結節性硬化症と過失

結節性硬化症の患者において,継続的に歩行障害や嘔吐の訴えがなされた場合,担当医師には頭部CT検査を行う義務がある過失があるとされました。

 

この判決は、東京地判平成22年3月4日です。患者やその家族の訴えなどから脳腫瘍を疑って,CT検査等をするべき注意義務があるとしたものです。

 

本件では、患者は結節性硬化症を患っていました。この病気ですが,難病であり、結節性硬化症はプリングル病とも呼ばれます。全身の疾患で、皮膚、神経系、腎、肺、骨など全身のいろいろなところに過誤腫とよばれる良性の腫瘍ができる病気です。

 

判決においては,10歳前後において脳腫瘍がみつかることが多く、その割合は、5パーセントから10パーセント,あるいは7パーセントから23パーセントと紹介されています。

プリングル病については,一定割合で脳腫瘍が生じる確率が高いという意味において,検査義務があるとする判断にはあまり異論がないところと思われます。

判決においては,病院が平成17年1月29日までにCTやMRIを撮影して,脳室ドレナージ術を行っていれば,原告に現在生じている意識障害は避けられたとしています。

 

損害の算定についても注目するべき点があります。将来介護費用、後遺障害慰藉料などは認められていますが、逸失利益は0円と認定されました。将来の労働能力喪失率の喪失が認められないということでしょうが,その判断の仕方は実務上参考になると思われます。

すなわち、身体障害等級1級とする身体障害者手帳が交付されており、・・・常時介護を必要とする状態であり,労働能力を100パーセント喪失したものと認められる。

 

しかし、・・・原告の発達予後は・・・不良である。・・・たしかに、現在でも大幅に生存率が増加しているとの記載もあるが、約40パーセントから45パーセントの患者が19歳までに亡くなっているとの統計報告・・・からすると,・・・生命予後は悪いと認められ,本件不法行為がなくても,原告が18歳から就労することが可能であると認めるに足りる証拠はない。

 

したがって,原告の逸失利益は認められない。

 

とされています。

 

具体的なファクト以外に統計についても重点が置かれているような判断手法であり,今後の立証の参考になるものと思われます。

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