企業の形態、会社の概念、株主、法人格否認の法理、閉鎖会社

株式会社法ノート

第1編 総論

第一 企業形態の選択

第二 会社の概念

第1 営利企業

1 営利企業の金銭的評価

⇒ リターン,リスク,期間の3つの要素により営利企業の経済価値は決定!

* 株式・持分の評価

⇒ 投資の価値は,市場において価格の形で形成!

2 営利の目的と株主の利益最大化の原則

(1) 営利の目的

営利目的とは,会社が対外的経済活動で利益を得て,得た利益を株主に分配することをいう

∵ 株主は,最低でもⅠ剰余金配当請求権,Ⅱ残余財産分配請求権の一方を持つ(105条2項)

(2) 株主の利益最大化原則

ア 定義

会社では,株主の利益の最大化がステーク・ホルダーとの利害調整の原則

イ 根拠

営利企業

ウ 効果

① 株主の利益最大化に反する総会決議は無効

② 取締役・執行役の善管注意義務・忠実義務(330条,335条など)とは,株主の利益の最大化を図る義務をいうと解すべき

エ 他の利害調整原理との関係

株主の利益最大化原則は,他の利害調整原理を排除するものではない

(ア) 実質的に剰余金の一定割合を社会貢献に分配する定款の規定

∴ 有効と解すべき

∵ 会社法は株主が剰余金の配当,残余財産の分配を一切受けられない旨の定款の定めを無効とすると規定するにとどまる(105条2項)

(イ) 事実上株主の利益最大化に反する会社運営をすること

∴ 構わない

∵ 第3セクターの場合は出資者の1人である地方公共団体は行政目的の達成にしか関心がなく,「営利」の定義に反するが,それが解散事由となったりはしない

(ウ) 株主の利益に寄与しない寄付を取締役はできるか

∴ できる

∵ 企業の社会的責任や企業の社会貢献の視点から取締役の裁量は大きい

(エ) 会社がイチかバチかの投機的経営をすること

∴ 取締役は429条の責任を負う

∵ たしかに株主の利益の最大化に沿っているが,債権者を害するので

⇒ 株主の利益の最大化原理と債権者保護の原理が交錯している!!

 

第2 法人性

1 意義

(1) 社団法人

会社は株主を構成員とする法人(3条)[1]

(2) 法人格の意義

⇒ 権利・義務の帰属及び社団の管理が簡明となり,団体としての統一的活動が容易になること

*法人格を与えるメリット

① 社団の対外的活動から生じた権利・義務は法人に帰属する

② 法人に対して効果が生ずる財産上の行為は法人の機関を行う

2 法人としての株式会社

(1) 権利能力の範囲

ア 法令による制限

イ 定款所定の目的による制限

(ア) 民法34条[2]

会社を含むすべての法人の権利能力が定款所定の目的(27条1号・576条1項1号)によって制限される趣旨を示す

(イ) 判例の定式

① 定款の記載事項から推理演繹し得る事項,会社目的の達成に必要な事項は,定款所定の目的の範囲に含まれる

② 会社の目的遂行に必要か否かは行為の外形からみて客観的に判断すべき

* 実際には,会社側からの「目的外の抗弁」が認められる可能性はない

(2) 会社の住所

(3) 会社の商人性

 

第3 株主の有限責任

1 「有限責任」であることの意義

(1) 会社債権者から株主に対する責任追及

⇒ 株主は,会社に対し株式の引受価額を限度とする出資義務を負う以外に,会社の債務について責任を負わない(104条)[3]

(2) 104条の趣旨

① 分散投資の勧奨←ドクマ的

② 株主の会社支配権の喪失(所有と経営の分離)←ドクマ的

③ 社会的に望ましい企業活動の促進の助長

④ 債権者の方が株主よりリスク負担能力が勝る[4]

 

2 有限責任の制度的裏付け

視点 逆説的であるが,会社債権者を保護する立法政策を採ることが,有限責任を裏づけることになるわけ!!

(1) 資本金制度

ア 意義

資本金制度とは,会社債権者保護のため,株主の出資を一定金額以上,会社財産として保有させる仕組みのことをいう

イ 制度趣旨

有限責任の結果,会社債権者は,会社に債務の弁済に必要な財産を維持させる必要がある。そこで,法は,B/Sの純資産額が資本金などの総額を上回る場合でなければ,会社は株主に対して剰余金の配当などの財産分与ができないとすることで,法は一定金額以上の会社財産の維持を義務付ける立法政策を採用している(資本維持の原則[5]

ウ 純資産300万円未満の配当禁止

∵ 起業の妨げとならないようにする立法政策と会社債権者保護の調和

 

(2) 計算書類などの開示

会社債権者又は会社と取引しようとする相手方は会社の財務状態を知る必要

ア 442条・378条(B/Sなど計算書類などの本店備置)

イ 440条1項~3項(B/Sの要旨公告)

 

3 法人格否認の法理

(1) 意義

ア 法理の定義

法人格否認の法理とは,特定の事案について会社の法人格の独立性を否定し,会社とその背後の株主とを同一視して事案の衡平な解決を図る法理をいう

イ 根拠

① 権利濫用禁止(民法1条3項)

② 会社の法人性の規定(会社法3条)

(2) 要件

ア 濫用化事例

① 支配の要件

法人格が株主により意のままに道具として支配されていること

② 主観的濫用論

支配者に違法又は不当な目的があること

典型例

Ⅰ 競業避止義務などの不作為義務を負担する者が会社を利用して義務の潜脱を試みる場合に,株主と会社の法人格を否定し,義務の負担者を拡張

Ⅱ 倒産危機にある会社が強制執行免脱目的のため新会社を設立し業務を継続する場合に,両会社の法人格を否定し,旧会社債権者の新会社に対する支払請求を認める

 

イ 形骸化事例[6]

(ア) 要件

① 法人格が形骸化していること

法人とは,名ばかりで会社が実質的には株主の個人営業であったり,親会社の営業の一部門にすぎない子会社などをいう

(イ) 間接事実

Ⅰ 株主総会・取締役会不開催

Ⅱ 業務の混同

Ⅲ 財産の混同

 

(3) 法人格否認の効果

ア 実体法上の効果

分離原則と株主の経営権限なしの効果がなくなる

イ 手続法上の効果

既判力,執行力の範囲を会社・株主に拡張することは許されないが,第三者異議の訴えの原告について例外を認めた判例がある

 

第三 会社法の役割

第1 上場会社・閉鎖型タイプの会社・結合企業の問題状況

1 上場会社における問題

⇒ 『経営者支配』の問題!!⇔株主支配

2 閉鎖型のタイプの会社における問題

⇒① 株主に社内に対立が生じても自己の経営参加が確保され,もしくは,投下資本の回収が保障される制度的保障の必要性[7]

② 閉鎖会社の特色を会社法の解釈論に活かすべき(上場会社ばかりを念頭においた雑な議論をするなという,例えていえば,フェミニズム的な視点と似ている)[8]

