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会社法

機関、株主総会、取締役会、役員の責任

第4編 機関

第一 機関の構成と権限分配

第1 機関の種類

1 株主総会と取締役・執行役

2 監査役

3 機関の実態と法的課題

(1) 公開型のタイプ

 ① 経営者が委任状を通じて実質的にコントロールする株主総会の存在意義とは何か

 ② 株主は業務執行者の不正に対する有効な監視手段を有しているか

(2) 閉鎖型のタイプ

 ① 各株主の経営への参加の確保

 ② 少数株主の取締役への選任を保障する法的仕組み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二 株主総会

第1 株主総会の権限

1 決議事項

 取締役会設置会社の株主総会は,法令に規定する事項または定款に定めた事項に限り決議できる(295条2項)

∵ 取締役会設置会社というスキームは,業務執行を原則として取締役会の決定に委ねる制度となっている

2 決議事項の限定

 招集者が会議の目的と定めて株主に通知した事項以外は決議できず(309条5項)

3 法令に定める決議事項

 ⇒ 委譲するデザイニングも不可(295条3項)

∵ 重要事項として株主総会の権限に専属させられたから

4 定款に定める決議事項(デザイニングのあり方)

 ⇒ 株主総会の権限を拡大すると,意思決定手続が煩雑となるので,取締役会の権限の制約は株主間契約で行われることが多い

第2 株主総会の招集

1 招集権者

原則 取締役会(416条4項4号)

⇒ その決定を代表取締役が執行する(296条3項,298条4項,325条)

例外 少数株主による招集(297条1項,325条)

2 招集時期

 ① 定時株主総会

 ② 臨時株主総会

3 招集方法

 ① 招集者は会日の2週間前までに各株主に対してその通知を発する必要(299条1項,325条)

 ∵ 株主・種類株主に出席の機会と準備の機会とを与える趣旨

 ② 招集手続の省略・全員出席総会

  ⇒ 議決権行使できる株主全員の同意があるときは,法定の招集機関を短縮し,法定の招集通知・計算書類・事業報告の提供を行わずに総会の開催ができる(300条,325条)

  ⇒ 招集がなくても,株主全員が開催に同意して出席すれば株主総会は適法に成立する(株主全員の同意があれば柔軟な運用できる)

4 譲渡制限会社の場合

 ① 招集期間は1週間

  ⇒ 定款によりその期間を短縮することも認められる(139条1項,140条5項・145条)

 ② 譲渡制限会社∧非取締役会設置会社∧書面により議決権行使可能と定めない(299条2項ないし4項,301条・302条・325条・437条)

  ⇒ 書面によらない招集の通知も有効

5 株主提案権

(1) 議題提案権

ア 要件

 ① 総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を有すること

 ② ①の株式の取得時期が6ヶ月以上であること

 ②’譲渡制限会社であること(303条3項)

 ③ 取締役に対して会日の8週間前までに請求をしていること

 ④ 一定の事項を総会の目的とするように請求していること

  *提案された議題が総会の決議事項でない場合は議題とする効果なし

イ 効果

ウ 制度趣旨

 取締役が招集する総会で少数株主にも議題提案権を認めるものであり,少数株主による総会招集の制度を簡易化したものといえる

エ 問題点(無視されたら・・・)

 私法的⇒適法な提案が無視されても,その議題に対する決議がない以上,決議取消事由をそれだけで構成しない(江頭303)

(2) 議案提案権・議案の通知請求

ア 会場における提案権

イ 自己の議案の通知請求

(ア) 積極的要件(304条・325条)

 ① 株主であること

 ② 議案が総会の目的となっている事項であること

 ③ 株主総会においてであること

(イ) 消極的要件(304条ただし書き・325条)

 ① 過去に議決権10分の1以上の賛成が得られなかった議案と実質同一

 ② 賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合

ウ 自己の議案の通知請求

(ア) 要件

 ① 会日の8週間前であること

 ② 総会の目的とされている事項についての議案であること

 ③ 議案の要領を株主に通知するよう求める請求であること

 ④ 総株主の議決権の100分の1または300個以上の議決権あり

 ⑤ 6ヶ月前から保有していること

 ⑤’譲渡制限会社であること(305条1項ただし書き2項・325条)

(イ) 制度趣旨

 株主が会社の費用負担で会日前に自己の議案を他の株主に知悉させる

エ 問題点(無視されたら・・・)

 株主の適法な通知請求を無視してなされた当該議題の決議は,取消事由あり(831条1項1号)[1]

第3 議決権

1 議決権の数

原則 ⇒ 一株一議決権の原則(308条1項,325条)

例外 ⇒ 議決権がないもの

 ① 議決権制限株式

 ② 自己株式(308条2項・325条)

  ∵ 会社支配の公正維持

 ③ 相互保有株式(308条1項括弧書・325条)

  ∵ 会社支配の公正維持

 ④ 単元未満株式(189条1項)

  ∵ 株主管理コストの節減が目的

効果 ⇒ 決議成立判断の際,定足数・必要賛成数に算入されず(309条1項)

 

2 議決権の行使

(1) 原則として議決権行使の態様は自由のはず―議決権不統一行使

 ⇒ 自由(313条1項・325条)だが,会社は当該株主が他人のために株式を有する者でないときは,その不統一行使を拒むことできる(313条3項)

∵ 投票集計の煩雑さなどの会社の事務処理上の都合及び不真面目な議決権行使の防止のため

(2) 議決権の代理行使

ア 原則論

 ⇒ 自由(310条1項本文・325条)

*定款により議決権の代理行使を禁止することは認められない

∵ 株主に議決権行使の機会を保障する必要はない

イ 代理人資格を株主に限る定款の規定(定款自治の範囲か)

