通貨スワップ取引において顧客に対する説明義務違反事例

東京高裁平成26年3月20日の判例が注目されています。

 

デリバティブ取引についての最判平成25年3月7日、3月24日について、法人顧客には、適合性原則の適用はなく、経営者は中小企業であっても投資について合理的判断が常に可能という前提で説明義務違反もないとの判断がされ、多くの疑問が提起されています。

 

その中での東京高裁平成26年。

 

本件は、通貨スワップ取引において、顧客に対する当該取引の勧誘が適合性原則、説明義務に違反し、また、断定的な判断を提供した違法なものであったか否かが専ら問題となっている事案である。いずれも金融商品取引の勧誘の違法を巡って争われる事案において争点となり得る問題であって、下級審の裁判例は数多くみられ、最高裁の判例も少なくない。
第1に、本件取引の商品性についてみると、本判決は、前記したとおり、金融商品取引法の規定する取引の分類を前提に、本件取引が通貨スワップ取引であると判断している。その認定判断は、専ら契約の解釈問題であるが、事実問題にとどまらず、法律問題を含んでいるとしても、本件取引が通貨スワップ取引であったことを前提に、以下の問題点について検討すれば足り、かつ、それが簡明であるように思われる。
第2に、適合性原則違反の成否についてみると、最一判平成17・7・14民集59巻6号1323頁は、要旨の1として、「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となる」と、要旨の2として、「証券会社甲の担当者が顧客である株式会社乙に対し株価指数オプションの売り取引を勧誘してこれを行わせた場合において、当該株価指数オプションは証券取引所の上場商品として広く投資者が取引に参加することを予定するものであったこと、乙は20億円以上の資金を有しその相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと、乙の資金運用業務を担当する専務取締役らは、株価指数オプション取引を行う前から、信用取引、先物取引等の証券取引を毎年数百億円規模で行い、証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと、乙は、株価指数オプションの売り取引を始めた際、その損失が一定額を超えたらこれをやめるという方針を立て、実際にもその方針に従って取引を終了させるなどして自律的なリスク管理を行っていたことなど判示の事情の下においては、オプションの売り取引は損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性がある極めてリスクの高い取引類型であることを考慮しても、甲の担当者による上記勧誘行為は、適合性の原則から著しく逸脱するものであったとはいえず、甲の不法行為責任を認めることはできない」とそれぞれ判示して、適合性原則違反の成否の判断基準を示すとともに、適合性原則違反の勧誘が顧客に対する担当者の不法行為を構成し、したがって、会社に使用者責任を生じさせることを明らかにした判例であって、同判旨は、以後の下級審の裁判例において明示して引用されるだけでなく、同判旨に従った判断が示されるといったように、裁判実務に定着したものとなっている。

 

原判決は、明示的に同判旨を引用してはいないが、前記判断基準は、同判旨を踏まえたものとなっている。その判断基準に従った検討を加えた結果、原判決は、本件事案においては、適合性原則違反は認められないとして、これを否定しているところ、本判決は、同判旨を明示的に引用した上で、原判決の判断を是認しているが、前掲最一判平成17・7・14も、結論的には、当該事案における適合性原則違反を否定する(ただし、原審において、その余の争点に対して判断を示していないため、原判決を破棄して、当該争点について審理を尽くさせるため、事件を原審に差し戻す)ものであった。

第3に、説明義務違反の成否についてみると、金利スワップ取引についてであるが、最一判平成25・3・7は、要旨として、「銀行と顧客企業との間で、変動金利が上昇した際のリスクヘッジのため、同一通貨間で、一定の想定元本、取引期間等を設定し、固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引が行われた場合において、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、上記取引に係る契約締結の際、銀行が、顧客に対し、中途解約時の清算金の具体的な算定方法等について十分な説明をしなかったとしても、銀行に説明義務違反があったということはできない」と判示し、その事情の(1)として、「上記取引は、将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右される基本的な構造ないし原理自体が単純な仕組みのものであって、企業経営者であれば、その理解が一般に困難なものではない」こと、同(2)として、「銀行は、顧客に対し、上記取引の基本的な仕組み等を説明するとともに、変動金利が一定の利率を上回らなければ、融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明した」こと、同(3)として「上記契約の締結に先立ち銀行が説明のために顧客に交付した書面には、上記契約が銀行の承諾なしに中途解約をすることができないものであることに加え、銀行の承諾を得て中途解約をする場合には顧客が清算金の支払義務を負う可能性があることが明示されていた」ことを挙示している。説明義務違反が不法行為を構成し得る前提で、当該事案において、否定的な判断を示したものと解されるが、説明義務違反を理由とする不法行為の成立を前提に、その成否を判断してきたこれまでの裁判例を是認するものとして位置付けられる。原判決も、本判決も、説明義務違反を認めているが、この点において、同最判の判旨に抵触するものではない。最判後の裁判例として、名古屋高判平成25・3・15判時2189号129頁(適合性原則違反を認めた前掲名古屋地判平成24・4・11の控訴審判決であるが、適合性原則は否定している)、京都地判平成25・3・28判時2201号103頁、東京地判平成26・3・11本誌1442号50頁などがある。もとより、適合性原則違反の場合と同様、説明義務違反を否定した裁判例も少なくない。
第4に、断定的判断の提供の成否についてみると、最三判平成22・3・30は、要旨、「金の商品先物取引の委託契約において将来の金の価格は消費者契約法4条2項本文にいう『重要事項』に当たらない」と判示している。原判決が消費者契約法4条1項に基づく取消しを否定した判断については、「上告人の外務員が被上告人に対し断定的判断の提供をしたということはできず、消費者契約法4条1項2号に基づく取消しの主張に理由がないとした原審の判断は正当として是認することができる」と判示して、これを是認している。適合性原則違反ないし説明義務違反が認められた裁判例においても、断定的判断の提供については否定される裁判例が少なくない。原判決も、本判決もその例に漏れないが、そのようななかで、断定的判断の提供が認められた裁判例をみてみると、例えば、京都地判平成23・12・20資料版商事345号200頁(ただし、適格消費者団体による未公開株式勧誘等の差止請求が認められた事例)、千葉地判平成21・10・21判タ1353号167頁、東京地判平成20・8・27判タ1293号200頁、大阪高判平成19・4・27判時1987号18頁(ただし、消費者契約法4条1項2号に基づく取消しが認められた事例)などがあります。

東京高裁は、原判決も同旨であるが、要するに、通貨スワップ取引につき、担当者の顧客に対する説明義務違反を理由とする銀行ないし証券会社の当該顧客に対する損害賠償責任を認めた裁判例である。当該取引を行った担当者として、銀行の従業員のほか、証券会社の従業員もいるところ、両者の説明義務違反を認めたため、銀行と証券会社と両社の損害賠償がそれぞれ認められている点に特徴もある。説明義務違反を認めた認定判断それ自体は、本件事案に即した事例的な認定判断であるが、説明義務違反の一部を否定するほか、適合性原則違反を否定し、断定的判断の提供も否定した認定判断をしています。

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