3 結合企業における問題

⇒ 従属会社に会社支配から排除された少数株主が存在する場合

* 支配株主と当該会社との利害対立についての適当な制度に乏しい

 

第2 強行法規と定款自治

1 意義

強行法規の範囲はどこまでか≒定款自治の範囲はどこまでか

⇒ リベラルVSリバタリアニズムの争いにも見える・・・

2 伝統的立場と会社を「契約の束」と見る立場

● 会社法の各規定は強行法規であるべき(伝統的立場)

× 契約自由が関係者の富の最大化をもたらす

○ 会社法は関係者の合意形成コスト削減にすぎず,任意規定と解すべき

⇒ 江頭53は,法令に明確に定めのない事項いついて,「株主平等の原則」が必要以上に定款自治を制約してきたと批判する

第2編 設立

第一 総説

第二 定款の作成

第三 株式会社の設立過程

第1 発起設立

第2 募集設立

第四 設立登記

第五 設立に関する責任

第六 会社の不成立及び設立無効の訴え

 

第3編 株式

第一 株式の意義と種類

第1 株式の意義

1 前説

2 無額面株式

3 株主の権利・義務

(1) 権利内容とその分類

ア 自益権

自益権とは,株主が会社から直接に経済的利益を受ける権利で,剰余金配当請求権(543条)がその中心となる

* 自益権はすべて各株主が独自に行使できる

イ 共益権

共益権とは,株主が会社経営に参与しあるいは取締役の行為を監督是正する権利をいう

(2) 株主の義務

① 出資義務

株主は,引き受けた株式の引受価額を限度とする出資義務を負う(104条)

*履行は,会社成立前あるいは株式発行の効力発生前である[9]

 

(3) 株主平等の原則とその限界

ア 株主平等の原則(109条1項)[10]

(ア) 定義

株主平等の原則とは,会社は株主をその有する株式の内容及び数に応じて,平等に取り扱わなければならない原則をいう

* 同一種類の株式相互間においては,株主はその権利などに関し,持株数に応じて比例平等的に取り扱われなければならない

(イ) 機能

支配株主の資本多数決の濫用による差別的取扱いから一般株主を守る作用

イ 株主平等の原則の定款自治に対する制約

(ア) 定款自治に対する禁止命題

Ⅰ 種類株主や109条2項のような法定の態様以外の権利内容の差別化不可

Ⅱ 法定の態様を除き持株数に比例しない株主の権利の差別化を認めない

(イ) 定款自治に対する制約(セーフのもの)

Ⅰ 議決権制限株式の議決権行使条件(108条2項3号ロ)を持株数により差別的に定めること

Ⅱ 株主優待制度

Ⅲ 会社が株主に無償割当てする新株予約権の内容にも株主平等原則の趣旨が及ぶか

ウ 株主優待制度

問題意識 株主に対して会社の事業に関連する便益を付与する株主優待制度が株主平等原則に違反しないか

○ 厳格な株主平等原則の適用範囲は,会社法308条1項・454条3項などの明文の規定がある場合に限られる。それ以外については,法の一般原則から生じる合理的事務の要請(一般的平等取扱いの要請,恣意の排除)があるにすぎない

⇒ 株主優待制度は後者の範疇なので,違法性はない

∵ 従来の厳格な株主平等原則の解釈から来る硬直性の打破

 

エ 譲渡制限会社における「属人的定め」の許容

⇒ 109条2項

∵ 閉鎖型の会社では,株主の持株数の増減に関わらない属人的な権利の配分のニーズがある

 

4 出資単位に関する会社の自治

⇒ 出資単位の決定は平成13年改正で規制撤廃

第2 株式の種類

1 前説

(1) 株式の種類

種類株式発行会社とは,定款上,内容の異なる2以上の種類の株式の内容が規定されている会社をいう(2条13号)

* 「現に2以上の種類の株式を発行していること」は要件ではない

(2) 譲渡制限会社の「属人的定め」(109条2項)

⇒ 種類株式のように,『株式の内容』としてではなく,各株主について属人的に権利内容などを定め得る

 

2 種類株式

(1) 優先株式・劣後株式

ア 意義

会社は,種類株式の一種として,剰余金の配当・残余財産の分配について普通株式とは異なる定めをした内容の異なる株式を発行できる(108条1項1号2号)

イ 典型例

優先株式

劣後株式

ウ 優先株式の内容

*優先株式の発行の手順

① 優先株式のデザイニング[11]

当該株式の剰余金の配当などに関する取扱いの内容と発行可能種類株式総数を定款に定める(108条2項1号2号)

② 優先配当額の定め

優先配当額は定款に内容の要綱を定め,株主総会ないし取締役会の事後の決定によることができる(108条3項)

 

(2) トラッキング・ストック

ア 定義

トラッキング・ストックとは,会社が有する特定の完全子会社などの業績にのみ価値が連動するようにデザイニングされた剰余金の配当に関する種類株式をいう

イ 制度趣旨

会社が完全子会社に対する支配を維持しながらその価値を株式市場で現実化させたいというニーズから発行される

(⇔ 利益相反取引を通じて子会社の業績は操作されるおそれあり)

 

(3) 議決権制限株式

ア 意義

議決権制限株式とは,会社が株主総会において議決権を行使することができる事項について異なる定めをした内容の異なる株式をいう(108条1項3号)

イ 典型例

① A種類はすべての総会事項について議決権があるがB種類は一切ない

② 上記の例でBは役員の選任について議決権があるとするなど

ウ 制度趣旨

合弁企業のパートナー間では持株比率が6対4であっても議決権比率は対等にしたいというように,資本多数決によらない支配権分配を可能にするニーズを満たす点に趣旨[12]

エ デザイニングの注意点

(ア) 可能であるのは,「A事項について議決権があるか否か」という定めのみ

×① 1株に複数議決権の付与

② 一定以上の株式を有する株主の議決権に上限制,逓減制を設ける(109条2項,105条1項3号)

(イ) 公開会社において議決権制限株式の数が済数の2分の1を超えると,是正措置が必要(115条)

∵ 経営者などが議決権制限株式制度を利用して少額の出資で会社を支配することに対して歯止めをかける趣旨

(ウ) 115条違反の効果

● 115条は是正措置を採る義務を生じさせるものにすぎず,当該超過を生じさせた行為が当然に無効となるわけではない

∵ 当該超過を生じさせた行為を無効とすると法律関係が混乱する

× 会社が正当な事由がないのに必要な措置をとらない場合の法的効果

⇒ 例外的に議決権制限株式の議決権制限が無効になると解すべき

 

オ 権利内容

① デザイニングは定款に定める(108条2項3号イ)

② 少数株主権は議決権行使が前提とならないもののみ

 

[補論] 葉玉プランに対する評価

1 『葉玉プラン』の構造

議決権制限株式(108条1項3号)について,株主が有する株式の数が発行済み株式総数の一定割合未満であることを当該株主が議決権を行使しうる条件(108条2項3号ロ)と定めることは,法が許容する不平等取扱いであり,115条との関係でも問題を生じないとする見解[13]

 

(4) 譲渡制限株式

ア 意義

譲渡制限株式とは,会社が譲渡による当該種類の株式のないようについて当該会社の承認を要する点において,他と内容の異なる株式を発行することができることをいう(108条1項4号)

⇒ 譲渡制限株式は,『株式の種類』のデザイニングの1つと位置付け!!

