中日新聞に法曹養成に関する記事が載りました。

中日新聞の7月16日付社説に「改革の理念に立ち返れ 法曹養成」という記事が掲載されました。

 

しかし、拝見するとても大人が書いたとは思えないレベルで一体何がいいたいのかよく分かりませんでした。私が大学院で小論文の添削をしたら、赤点でしょうね。

社説は「司法制度改革の理念に立ち返り、若者が魅力を感じる制度」というのですが、司法改革の理念は、分かりやすくいえば国民のみなさんが利用しやすい司法を目指す、ということのはずです。「若者の魅力」が突然加わってしまうことには違和感を感じます。

 

法科大学院の定員割れは深刻でして、今年は1万3000人程度。当初からいえば6万人ほど減少したということです。そして、私見でいうと法科大学院はモラトリアムとしての進学も多く、まともに勉強するのは3分の1程度だと思います。そうすると、ほとんど勉強しない3分の2を除外すると3000名になってしまいますから、3000名では何の選抜にもなっていないだろう、という感想を持ちます。

 

ところで、司法改革の理念と法科大学院の定員割れは関係がないのではないのではないかなと思います。法科大学院は評判の良いところからそうでないところまで、さまざまです。どうしても学者というのは興味関心が偏るもので、私が学んだ大学院では民法の教員が請負法しか知らなかったということもありました。その人は結果的に退職されたようですが、法科大学院の教員が実務レベルに照らしてどうなのか、という検証は必要だと思います。

 

中日新聞は、あくまでも合格者が増えれば「司法改革の理念に立ち返る」ことになるといいたいようですが、これは間違いでしょう。以前ブログに書いたように、本当に求められているのは、経済的合理性のない案件でも訴訟ができるように弁護士保険制度を創設する、裁判官を増やし審理を迅速化する、高すぎる印紙代・破産管財費用について公的助成をする、法テラス予算を増やす、国選弁護報酬を増額して多くの弁護士が取り組めるようにする、ADRのように簡易迅速に紛争を解決する機関を増やしていく、少額訴訟など本人訴訟を支援するならば裁判所も「丁寧な」応対をする相談窓口を作る-など合格者の数よりも重要な課題が山積しているように思います。

 

これだけ指摘されても、国民が利用しやすい司法を実現するには、合格者増しかないというのは、もはや思考をすることができないとしかいえないのではないか、と思います。

 

中日新聞は予備試験についても「特急コース」と指摘して批判しています。しかし、以前のように司法修習生が国家1種待遇として扱われるならともかくそうでないならば、大学卒業後は早く社会に出たいというのは、社会人として当たり前のことではないか、と思います。司法養成の問題点として、養成機関が長すぎる、ということがあげられるだろうと思います。こうした弊害をこの新聞は思考しているのでしょうか。

 

法科大学院制度が空洞化するということのようですが、法科大学院といってもピンからキリまでありますので、全部が全部維持しなければならないのは文系大学院が新聞記者の有力な天下り先だからではないでしょうか。法科大学院が空洞化しても別に司法改革の理念は達成できますし、国民も困らないと思います。

 

またいまさら医師国家試験と比較するのもナンセンスだと思います。たしかに医師のように学部との有機的連関は必要だと思います。しかし、「真面目に勉強したら合格できる」というのはこの国の文化や価値観に合うのでしょうか。真面目に勉強しても中日新聞に入社できなかったり、東京大学に入学できなかった人はどうなるのでしょうか。医学部は入学者選抜でふるい落とされているという実態も見落としているのではないかな、と思います。

 

中日新聞は、国民が利用しやすい司法ではなくて、「司法試験の合格者を増やすこと」が改革の理念だと思っています。目的と手段を間違えてしまっていますね。

 

現実には合格者が増えても登録者は必ずしも純比例して増えているわけではありませんから、弁護士の増加による混乱が続けば数だけ増やしても司法改革の理念は達成できません。

 

その後の社説は「たられば」の話しが続きます。「官庁や企業など幅広い分野で・・・活用できるはずだ」とありますが、だったら中日新聞くらいの規模であれば弁護士を30名程度雇用したらどうでしょうか。特に司法記者クラブの記者のレベルが残念なので、丁度良いのではないでしょうか。安倍政権によって憲法が改正されることの問題点を登録1年の弁護士に取材したと聴きましたがあきれました(笑)。言論機関としては、相当残念なレベルですので、中日新聞こそ法の支配をすみずみまで行き渡らせる必要があるのではないか、と思います。

 

「法案を作る中央官庁などでは、大胆に採用を増やすべきだ」とありますが、そもそもその官庁で特定の法律のみを所管している官僚というのは弁護士以上にその法令に精通しているのが普通です。

 

なので、全体的に公務員の数を抑制しているなかで法案を作る中央官庁だけ弁護士であれば増員できる、というのも全体をみて論じているのかよく分かりません。大型法案の作成はやりがいがあると思う一方で、プロジェクト型の雇用なので、用がなくなれば契約を打ち切られるという運命ですから、希望者は一部にとどまるのではないでしょうか。

 

附言すると公務員に任官している弁護士も増加してきましたが、採用条件はだいたい1年です。1年でクビになってしまうので、キャリア形成に役立つと考える人か、よっぽど弁護士をやるのが嫌な人しか応募していないと思います。

 

法律事務所では残業も多いですし産休をとるのも難しいですし、何よりもブン屋さんのように外野として興味本位で「事件」をみているだけの人間と、実際「事件」を抱えながらそれを解決する人とでは、全く心労の程度は異なると思います。

 

中日新聞は「視野を広げた制度改革論が求められる」としていますが、是非、自己の狭い視野に気づいて、国民が利用しやすい司法が何であるかを考えてみたらいかがでしょう。

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