相次ぐ「引退」-貴乃花等、排除当たり前社会にならないように

昨今、「平成」の時代を駆け抜けてきた人々の「引退」が相次いでいる。彼らに、憧れ、時に励まされ、勇気をもらった世代としては、これ以上は独立独歩でいくしかあるまい。彼らにはお疲れ様といいたい。

安室奈美恵さん、滝沢秀明さん、貴乃花のそれぞれの引退のほか、吉澤ひとみさん、小室哲哉さんも「引退」をした。

 

安室奈美恵さんは、息子さんが立命館大学に進学したとの報道もあり、京都に拠点を移すのではないかといわれている。安室奈美恵さんは、いわゆる「喪失感」を持った芸術家タイプの歌手ではなかった。いわゆる小室ファミリーから離れた後、彼女なりの音楽がアーチストとしての本懐だったのだろう。そのうえで、息子さんが成人を迎え配偶者もいないことから、音楽活動にピリオドを打ったのであろう。

 

失意のなかピリオドを打たなければならない人もいた。貴乃花がその人であろう。相撲協会は映像を提供するということを通じてテレビをコントロールすることができ、大手メディアは軒並み論評を避けたり貴乃花を批判したりしている。しかしながら、しがらみのない沖縄タイムズや京都新聞が相撲協会への批判ののろしを上げた。

 

たしかに貴乃花は現役の力士ではないが、「信念の人」だった。ガチンコという言葉も貴乃花から始まったのではないかと思わせるほど、現役時代は22回の優勝を果たし一大ブームを巻き起こした親方だけに「人気の人」であることばかりであることがクローズアップされることが多い。しかし、八百長や星の取引が横行する相撲に、八百長といういわばタブーに取り組み根絶するための具体的な取り組みをしていた数少ない人ではなかったか。

 

現在の理事は優勝回数はせいぜい7回程度だ。それだけ北の湖と貴乃花が突出していたことや八百長に否定的なスタンスを取り続けた人だと分かる。それだけに、もともと敵の多い人であった。しかし貴乃花は北の湖理事長の寵愛を受けて順調に「組織人」としても、主流派として出世していた感じはある。

 

だが、自らの一門の立ち上げや自分自身の理事長就任など野心が過ぎるところも垣間見えたところは、反省しなくてはいけないところだろう。

 

テレビは、いっせいに貴乃花の報道をしなくなった。相撲協会対貴乃花の分かりやすい構図でワイドショーで取り上げようと思ったが、実体が深刻な「排除の論理」にあることが分かり、貴乃花の意思表示が引退であれ退職であれ、協会を去りたいという意向が強く、これ以上、おもしろおかしく、あるいは、貴乃花の意向に反する報道をすれば労働の自由などの基本的人権を侵害しかねないと気づいたからであろう。

 

意趣返しの勢いにた貴乃花は敗れたといえるだろう。平成29年10月、貴ノ岩関が元横綱日馬富士から傷害を受ける事件だった。貴乃花は被害者側の親方であったにもかかわらず、理事者を兼任していたことから、最終的に報告義務違反を問われて理事を解任された。

 

貴乃花は内閣府内閣府の公益認定等委員会に是正措置を求めて告発状を提出するなど軋轢を強めた。

しかし、貴乃花の別の弟子が暴行事件を起こし、その責任をとって告発を取り下げたが、いったん池に落ちた犬は徹底的におぼれさせるのが相撲協会だ。貴乃花は、「年寄り」という最も低い役職となった。そして年寄総会で2時間にわたり告発状が虚偽であること、その撤回を求められ続けられたという。これはもはや有形のパワハラ以外の何物でもない。

 

貴乃花は部屋では独立しており親方である。このため、なぜこのようなことになるのか、本人も予想だにしていないこと、いや現実化して欲しくないと考えていたことが現実化したということだろう。

相撲協会は「秘密裡」に7月の理事会で「全親方は既存の5の一門に属すること」と規約を勝手に変えてしまった。事実上、貴乃花を追い出すための規約の改正である。建前は一門に配分される助成金の透明化を図ることが目的であったが、現実には2年に1度ある理事選に貴乃花を立候補させないようにするためが真の目的とされる。

そして、理事者ではない貴乃花は、「秘密裡」の情報にアクセスできず、また、受け入れ先の一門が見つからず、受け入れを打診した一門が出した条件が、結局、内閣府に提出した告発状を虚偽と認めること、その撤回をすることという条件を示されたという。

元NHKアナウンサーの堀潤さんは朝の報道番組で、「(原発問題へのスタンスの違いから多くのアナウンサーが異動させられる中、)僕も組織に残りたいなら、上司の指を舐めろといわれたことがありますので貴乃花さんの気持ち分かりますね」と話した。会友や一部のレポーターが貴乃花批判を繰り返すが、良き組織人であることとは、上司の指を舐めるものとは、良い経営者はいわないだろう。

結局、貴乃花は目の前にある改正規約と一門所属が適わないと悟ったとき、弟子の受け入れ先を探し始めたなどの行為は立派であった。貴乃花は46歳である。「年寄り」として老け込む年齢ではあるまい。他方、中学生のころから相撲道しか知らないのも事実だ。いささか遅すぎる側面もあるが見聞を多少なりとも広げて欲しい。

産経新聞は貴乃花について「粘り腰がない」と批判するが、理事長候補とされ多くの仲間がいて、貴乃花一門を引っ張っていた時代から、理事を解任され事実上解雇される可能性が高まった状況で、相撲協会にすがりつくのが「潔し」なのか理解することができないと云わざるを得ない。

 

産経新聞は、相撲協会による貴乃花への圧力もなかったと断じて「独り相撲」などと揶揄をする。しかし、現実は、堀潤元NHKアナウンサーがいうように「上司の指を舐めてまで」組織に残りたくないという本音であろう。

 

信念の人として、自らの信念に忠実に行動する背中を見せるのも師匠の最後の仕事であった。なんとなれば、この先、貴乃花は所属先の一門が決まらず、部屋を解体させられ、友好的な部屋の年寄兼コーチになるくらいが関の山だっただろう。平成の大横綱が、「年寄」として聴いたこともない親方にあごで使われている姿がはたまたみてみたいのか。それも多いに疑問だ。

しかし、少なくとも、八百長など競技の適正化に問題意識を持っている理事を突然解任し、最も低い役職である年寄として、一門に入れなかったから解雇するという計画が事実であるとすれば、政府は公益財団として相応しいか、監査を入れるべきではないか。

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