 

イ 譲渡制限種類株式の取扱い

問題の所在 一部の株式の譲渡制限を定めた場合に特有の問題

(ア) 種類株式の発行後に譲渡制限の定めを設ける場合

通常の定款変更手続(466条,309条2項11号)+特別手続

⇒Ⅰ 譲渡制限の定めを設ける種類株式の種類株主総会

Ⅱ 種類株式を交付される可能性のある取得請求権付株式・取得条項付株式に係る種類株主総会の決議(111条2項,324条3項1号)

Ⅲ 反対株主の株式買取請求権(116条1項2号)

(イ) 募集新株の発行の決議機関

原則⇒取締役会

∵ 一部に譲渡制限があるにすぎない会社は公開会社

例外⇒募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは,定款に別段の定めがある場合を除き,当該種類株式にかかる種類株主総会の決議が必要(194条4項)

*ただし,種類株式の譲渡の承認機関は原則どおり取締役会となる(139条1項)

 

(5) 取得請求権付株式

ア 意義

取得請求権付株式とは,株主が会社に対してその株式の取得を請求することができる点において他の内容と異なる株式をいう(108条1項5号)

⇒ 107条もあるが108条もあり(種類とできる)

イ 制度趣旨

償還株式と転換予約権付株式を統合して抽象化した概念である。償還請求は株主に対して金銭が交付され転換予約権は新株が交付されるという違いにすぎないので,因数分解をして,「取得請求権付株式」とされた

ウ 権利内容

① 取得請求権付株式のデザイニング

定款において,Ⅰ株式取得請求ができること,Ⅱ対価の内容,Ⅲ取得を請求できる期間(108条2項5号ロ)

 

(6) 取得条項付株式

ア 意義

取得条件付株式とは,会社が一定の事由が生じたことを条件としてその株式を強制的に取得することができる点において,他と内容の異なる株式を発行することができる(108条1項6号)

イ 制度趣旨

強制償還型の随意償還株式と強制転換条項付株式を抽象化したもの

ウ 株式の内容

既発行の株式について定款の定めを設けるには株式を有する全員の同意が必要(110条,111条1項)

 

(7) 全部取得条項付種類株式

ア 意義

全部取得条項付種類株式とは,会社が株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得できるという内容の種類株式をいう

イ 制度趣旨[14]

従前の100パーセント減資は株主全員の同意が必要とされていた。しかし,株主全員の同意を必要とすると迅速性に欠ける。そこで,会社法は,株主総会の特別決議により会社が株式全部の強制取得をすることができる立法政策を採用し,併せて,取得対価無償に不満のある株主の救済手続きも整備されている

ウ 取得の総会決議

特別決議(309条2項3号)

 

(8) 拒否権付種類株式

ア 意義

拒否権付種類株式とは,株主総会・取締役会において決議すべき事項についてその決議の他,当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要である点において他と内容の異なる株式をいう(108条1項8号)

イ 制度趣旨

合弁会社やベンチャー企業において使い道が多い

 

(9) 種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式

ア 意義

この株式とは,譲渡制限会社ではその種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役・監査役を選任することができるという内容の種類株式をいう(108条1項9号)

イ 効果

この株式を発行した場合は,取締役・監査役の選任は各種類の株主総会単位で行われ,全体の総会では行われない(347条・329条1項)

ウ 制度趣旨

デラウェア州法のクラス・ボーティング(クラスファイド・ボード・オブ・ディレクターズ)を継受したもの。合弁会社やベンチャー企業において株主間契約で合意した数の取締役を各派が選任できるよう保証を与える立法政策を採用したもの

 

3 全株式譲渡制限会社における「属人的定め」

 

4 種類株主総会―種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合

(1) 要件

ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき

(2) 効果

当該行為に損害を被るおそれのある種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要求(322条1項,324条2項4号)

典型例

Ⅰ 発行済優先株式の優先配当額の引上げ,引下げ

Ⅱ ある種類の株主が選任できる取締役・監査役の数の増加・削減

(3) 制度趣旨

特定の種類の株主に損害が生じるおそれのある株式内容の変更(定款変更)が行われた場合,現実には損害が生じないケースも想定されるので,どのように種類株主の利益を保護させるかの立法政策は難しい。そこで,法は,その行為により,「ある種類の株主の種類株主に損害を及ぼすおそれ」があることを要件に種類株主総会の決議を要求することにしたもの

(4) 種類株主拒否権の排除・株式買取請求権の付与

⇒ 322条2項で排除できる!!

∵ 322条1項は機能的に種類株主に例えば合併などについての拒否権を与えることになりかねない。これは,場合によっては株主のモラル・ハザード的な自己の利益の追求を許しかねない。そこで,一定のものについては,種類株主総会の決議の排除を認めたもの

⇒ 当該種類株主には,『代わりに』株式買取請求権が付与(116条1項3号[15],785条2項1号ロ,797条2項1号ロ,806条2項2号)

 

第二 株券・振替口座簿・株主名簿

第1 総説

第2 株券

第3 振替口座簿

 

第4 株主名簿

1 株主名簿の意義

株主名簿とは,株主とその持株などに関する事項を記載するため,会社に作成が義務付けられた帳簿をいう(121条)

∵ 株主名簿は,変動する株主と会社との関係を規律する目的で法律上一定の効力が付与された制度をいう

2 効力

(1) 非株券発行会社

ア 要件

株主名簿の名義書換

イ 効果

会社その他の第三者に対して権利の移転を対抗できない(130条1項,147条1項)

⇒ 有価証券である株券が存在しないので,対第三者関係であっても,株主名簿の記載・記録が機能

 

(2) 株券発行会社

ア 要件

株主名簿の名義書換

イ 効果

会社に対して権利の移転を対抗できない(130条2項)

⇒ 会社は依然として名簿上の株主を株主として取扱う

 

3 名義書換の不当拒絶

(1) 要件

会社が理由なく名義書換えを遅延させること

(2) 効果

① 損害賠償請求

② 名義書換えなしで株主であることを主張可(最判昭和41年7月28日民集20巻6号1251頁)

⇒ 決議取消しの訴えも提起できる

 

