フランスの解雇法制

現在、どこの国においても,「雇いたいときに雇うことができ,解雇したいときに解雇することができる」ということができないかという試みが行われています。

その理由は、不況による低調な経済活動があるところ,硬直的な解雇法制が新たな雇用を妨げているという視点があります。

 

たしかに,フリーランサーの方と話をしていると,雇用について「人生を抱える自信はない」とネガティブにとらえていて外注を積極活用するという考え方でした。

こうして新たな起業によって経済活動が始まったとしても硬直的な解雇法制の下では,小さな企業では雇用をすることは難しい状況になっているといわれています。

 

現在、スペイン、フランス、イタリアが解雇法制の改革に取り組んでいますが、キーワードとなっているのが「フレセキュリティ」という考え方です。

これは柔軟さを意味するフレキシビリティに,失業補償のセキュリティをミックスした造語です。

これは,労働者の生活の安定を維持しながら,雇用の柔軟化をすすめるという政策といえます。企業だけに雇用の維持を求める時代はもはや20世紀の発想というべきなのかもしれません。

 

しかし,二つの利益のバランスをどのようにとるのか,ということは各国においても試行錯誤が続いています。例えばフランスですが、中小企業は2年間は自由に解雇することができるというCNEという制度がありましたが,ILOから「試用期間が2年あるようなものだ」と指摘され廃止されました。そして,登場したのがCPEでした。26歳未満を雇用する場合には,当初2年間は解雇を自由とするものです。

 

CNEは,中小企業保護という側面が強かったと思いますが、CPEは現在の解雇法制の硬直性から若者の雇用に経営者が消極的になり結果として若者の雇用が奪われているという考え方が根底にありました。

特に,フランスでは若者の失業率は20パーセントを超える異常な状況にあり,なぜ若者の雇用が進まないのかを考えるとその論拠の一つに解雇法制の硬直さがあるというのは理由があるように思われます。

もっとも,CPEもまた若者らのデモによって撤回されてしまいました。その結果として,雇用政策に対する処方箋がなかなか示されておらず,「フレセキュリティ」を具体的にどのような立法政策で行うのかということはまだ確定的ではありません。もっとも,現在フランスが行っている雇用対策は場当たり的なもののように思われます。例えば休業補償の値上げ,職業訓練の充実など,日本においても取り組まれているものであり目新しさは感じません。

 

ところで,「フレセキュリティ」の方向性というのは実は3つしかありません。①労働市場の流動化を進めること、②失業保険の一層の充実、③職業訓練の充実と雇用の創出というところです。

フランスでは,2度にわたる労働市場流動化の試みが頓挫し,現在はこれを放置してしまい,②及び③に重点が置かれているように思います。しかしながら,②は財政的な負担を伴うものですし,職業訓練をしたからといって労働者と雇用者との構造的ミスマッチの解消が進むのか,③雇用の創出のためには新規起業や新規事業の立ち上げを優遇する政策が必要になるが,それはいわゆるプロジェクト型雇用を肯定する必要性があると考えられ,雇用創出の前提問題として労働市場の流動化があるのではないかという疑問が生じるところです。

 

もっとも,特に解雇予定者に対する職業訓練は新たな職の先取りに重点が置かれているとされており,その独創的な取組は政策的に日本においても参考にされるように思われます。しかしながら,公的資金を導入したからこそ,企業に社会的責任の大きな負担を迫るというのはバランシングがとれていない面があります。これでは「セキュリティ」にすぎないのではないかと思われます。

 

いずれにせよ,EUの若者の失業率の高さは異常です。失業保険といっても,就職できない方に失業保険もないように思います。今後フランス政府が,CNE,CPEに続くいかなる雇用流動化策を示していくかが注目されます。

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