TOBで株強制取得に同額、最高裁。

M&AをめぐりTOBに応じなかった少数株主から強制的に株式を買い取るスクィーズアウトの際、この株価について、最高裁が、、TOBの価格と同額どの判断がありました。

 

一般的には、TOBに不満があるので、裁判までもつれ込んでいるので、TOBをする側を買収側というならば買収が和に有利な判断といえそうです。今回は、まず多数の株式を取得して、最後にスクィーズアウトをするという二段階方式で少数株主の保護が比較的高い事案でした。

 

住友商事とKDDIによるJCOMに対する買付。これはJCOM側も協力的だったのではないかと推測されるのですが、TOB公表後株価は上昇しますから、その部分が考慮されていないし、今後保持することにより値上がり利益が期待できるのですから、合理的に考えると、持っているかいないかについての判断権を奪うのであれば、TOBに加えた代償措置が必要、と考えられるのではないでしょうか。こうした考えを1審と2審は採用したようです。

 

一般的にTOBは敵対的なものは少なく、株価の値決めも専門家の客観的意見を聴いているのか、という疑問が提起されたのです。

 

今回の裁判所は、公正な手続だったか否かを判断するという点に重点をおいており、経営判断を代わりに行う手法は行うべきではない、という判断のようです。しかし、そうなると、その中身や特段の事情を今後明確にしていく必要があるのか、と思います。ただ、執務上敵対的買収の場合、本当に今回のJCOMのような立場の経営陣の意向に逆らってまで,適切に意見を述べる第三者委員会の意見は多くないとの指摘もあります。恣意性を排除するのは、かなり難しいので、立論が無理があるようにも思えますが、最高裁の判例である以上、今後、大きな影響を与えるでしょう。

 

もっとも,今回の司法判断により、M&AについてTOBと同じ価格でスクィーズアウトすることができるということになれば、上場している子会社などを有している場合など、M&Aがしやすくなる環境が整いやすくなるという点で、最高裁の政策的判断ではないかとも考えられます。

 

(1) 株式会社の株式の相当数を保有する株主(以下「多数株主」という。)が当該株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引においては,多数株主又は上記株式会社(以下「多数株主等」という。)と少数株主との間に利益相反関係が存在する。

しかしながら,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われた場合には,上記公開買付けに係る買付け等の価格は,上記取引を前提として多数株主等と少数株主との利害が適切に調整された結果が反映されたものであるというべきである。

そうすると,上記買付け等の価格は,全部取得条項付種類株式の取得日までの期間はある程度予測可能であることを踏まえて,上記取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動についても織り込んだ上で定められているということができる。上記の場合において,裁判所が,上記買付け等の価格を上記株式の取得価格として採用せず,公開買付け公表後の事情を考慮した補正をするなどして改めて上記株式の取得価格を算定することは,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,本来考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定するものであり(最高裁平成26年(許)第39号同27年3月26日第一小法廷決定・民集69巻2号365頁参照),原則として,裁判所の合理的な裁量を超えたものといわざるを得ない。

(2) したがって,多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。
5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。抗告人の論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原決定は破棄を免れない。