4 名義書換未了株主の権利行使の認容の可否

● 会社側からの認容を否定する見解

∵ 会社が名簿上の株主に対しては,すでに株式を譲渡したことを理由に権利行使を拒み,譲受人に対しては名義書換未了を理由に権利行使を許否できてしまう

×① 判例は「権利行使の空白」まで認めていない

② 取締役に恣意的裁量は認められない

③ 「対抗することができない」(130条1項)とドイツ法とは文言異なる

○ 会社が自己の危険において株主の権利行使を認容することはできる

∵ 株主名簿の確定的効力は,集団的法律関係を画一的に処理する会社の便宜のための制度にすぎない

 

5 失念株[16]

*株式の振替制度が施行されるまでの問題

(1) 定義

失念株とは,基準日前に「権利含み」の価格で株式を譲り受けた。しかるに,譲受人が適時の名簿書換を失念したために,剰余金の配当や株主割当による株式の発行が会社から譲渡人に対してなされる事態のことをいう

(2) 返還義務の有無(判例)

① 名簿上の株主が出捐なしに得たものについては,失念株主の名簿上の株主に対する不当利得返還請求を認める

② 名簿上の株主が株主割当による株式の発行(202条)を受けた場合のように,出捐を伴うものは失念株主には権利がないと解し請求は認めない

∵ 失念株主の請求を認めると,その後の株価の変動次第で名簿上の株主との間で株式の押付け合いなど信義則に反する事態が生じる

* 商法学説

商法学説は,上記②について,「権利含みの価格で株式譲渡がされた以上,失念株主は名簿上の株主に対して不当利得返還請求ができる」とするものが多い

(3) 返還義務の範囲(判例[17]

名簿上の株主がすでに株式を売却している場合

⇒ 売却代金を基準とする説

∵ 名義上の株主は善意の受益者として現存利益を返還すれば足りる

 

6 株主名簿の基準日

(1) 基準日の意義(124条1項2項)

基準日とは,一定時点で株主・質権者として会社に対して特定の権利を行使することができる者を確保する目的で,会社が一定の日に株主名簿上に記載された者を株主とみなす制度をいう

典型例

Ⅰ 株主総会の議決権を行使する

Ⅱ 剰余金の配当を受領するなど

(2) 基準日後株主総会前の株式発行

⇒ 124条4項

*基準日後に会社以外の者から株式を譲り受けた者には議決権は認められない

∵基準日株主の権利を害することになる

*会社が基準日後に複数回の募集新株の発行を行った場合

⇒ 必ずしもすべてに議決権を認める必要はないが109条の趣旨には反せない[18]

(3) 基準日の運用

⇒ 124条2項かっこ書き

 

 

 

 

 

 

 

第三 株式の譲渡(譲渡制限)及び担保化

第1 株式の譲渡・担保化の方法

第2 株式の譲渡制限―会社の閉鎖性維持のための措置

1 株式譲渡制限の意義

(1) 構造

原則 自由譲渡(127条)

例外 譲渡制限株式(2条17号,107条1項1号2項1号,108条1項4号2項4号)

(2) 効果

株主名簿の名義書換えをするには,会社の承認が要件となる(134条)

(3) 制度趣旨

株式会社でも閉鎖型のタイプでは人的な信頼関係にある者に限定したい要請

 

2 譲渡制限株式の譲渡に係る承認手続

(1) デザイニング

① 定款でのデザイニング(107条2項か108条2項か)

② 一定の場合のみなし承認規定(譲渡制限の射程距離のとり方)(107条2項1号ロ,108条2項4号)

*「株主間」は承認不要

*一定数未満は承認不要

③ 承認機関の設定

原則 取締役会(416条4項1号)

例外 取締役会設置会社で株主総会の定め

譲渡制限種類株式に関する決定機関を種類株主総会とすること

* 取締役会より下位の機関を決定機関とすることはできない[19]

 

(2) 譲渡承認請求と会社による買取請求

ア 136条

イ 139条2項

ウ 145条1号

エ 138条1号ハ

オ 140条

カ 141条1項

キ 145条2号

 

(3) 会社の承認のない譲渡制限株式の譲渡の効力

● 絶対説

⇒ 会社の承認がない限り,当事者間でも譲渡の効力が発生しないことにすべきだとする見解

∵ 相対説によると,株式取得者が株主名簿上の株主に対して議決権行使などについて指示を与えることが可能となり,譲渡制限の趣旨が失われる

× 名簿上の株主が第三者の指図に従い議決権行使をする危険は一般的にある

○ 相対説

⇒ 会社の事前の承認なしになされた譲渡制限株式の譲渡は会社に対する関係では効力を生じないが,譲渡当事者間では有効

∵ 株式取得者から会社に対して取得の承認請求ができることは,譲渡当事者間における譲渡の有効性が当然の前提

 

(4) 会社は譲受人を株主として扱うことができるか

○ できない(最判昭和63年3月15日判時1273号124頁)

∵ 会社に対する関係では,「効力を生じない」のだから,会社は譲渡人を株主として取り扱う義務がある

 

3 株主間契約に基づく措置

(1) 同意条項

同意条項とは,株主間の契約において他方当事者の承認なしに株式を譲渡することは禁じられる旨を定めるものをいう

*同意条項の有効性

● 株主間の契約であれば契約自由

× 会社(株主ではない)に同意権を与えるタイプは無効

∵① 会社が株主の投下資本回収の機会を制約

② 取締役が株主を選択することになるので契約自由とはいえない

(2) 先買権条項

先買権条項とは,株主間契約などにおいて,一方当事者が株式を処分しようとする場合には他方当事者に対して事前の通知義務を負い,通知を受けた当事者が先買権を有する旨を定めるものをいう

* 重要なのは先買権行使の場合の売渡価格

(3) 売渡強制条項

株主間契約において,一定の事由が生じた場合にその株主は他の株主に対して所有株式を売り渡す義務が発生する旨を定めることをいう

* 株主の意思に関わりなく売渡しが強制されるので,売買価格の適正が重要

 

第四 自己株式の取得・親会社株式の取得の規制

第1 自己株式の取得の規制

1 意義

(1) 会社と株主との合意による取得(立法政策⇒金庫株の解禁

● 一般的に禁止する立法政策を採用すべき(ドイツ型)

∵① 資本の維持の視点

資本金・準備金を財源とする取得は,株主への出資払戻しと同様の結果を生じ,会社債権者の利益を害する

② 株主相互間の公平

株主への分配可能額を財源とする取得でも,流通性の低い株式を一部の株主のみから取得すると,投下資本回収の機会の不平等を生じさせる

③ 会社支配の公正

反対派株主(グリーン・メーラーを含む)から株式を取得することにより取締役が自己の会社支配を維持し,経営を歪める手段に利用される

④ 証券市場の公正

相場操縦やインサイダー取引に悪用されるおそれ

○ 会社が株主との合意により自己株式を取得すること及び保有を原則自由(デラウェア州法)

⇒その代わりに種々の弊害防止措置が採用された

Ⅰ 取得価額は,株主への分配可能額の範囲である必要

Ⅱ 取得価額相当額は,分配可能額の算定上資産性を否定

Ⅲ 株主の平等権を確保するために手続などの規制あり

(2) 特殊な自己株式取得事由[20]

