものとも思われる。そういうホワイト・ナイト的な特定の企業が権利行使をする場合を想定しているのであろう(しかしこれを現実に東京エレクトロだけに割り当てれば差止めの対象となるだろう)。たしかに,「有事」の際は,新株予約権の発行自体を差し止めればよいと考えられるのに対して,「平時」の場合はすでに新株予約権は発行されているのであるから,これを差し止めるということはできないことになる。そうすると,買収者の側としては,会社のいかなる行為をとらえるのかということが問題となりうる。そこで,江頭がとらえたのが,「新株予約権の行使」ということのようであるが,私は,例えば,会社側が基準日を設定するわけであるから,この行為をとらえることはできないかとも考える(例えば,違法行為の差止め請求など)が,突き詰めてゆくと,江頭説は明文がなく,私見はあるわけであるから,私見の方が据わりがよいとも思われる。なお,江頭の見解によると,おそらく江頭は行使の要件を付加するという手法を採っており,この要件を満たさないと行使は違法ということになる。かかる場合の効果は,無効の訴えを待たずに当然無効と解されている(江頭722)ので,買収者側が無効確認を請求の趣旨とするものであろうとうかがわれる。なお,江頭725は,「すでに発行された差別的行使条件の付いた新株予約権(のデザイニング)が平等原則に違反するにもかかわらず行使されることがあり得るが,その新株予約権は新株予約権の発行無効の訴えを待たずに無効と解すべきであって,したがって,それが行使されても,株式発行は当然無効と解される」としており,この叙述は,江頭は権利行使の要件を付加するというのではなく,新株予約権のデザイニング自体が問題の場合について言及するものであろう。すなわち,デザイン自体に問題がないというケースでは,やはり論じてきたような点が問題になるのであり,江頭725の叙述はこの点を氷解させるに至らないものと解すべきであろう。なお,江頭723は,「会社が新株予約権の行使・有効性を前提としてとる措置の差止めを求める」とあるので,そうすると私見と同じになるわけであるが,そうすると,権利行使に要件を付加する必要などないわけであるが,いったいどういうつもりの叙述であるのか今ひとつ読み切れないところである。

新株予約権の行使に要件が付加されるというのも聞いたことがない(しかも,新株予約権は形成権であるから,法定の要件が備われば効果が生じるのが原則のように思われないでもない)が,学者の論文も江頭と同様の見解を採るように引用されている。その要件が付加されるというのも,判例の株主平等原則が問題となるというのも,何と何を不平等ととらえているのかよく分からないところがある。

[12] 注釈7を踏まえて考えてみるのに,新株予約権者が新株予約権を行使するという段階で「株主平等原則」が問題となることは通常は考えられない。しかしながら,ライツ・プランの場合,新株予約権はすでに発行されているのであるから差し止めることはできないので,権利行使の時点で権利行使を違法なものにする必要性がある。また,差別的行使条件が付されており,TBSの友好企業などが新株予約権を行使すると,本来,全員が交付を受けられる新株予約権について,「行使できる株主」と「行使できない株主」が現れるということになるので,平等原則が問題になると考えることができる。そして,ポイズン・ピル目的の新株予約権については,「株主総会が買収防衛策発動の必要性」,すなわち,敵対的買収者による経営支配権取得による会社の企業価値が毀損されると判断された場合のみ可能と解すべきであるとするのが江頭説である。もっとも,そのように解すべき根拠はやはりなく,行使に明文なき要件を付け加えているようにも思える。江頭は,「社外取締役からなる独立委員会が会社の企業価値の毀損を認めただけでは行使を容認しない」とするが,TBSで問題となっているのは,新株予約権の発行自体であるから,行使の局面ではない。また,株主総会の決議によって,買収防衛策を導入しているようなケースにおいては,独立委員会による判断で足りるという場合もあるように思われる。江頭は,少しデラウェア州の判例法に引っ張られすぎてスティール・パートナー事件の読み方にバイアスがかかっているようにも思われないではない。私なりの結論を出すとすれば,江頭723の争い方の叙述からすれば,やはり権利行使に要件を付加するという点にさほどこだわっているわけではないように思われる。違法行為の差止め請求の違法原因の中で,109条違反を主張すれば現実の争点は同じになるのであろうから,江頭はあまり深く考えないで「権利行使を容認しない」と言っているものと考えることにする。

ページの先頭へ
menu