そして,以上に説示したところによれば,本件株式の取得価格は,抗告人の主張するとおり,原則として本件買付価格と同額となるものというべきであり,本件の一連の取引においてその基礎となった事情に予期しない変動が生じたとは認められない。したがって,原々決定を取り消し,相手方らが有していた別紙保有株式数一覧表記載の抗告人の全部取得条項付種類株式の取得価格をいずれも1株につき12万3000円とすることとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官小池裕の補足意見がある。
裁判官小池裕の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛同するものであるが,会社法172条1項に基づく全部取得条項付種類株式の取得価格の決定に関する裁判所の合理的な裁量の在り方という点について,補足して意見を述べることとしたい。
会社法172条1項に基づき全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立てがされた場合には,裁判所は,株主総会で定められた取得対価が存することを前提として,合理的な裁量に基づき,その対価を変更することの要否を判断し,変更を要するときは独自にその対価を算定し,取得価格を定めるものとされる。
この場合において,裁判所は,関係当事者によって形成された取引条件に関する判断や合意を対象として裁量的な判断をすることになるが,関係当事者の判断等の形成過程の公正さ,その判断等に基づく取引に関する関係当事者の予測可能性と利害,取引の衡平の確保等を考慮し,どこまでその判断等に介入するかについて検討する必要があると考えられる。
ところで,相互に特別の資本関係がない会社間の企業再編取引における株式買取請求に伴う株式の買取価格の決定の事案について,一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,株主総会における株主の合理的判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情のない限り,当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当であるとされる(最高裁平成23年(許)第21号,第22号同24年2月29日第二小法廷決定・民集66巻3号1784頁参照)。
本件は,多数株主による完全子会社化に向けた公開買付けと全部取得条項付種類株式の全部取得という二段階取引が行われた事案であり,多数株主等と少数株主との間に利益相反関係が存し,会社から退出を余儀なくされる少数株主の保護が要請される取引が対象となっている。

しかし,このように構造的な利益相反関係が存する場合についても,取引に関する意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,一般に公正と認められる手続が実質的に行われ,多数株主等と少数株主との利害が適切に調整され,株式の買付価格が公正に定められたものと認められる場合には,裁判所は,独立当事者間の取引の場合と同様に,原則としてこのような手続を通じて定められた価格(取引条件)を尊重すべきものであると考えられる。

すなわち,裁判所は合理的な裁量に基づいて株式の取得価格の決定をするが,その判断においては,まず,関係当事者間の取引において一般に公正と認められる手続が実質的に行われたか否か,買付価格がそのような手続を通じて形成された公正な価格といえるか否かを認定することを要し,それが認定される場合には,原則として,公正な手続を通じて形成された取引条件である買付け等の価格を尊重し,取引の基礎とした事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情のない限り,当該買付け等の価格をもって取得価格とすべきものであると解するのが相当である。
株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格算定方式が存する。

そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。

このような株式価格の算定の性質からすると,本件のような事案において,裁判所は,買付け等の価格という取引条件の形成に関わる手続の公正について的確に認定するという点で特に重要な機能を果たすものといえる。 そして,公正な手続等を通じて買付け等の価格が定められたとは認められない場合には,裁判所が取得価格を決定することになるが,その算定方法は市場株価分析によらざるを得ないこともあろう。ただし,裁判所が裁量権の行使に当たり,関係当事者等の経済取引的な判断を尊重してこれに委ねるべきか否かを判断するに当たっては,この方法が株式価格に関する多元的な要因を広く捉えるものとはいい難いという点も考慮する必要があろう。

原審は,本件の一連の取引は基本的に公正な手続を通じて行われたということができ,株式の取得日における客観的価値が市場株価から補正すべき事情がない場合であれば,本件買付価格は公正な価格といえるとしている。その上で,仮に本件公開買付けがなければ,本件株式は株価指標の推移に連動して一定程度の上昇があったと考えるのが合理的であるとし,取得価格の算定に当たり,本件買付価格を採用することなく,株価の回帰分析の方法等に基づく算定をした。

しかし,一般に公正と認められる手続を通じて本件買付価格が定められた場合には,取引の基礎とした事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情のない限り,その価格を尊重しこれを取得価格とすべきものであるところ,原審は,特段の事情が認められないにもかかわらず本件買付価格を採用しなかった上,本件買付価格には取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動が織り込まれているといえるにもかかわらず改めて事後の事情を考慮した補正をする算定をしており,本件取得価格の算定に関する原審の判断は,裁判所の合理的な裁量を超えたものといわざるを得ないと考える。
なお付言すると,本件において上記の特段の事情が認められないことは,少数株主の多数や株式市場によって本件買付価格が受け入れられたとみられることなどからも裏付けられるといえるであろう。

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