① 法令・定款に基づく株主の請求による取得

② 法令・定款の定めによる強制取得

③ 合併の消滅会社が保有する存続会社株式を存続会社として承継する組織再編により取得する

④ 組織再編行為を行う際に交付を受ける形により取得する場合

 

2 株主の合意による取得

(1) 取得についての規律

ア タイプa

原則⇒株主総会特別決議(156条1項2項)

例外⇒会計監査人設置会社+取締役の任期1年の総会終結型

* 取締役会で定める旨を定款で定めることができる(459条1項1号)

イ タイプb

特定の株主から取得する場合⇒株主総会特別決議(160条1項・309条2項2号)

*上記の定款規定がある会社も株主総会決議が必要(459条1項1号)

∵ 特定株主取得手続が厳格なのは,①換金困難な株式の売却の機会の平等を図る,②グリーン・メーラーからの高値の取得を阻止する必要

⇒ 会社から通知により決議内容を知った株主は会社に自己をも加えたものに変更するよう請求可(160条3項)

ウ タイプc

取締役会設置会社(会計監査人設置会社でなくてもいい⇒タイプa参照)は,市場において行う取引により取締役会の決議によって定めることができる旨を定款に定めることができる(165条2項3項)

 

(2) 違法な手続による取得の効果

取得の手続に違反した自己株式の取得

○ 取得は私法上無効と解される(争いなし)

⇒ ただし,違法な会社の取得であることについて相手方が善意の場合には,取引の安全が優先され,会社は無効を主張できない

 

(3) 取得財源規制について

ア 要件

交付する金銭の総額は,当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない

イ 要件違反の場合の効果

① 自己株式の譲渡人,会社業務執行者,議案提案者は会社に対して連帯して自己株式の譲渡人が交付を受けた金銭に相当する金銭の支払義務(462条1項1号2号)

② 取得財源規制に違反する自己株式の取得は無効

ウ 上記②について

● 取得行為自体は無効ではなく,本文に記載した者に法定の特別責任が発生

×① 取得が有効とすると,譲渡人はいったんは履行を強制できる

② 法令違反の株主総会は無効であるのに,その決議に基づく行為は有効とは考えられる

○ 無効と解すべき

⇒ 会社法462条1項の規定は,取得が無効であることを前提とした規定であり,それが「金銭を支払う義務」であって交付された現物の返還義務ではないという点にのみ特則性が認められる

 

3 特殊な自己株式取得に関する規制

 

4 自己株式の法的地位

(1) 自益権・共益権

共益権⇒自己株式は,議決権その他の共益権を行使できず(308条2項)

自益権⇒剰余金配当請求権なし(453条括弧書き)

募集株式の割当て⇒自己株式にはできない(202条2項括弧書き)

* 株式の併合,分割について

● 自己株式も対象に含めるべき

∵ 効果が及ばないと自己株式の換価価値に変動が生じる

○ 自己株式を対象に含めるかは会社の裁量の範囲

∵ 効果が及ばずに換価価値が下がっても,それにより株主が損害を被るわけではない(特に,償却が予定されている場合などは無意味)

 

5 自己株式の消却

(1) 意義

ア 定義

自己株式の消却とは,保有する自己株式を消滅させる会社の行為をいう(178条1項)

イ 立法政策

従前は会社による取得の過程を経ない強制消却が存在していたが,概念上の違いにすぎないので整理廃止された。

* 強制消却を新法下で行おうとする場合

⇒ 「会社が株主の同意なしに株式を取得する方法」(107条1項3号2項3号,108条1項6号7号2項6号7号,168条ないし173条)の手続を検討

(2) 手続

取締役会設置会社⇒取締役会の決議

 

6 自己株式の処分

⇒ 株式の発行と同じ募集の手続を経てする必要(199条1項)

∵ 自己株式の処分がハブ始期発行規制の脱法となる危険防止

 

第2 子会社による親会社株式取得の規制(135条1項,976条10号)

1 意義

子会社は,親会社の株式の取得が原則できない

∵① 子会社は親会社から出資を受けて,かつ,株式の保有を通じて親会社の支配を受けている

② 取得を自由にすると,自己株式の取得にみられる弊害が一般的に生じる

2 取得禁止の例外

(1) 取得の許容

⇒ 一定の場合には例外的に取得可能

(2) 違法な取得の効果

⇒ 違法な取得は無効であるが,違法な取得であることについて相手方(株式の売主)が善意である場合は子会社は無効を主張できない

3 子会社が有する親会社株式の法的地位

4 子会社が有する親会社株式の処分

 

第五 併合・分割・無償割当て・単元株

第1 株式の併合

1 定義

株式併合とは,数個の株式を合わせてそれより少数の株式とする会社の行為をいう

2 要件

① 株主総会の特別決議(180条2項,309条2項4号)

② 取締役が株主総会で理由を説明すること(180条3項)

③ 併合2週間前に株主などに通知・公告をしていること(181条1項2項)

*株券発行会社では株券提供公告が必要!!

3 効果

各株主の所有株式数を一律・按分比例的に減少

Cf. 会社財産・資本金額・発行可能株式総数には変動はないが,授権枠は影響を受けない(江頭253)

4 制度趣旨

会社の出資単位に関する自治の尊重

5 社会的効用

① 1株の適正な市場価格という観点から出資単位を大きくしたい場合

⇒ Ⅰ株主管理コストの削減目的,Ⅱ下落した株価を引き上げる目的で資本金の額の減少と同時に行う

② 合併などの準備として株主の割当比率を1対1とするために予めの整理

6 不当な目的の株式の併合

問題意識 株式の併合が少数派の株式を端数にして会社経営から追い出す目的で利用されるケースがあり得る

○ 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議の成立として決議取消請求をするべき(831条1項3号)

∵ 多数派の賛成によりその特別決議が成立しているので

 

第2 株式の分割・株式無償割当て

1 株式の分割

(1) 定義

株式の分割とは,発行済株式を細分化する会社の行為をいう

(2) 要件

① 取締役会設置会社⇒取締役会の決議があること(183条2項,186条3項)

② 基準日の2週間前に公告をしていること(124条3項)

(3) 効果

同一の種類の株式数が増加する

⇒ 基準日に株主名簿に記載された株主が持株数に比例して株式を取得

(4) 制度趣旨

出資単位の決定を会社の自治に委ねる趣旨

(5) 社会的効用

Ⅰ 分割比率が小さい場合

10株を11株に分割すると,1株の実質的価値は90パーセントに下落する。しかしながら,実務上,上場会社株式のように市場価格のある株式の場合,証券市場は,「会社は1株あたりの純利益の額・配当額を維持できる自信がある」と評価されて,1株あたりの価値は下落しないことが多い。このため,株式分割は社会学的には,株主に実質的に利益を与える行為といえる

Ⅱ 分割比率が大きい場合

株式の市場価格が高い会社が一株の市場価格を引き下げ流動性を向上させる目的で行われることもある

(6) 手続違反の効果

株式の分割は,株式の発行・自己株式の処分に該当しないが,株式無償割当て無効の訴えが類推適用されると解すべき

∵ 効果は株式無償割当てとほぼ同じ[21]

 

2 株式無償割当て

(1) 定義

株式無償割当てとは,株主に対して新たに払込みをさせないで当該会社の株式の割当てをする制度をいい,異なる種類株式の交付が可能(185条)

*同一の種類株式を割り当てることも可能

(2) 要件

① 取締役会設置会社⇒取締役会の決議があること(183条2項,186条3項)

② 効力発生日の2週間前に公告していること(124条3項)

(3) 効果

一種の株式の発行

(4) 制度趣旨

平成2年改正によって無償交付が廃止され株式分割に一本化されたために,株式分割において異なる種類株式の交付ができるかについて疑義が生じたのでこれを解消するという趣旨

(5) 手続違反の効果

株式無償割当ては,株式無償割当て無効の訴えによる必要

∵ 会社成立後における株式の発行(834条2号)にあたる

 

第3 単元株制度

1 定義

単元株制度とは,定款により一定の数の株式を「一単元」の株式と定めて,一単元の株式について1個の議決権を認めるが,単元未満の株式には議決権を認めないとする制度をいう(188条1項・308条1項ただし書き,325条)

2 要件

① 定款の定め(株主総会特別決議が必要)があること

*減少の場合は取締役会決議(195条1項)

② 一単元が1000株を超えていないこと(188条2項,規則34条)

*大株主が制度を濫用することを防止するため

③ 制度を採用する場合は総会で理由説明をすること(190条)

* 種類株主総会の承認がいる場合もある(322条1項1号ロ・3項)

3 効果

(1) 議決権

1単元について1個の議決権となる(308条1項ただし書き)

⇒ 単元未満株式には議決権はない(189条1項)

(2) 単元未満株の権利制限のデザイニング

ア 定款自治

株主管理コストの削減の要請の一方で,単元未満株主の利益の尊重の要請もあるので,定款自治に委ねたほうがよい

⇒ 特に「議決権に関わりのない共益権の有無」はデザイニングによる

イ デザイニングの注意点(制限できない権利 189条2項)

① 全部取得条項付種類株式の取得対価の交付を受ける権利(171条1項1号)

② 取得条項付株式の取得対価の交付を受ける権利(107条2項3号・108条2項6号)

③ 株式無償割当てを受ける権利(185条)

④ 単元未満株式の買取請求権(192条)

⑤ 残余財産分配請求権(504条から506条)

⑥ 法務省令(規則35条)

 

4 制度趣旨

(1) 単位株制度を改め,将来の法律による株式併合の準備ではなく,恒久的な制度とする点

(2) 少額出資者の権利を限定し,会社に生じる株主管理コストを削減すること

5 社会的効用

出資単位の引上げという法的効果を達成するには,「株式併合」という手段がある。しかし株式併合は,多大な費用がかかるし端数が多く出てまとめて売却され株価が下落する懸念もあった。そこで,単純に単元未満株式には議決権を含む共益権を認めず株主管理コストを削減できる点が注目された

6 投下資本の回収方法の保障

(1) 単元未満株式の譲渡

単元未満株式が譲渡できない場合 単元未満株式を譲渡できる場合
①株券発行会社∧単元未満株式につき株券発行せず(189条3項)の定め

②株券不発行会社∧単元未満株式について株主名簿の名義書換請求権を制限している場合(189条2項)

左の①,②にあたらないこと

(2) 単元未満株式の買取請求

ア 要件

単元未満株主が会社に対して単元未満株を買い取るよう請求したこと

イ 効果

投下資本の回収を図ることができる(192条,155条7号,189条2項4号)

ウ 制度趣旨

そもそも「譲渡できない」場合はこの方法によらないと投下資本の回収ができない。現在では,単元未満株主の買取請求権の制度趣旨は,市場価格と同額では売却不可能な金融商品取引所の売買単位に満たない数の株式を有する株主に有利な投資回収手段を提供する制度となるに至った

(3) 単元未満株式の株式売渡請求

ア 要件

① 定款に売渡請求を認める規定があること

② 定款の定めに基づいて売渡請求がされたこと

イ 効果

請求時に会社が株式を有しない場合を除き,自己株式を請求株主に対して売り渡さなければならない(149条2項ないし4項)

ウ 制度趣旨

単元未満株主に単元株主になることを認める趣旨であるが,その制度を採用するかは定款自治に委ねられており,買取請求と異なる点

 


[1] 会社法には,会社を社団法人とする規定はない。これは,会社法は一人会社が極めて多く見られるからこれらを認知したからとされる。突き詰めてゆくと,会社は,「複数人が結合する団体」としての意味を喪失し,むしろ,「構成員と別個独立の権利義務の主体を作る」ための法的手段と位置付けられていると理解するのが自然と思われる。

[2] 旧民法43条と異なり,平成18年改正後の民法34条は会社に「類推適用」されるのではなく,「直接適用」することを明示することになった。したがって,旧法下時代に存在していた会社に対して民法旧43条の類推適用を否定する見解は新法下では解釈論として維持する余地がなくなった。江頭30は,「はなはだ遺憾」とするが,権利能力の有無が問題となるケースでは,目的外の抗弁が立つことは考えにくいのであるから,大きな差異はないと考えられる。また,江頭30は,取締役の善管注意義務違反の損害賠償請求や取締役の行為の差止請求事由でも「定款の目的」が問題となるが,こちらは縮小解釈するのは不当であるから,ケース・バイ・ケースの処理となり一貫しないという趣旨の批判をしているように思われる。しかしながら,制度が異なるのであればケース・バイ・ケースの処理をすれば足りるのではないかと考えられる。

[3] もっとも,出資の履行は既になされているのであるから,会社債権者は,株主に対する責任追及はできないことになる。すなわち,請求を基礎付けることができないのであるから,実質的には,「株主有限責任」ではなく,「株主無責任」の原理と説明した方がよいかも知れない

[4] 株主有限責任の原則も会社法104条で採用されている立法政策の一つにすぎず,ドグマティークに説明しようとするのは相当ではない。この点,江頭32が,分散投資の勧奨や所有と経営の分離が挙げられるのは大企業にしか妥当しないと批判し,本文の③と④を挙げているのは,立法政策論を正確に理解しているものといえる。たしかに,立法政策を考えると,③との関係では,リスクが大きいと社会的に有益な活動がなされなくなるおそれがあるので立法政策がこれを後押しする必要があるといえる。また,④との関係では,たしかに,債権者とは,通常,大手の金融機関のことをいうのであるから,それだけ債権者に慎重な投資を求めることが可能であり,そのリスクを少なくとも株主に転化すべきではない,というのもリスク分配の有り方としてあり得る立法政策と解すべきであろう。

[5] 資本維持の原則は,会社財産の流出を抑えようという局面で機能するが,その概念からも明らかなようにドイツ的なドクマティークなもので,一つの視点ないし立法政策のパッケージと理解しておけば足りる。ところで,資本維持の原則は,会社債権者保護のいち方法であることは明らかだが,必ず,株主有限責任の原則とセット・パッケージとなるものではない。すなわち,株主有限責任の原理と概念法学的に結び付けて理解してはならない。突き詰めてゆくと,資本維持の原則を維持するかは立法政策の問題であり,立法政策により放棄することは当然に可能である。これを所与の前提のように説明する基本書もあるが,レースラーの亡霊に取り付かれているか,著者が盲目的概念法学者のどちらかであるといわざるを得ない。

[6] 濫用化事例と比較して問題が多いとされるのが形骸化事例である。この点,判例は,濫用化事例については,「違法又は不当な目的があること」を要件事実としたため,これを認定することができない場合に備えて,形骸化事例を編み出したという背景がある。したがって,形骸化事例の場合は,「目的の要件」の認定はいらない点が特色である。もっとも,形骸化事例か否かの分水嶺は明確ではない。この点,江頭43は,法人格否認は会社債権者保護のための制度であることを再確認し,「法人格の形骸化のように債権者保護との関係が不明なもの」を間接事実として位置付けていることを批判している。そのうえで,①契約相手方に対して契約当事者の背後に背後者がいることを信頼させたか,②事業リスクに比して過少な資本の出資しかない場合,③会社から親会社などへの利益の移転など―取引法的視点から,要件事実を再構成するよう求めているが,傾聴に値するものである。

[7] 閉鎖会社では,上場会社とは異なり,所有と経営が分離されておらず,むしろ,「経営に参加できないのであれば,出資をするメリットはない」という命題が承認されている。ところが,閉鎖会社で内部対立が起きた場合,少数派は進退に窮することが多い。というのも,多数派から経営陣から排除されてしまったために少数派としては株主としてとどまっている意味を喪失してしまっている。かといって,閉鎖会社の場合,株式を譲渡するのも容易ではなく多数派に買い叩かれる,いわゆるスクィーズ・アウトが横行している。中小企業を舞台にする訴訟事件の背後には,必ずこのような社会的実態が存在しているといっても過言ではない。このような対立が頻繁に見られるという社会的実態にかんがみて,これを考慮した立法政策及び解釈論を展開することが求められるということである。

[8] 例えば,取締役の会社に対する忠実義務が挙げられる。この点,中小企業の非同族取締役は身分保障に乏しい一方で,独立志向の強い者が多い(例えば,監査役が競業会社を設立したLEC東京リーガルマインド事件などを思い浮かべるとよい)。そうすると,忠実義務(355条)を厳格に解すると,単に,「ワンマン社長に忠実を誓う」,言い換えれば,独裁経営のツールとして利用されかねず,緩やかに適用することが望ましいという視点を出すことができる。これは,会社法における過失の認定が民法の結果責任に等しいような峻烈な適用とは異なり,商慣習を踏まえて,緩やかに適用されていることとも,根底において通じるものがあるようにも思われる。

[9] したがって,論理的には,「株主の義務」として把握するよりも,「株主としての地位を得るための要件」のように把握すべきではないかとも思える。このように解すれば,誠実義務を除けば,株主は何の義務ないし責任も負担しないといえよう。

[10] スティール事件のように,株主平等原則の射程距離の拡張を検討すべき場合がある一方で,厳格に株主平等原則を適用すると,例えば,株主優待制度もできなくなるように,会社の資金調達の創意工夫を妨げていないかという視点から,その範囲設定は慎重に行われる必要がある。

[11] 優先株式の内容を定款に記載するように求められているのは,その種類株式をどのようにデザイニングされているかを確認するためである。具体的では,①剰余金の配当に関する参加的・非参加的の区別,②累積的・非累積的の区別,③優先権の継続期間,④残余財産の分配に関する優先額―を組み合わせてデザイニングする。

参加的か否かは,優先株主が定款所定の優先配当金の支払いを受けたあと,さらに残余の分配可能額からの配当も追加し受け取れるか否かの違いをいう。これは,非参加的なものとすれば,投機的な要素が弱まり経済的に社債と機能が類似していると考えられる。次に,累積的か否かは,ある事業年度に定款所定の優先配当金残額の支払いがなされない場合に,不足分について翌期以降の分配可能額から補填支払いがなされるか否かの違いをいう。これは,累積型のものとしてデザイニングすれば,経済的に見て配当が無配となる可能性が少なくなるから,経済的に社債との類似性が強くなると考えられる。

[12] 従前は,優先株式のみ無議決権とすることができた。これは,優先株式が機能的には社債に近いので共益権を除くことができるという意味があるが,実際上は,配当面でメリットがあるから,議決権ではデメリットを付け加えられるという平仄を合わせることがされていた。ところが,現行法では,議決権制限株式は優先株式と論理的に切り離されている。そこに,独自の意味を認めるとすれば,資本多数決によらない支配形成を可能にするためと思われる。

[13] 葉玉プランの概要の具体的説明

1 株主平等の原則との関係

(1) 葉玉見解

まず,「議決権行使の条件」(108条2項3号ロ)は,「株主が有する株式の数が発行済株式総数の一定割合未満(たとえば20%未満)であること」と定めることになる。もっとも,この定款の規定は,買収者のみに適用されるわけではないので,友好的な大株主の議決権もなくなってしまうと総会運営が出来なくなってしまうという問題点がある。そこで,株主総会の普通決議によって,議決権制限の解除を認めるスキームとして構築しておく必要がある。

(2) 私見

しかしながら,同一種類の株式については,持株割合により権利内容を違える定款は法が認めないものであり,株主平等原則の規律が妥当するものと考えられる。もっとも,株主平等原則も合理的理由がある場合にまで差別的取扱いを認めないものとは考えられない。そこで,何らかの強い必要性・合理性がある場合のみ,その有効性が認められるものと解するのが相当である。敷衍すると,議決権行使条件の設定は,事後に現れる買収者が会社の企業価値を毀損し,会社の利益(株主共同の利益)を害する場合にそれを阻止する手段として必要である場合に限りにおいて認められるべきものである(最決平成19年8月7日金法1273号2頁)。そうすると,葉玉プランは一般論として,すべての敵対的企業買収がほぼ確実に阻止されるという内容と評価することができるから,株主平等原則に反し違法であると解すべきである。

2 ダミーの設定の可否

(1) 葉玉見解

既存の普通株式に議決権行使の条件と何らかの種類株式を追加しておく必要がある。前者は問題ないであろうが,後者は,技術的の制約から行うことが求められるものである。すなわち,会社法の規定を見ると,議決権行使に制限を加えられるのは,「種類株式発行会社」に限られている(2条13号,108条1項3号)。もっとも,私見は疑問を感じるが,実質的には,1種類の株式しか発行していないにもかかわらず,ダミーの種類株式を定款に追加することができ,このダミーの設定によって,「種類株式発行会社」という技術上の制約をクリアすることができるのであるという。

(2) 私見

しかしながら,仮に法文上,ダミーでも足りると読めるとしても,実質的に中身のない種類株式を設定し,「種類株式発行会社」となるのは,実質的には,法の意図しない脱法行為と言わなくてはならない。そもそも,形式的に「種類株式発行会社」であるからといって,現実的にはダミーは発行される予定もないのであるから,そのような不当な目的がある以上,権利の濫用(民法1条3項)として,そもそも,「種類株式発行会社」該当性を否定することも十分可能と考える。

3 115条違反との関係

(1) 葉玉見解

次に,議決権行使の条件が付されるのは,すべての株式であるから,115条に違反する可能性が生じる。この点,葉玉見解は,「議決権行使の条件」がついた株式は,議決権制限株式ではないと強弁する。というのも,葉玉見解は,「議決権制限株式」の定義を,「108条2項3号『イ』の制限があること」と設定しているようであり,『ロ』の設定だけではあたらないと考えているようである。

(2) 私見

しかしながら,そのように解するのは法文上も実質的にも問題があると言わなくてはならない。

ア 法文上

115条は,「株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式」を規制の対象としている。葉玉見解は,これが108条2項3号イのみにかかると理解している。しかしながら,常識的に考えれば,108条2項3号の柱書の部分にかかると考えるべきである。そうだとすれば,形式的にみても,108条2項3号ロのみの設定にとどまっているから,議決権制限株式にあたらないというのは,詭弁としか言いようがないように思われる。

イ 実質面

そもそも,115条の制度趣旨は少数株主による会社支配を防止する点にある。この趣旨に照らすと,大株主の議決権のみを失わせて,少数者による支配を可能にする葉玉プランのスキームが,かかる趣旨に適合するか疑問がある。のみならず,現実的に議決権に対して制約が加えられており,加えられた制約が現実化していないにとどまる場合であっても,いわば「まっさら」な議決権に何らの制約がない株式とは異なるものであるから,これを115条の規制対象としない合理的な理由はないと思われる。

ウ 以上を踏まえると,葉玉プランは発行すれば115条に即時に違反するものと解すべきである。そして,適当な是正措置が講じられない以上は,定款規定の定めは,115条の法意にかんがみ無効になると解さざるを得ないように思われる。

4 主要目的ルールの適用について

(1) 葉玉見解は,「20%超えが現実になった場合,すべての株式が議決権制限株式になる」のだと説明する。そして,この場合,葉玉見解は,115条で求められる是正措置として,「新株発行をすることを余儀なくされる」ものであるから,主要目的ルールが適用されずに,差止めの対象とはならないという理解を前提としている。

(2) しかしながら,主要目的ルールが適用されるのは,資金調達目的がない以上は,割当自由を支える基盤がないからである。そうだとすれば,115条の是正措置の実現であるからといって,差止めの対象とならないとする理由はない。むしろ,単なる脱法と言わざるを得ないわけであるから,当然差止めの対象となると解する。

5 まとめ

以上のように,葉玉プランは,あらゆる観点から検討しても無理があり,違法といわざるを得ない。

[14] 108条1項7号は,『債務超過』の要件が立法段階で削除され,しかも有償取得も可能である。そこで,株式取得による企業買収後に残存する少数株主の締出しの手段として用いることもできないではない。

[15] たしかに,116条1項をみると,「322条2項の規定による定款の定めがあるものに限る」と規定されているので,種類株主総会における利益調整はしないので,バーターで株式買取請求権で利益調整をするということになっている。その結果,株式の併合や分割でも買取請求権が与えられるという珍しい現象が起きている。

[16] 失念株の問題の社会的実態は,真実は「名義書換えを失念」しているのではなく,財産隠匿目的で「意図的に名義書換えをしない」ケースがすべてを占めるといってもよい。そして,譲受人が名義書換えはできないが秘密裏に利益を確保する目的で不当利得返還請求を起こすという姑息な請求が多いのが実態である。理論的には,自己の権利を放棄していると解して,その請求は否定すべきという見解も成り立つ。

[17] 最判平成19年3月8日判時1965号64頁は,「不当利得の制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が,公平の観念に基づいて,受益者にその利得の返還義務を負担させるものである。

受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し,その後これを第三者に売却処分した場合,その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると,その物の価格が売却後に下落したり,無価値になったりしたときには,受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが,これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また,逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには,受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく,受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。 そうすると,受益者は,法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である」とした。コメントは,「代替性があり,かつ有価証券のように価格の高低がある物が売却されてしまった場合」は,「損失者は,売却後に同種の物の価格が上昇すれば代替物による返還を求めるのが有利であり,逆に下落すれば売却代金相当額の価格返還を求めるのが有利であるために,価格の変動を見極めて有利な方の請求をする」ことになる。これは,「損失者が受益者のリスクで投資をするのと同視でき,受益者が善意の場合には特にバランスを失する」と指摘している。そして,「売却後の価格変動により,受益者が取得した売却代金の全部ないし一部の返還を免れたり,逆に自腹を切らなければならなかったりする事態は避けられない。このような不都合が生じる原因は,代替性のある物の不当利得につき,価格返還と代替物による返還を損失者が選択的に請求することができるという点にある」と指摘している。そこで,「本判決は,法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者は,利得した物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと説示した。これは,代替性のある物の不当利得についても売却代金相当額の価格返還が原則であるとするものであり,損失者が価格返還と代替物による返還を選択的に請求することはできないことを明らかにした」と説明されている。

[18] したがって,株主総会において会社支配権の争奪が生じると予想される場合に,取締役会の多数派が自派に第三者割当ての方法による株式発行を行ったうえで議決権の行使を認めることも違法になる可能性が高い(江頭205)。

[19] 江頭226頁説。あまり一般的ではないと思われるが,江頭説は代表取締役を決定機関とすることはできないとするが疑問である。

[20] 結局,会社法が分かりにくいのは,立法政策はデラウェア州法を採り入れているにもかかわらず,法文の構造は因数分解に因数分解を重ねて,ドイツ的に出来ているという点にあると考えられる。ここでも,「金庫株の弊害」の話しをしていたにすぎず,金庫株の「会社が取得」の部分に着目して概念を抽象化して定立したものが「自己株式の取得」という概念である。要するに,その中身には異なった意味のものが含まれるわけであり,機能的に似ている部分があるので抽象的な概念でくくられているにすぎないということになると考えられる。

[21] なお,株式の分割については,募集株式の発行などの差止請求(210条)の類推適用は認められないとするのが判例(東京地決平成17年7月29日判時1909号87頁)である。もっとも,この立場を前提にしても,本文の無効の訴えを本案訴訟とする議決権行使禁止の仮処分などは認められると解される(江頭271,322)

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