 合理的理由が存在しており,手段として相当な程度にとどまれば適法[2]

ウ 書面による議決権行使(書面投票制度)

(ア) 意義

 株主総会の招集者は,総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができる旨を定めることができる(298条1項3号・325条)

⇒ 株主の数が1000人以上の会社は,採用が強制(298条2項)

∵ 株主が地域的に分散し,自身が総会に出席できる株主の割合が低い

(イ) 定めることによる生じる効果

 ① 株主総会参考書類(301条1項・325条)交付義務

 ② 議決権行使書面交付義務

∵ 書面による議決権行使の制度は,株主自身が総会に出席することなく,議決権を行使できるための便宜を会社が図るだめの制度

 

(3) 議決権行使の禁止

ア 株式の帰属をめぐる争いの場合

 ⇒ 議決権行使禁止の仮処分の場合がある

イ 株式の存否をめぐる争いの場合

 ⇒ 株式の発行が無効であることを理由に仮処分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(4) 株主の権利の行使に関する利益供与禁止(総会屋への利益供与)

ア 要件(120条1項)

 ① 株主の権利の行使に関して―であること[3]

 ①’「特定の株主に対して無償で財産上の利益を供与した」(120条2項)

 ② 会社が会社又は子会社の計算において

 ③ 何人かに対して(株主に限定されない)

 ④ 財産上の利益を供与したこと

  *会社に損害が生じることは要件とされていない[4]

イ 効果

 関与した取締役は,供与した利益の価額に相当する額を支払う債務を連帯して会社に負う(120条4項)

ウ 制度趣旨

 直接には上場会社における「総会屋」への利益供与の根絶を図ることを目的としているが,法文上は株主の権利行使に関してであれば総会屋であるかにかかわらず利益供与を禁止する規定となっている。したがって,120条4項の制度趣旨は,株主の権利行使に影響を及ぼす趣旨で会社が利益供与を行うことは,健全な会社運営を害するから

⇒ 閉鎖型の会社にも適用の余地はある!!

エ 120条1項の射程距離

① 子会社・親会社間で親会社に有利な条件の取引がなされた場合⇒微妙[5]

② 株主間の利益供与⇒射程外

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 議事及び決議

1 議事

(1) 議事の対象範囲

 取締役会設置会社では,原則として総会の目的として招集通知に記載された議題についてのみ適法に決議できる(309条5項・325条)。ただし,例外あり

(2) 議長の選任

 ① 定款に定めがある場合

  *議長は普通決議により不信任し別の者を議長にしても適法

 ② 総会において選任

* 議長が特別利害関係人である場合であっても,当然に瑕疵を帯びるわけではない

⇒ 当該議長の具体的な議事運営が決議の方法を著しく不公正にするものである場合に決議取消事由(831条1項1号)

(3) 議事運営―説明義務

ア 制限規範

 説明義務(314条・325条・976条9号)

*説明義務が生じない例外

 ① 説明を求めたい事項が会議の目的たる事項に関しないこと

  *Ⅰ 議題と関連性があるか

   Ⅱ 関連性があっても議題に関して株主が判断をするのにそこまで詳しい説明が客観的に必要であるか[6] 

 ② 説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する

 ③ 正当な理由があるとして法務省令で定められている場合

イ 説明義務の制度趣旨

 説明義務は,議事に関する質疑応答の機会を保障するという会議体の一般原則を規定したものにすぎず,株主に投資判断資料を与えるなどの特別の情報開示請求権を付与したものではないと解される

 

 

 

 

 

 

2 決議

(1) 採決の方法(例えば,拍手など)

 採決方法については,定款に別段の定めがない場合,討議の過程を通じて議案に対する各株主の賛否の態度が明白となり,議案の成立に必要な議決権数を有する株主が決議に賛成することを明らかにしていれば足りると考えられる

⇒ 採決行為がなくても決議は成立する!!

∵ 法令に定めがない一方で会議体の一般原則に照らすと

 

(2) 決議要件

 ① 普通決議

 ② 特別決議

 ③ 特殊決議

 

第5 決議の瑕疵

1 立法政策

 瑕疵ある決議は,一定の瑕疵は決議取消訴訟の対象として形成訴訟によってのみ主張できることにした(831条・834条17号・835条ないし838条)。また,他の重大な瑕疵は形成判決を待たずに誰もが主張できるが,瑕疵を確認する判決には対世効を付与(830条・834条16号・835条ないし838条・846条)

∵ 決議が法令に違反する場合は一般原則によると当然無効となるが,会社は集団的法律関係であるから,画一的・明確な処理が求められるため,形成判決がない限り決議の効力を否定できず,判決の効果には対世効を認める立法政策を採用すべき(行政法の公定力と第三者効とほぼパラレル)

* 決議の瑕疵の攻撃の社会的実態

 判例は,株主総会決議取消しの訴えは,その訴えを提起した者の個人的な利益のためのみでなく,会社企業自体の利益のためとする。他方,株主総会決議取消しの訴えは,中小企業において経営支配から排除された少数株主から提起されるケースがほとんどとされる。この点,判例のように,共益権の倫理性を強調する見解に立つと,「全体の利益のために個人の株主の利益は軽視されるべき」との思考につながり,訴権濫用として却下するケースもある。しかしながら,少数株主は閉鎖企業である故に投下資本の回収もできず,苦境に陥っており話合いの契機として訴訟を提起していることが多い。したがって,弁護士としては,死に筋であっても裁判所に和解を勧めてもらえるように対処するべき

 

 

 

 

 

 

 

2 決議取消しの訴え

(1) 要件

ア 原告適格があること(831条1項・828条2項1号)

 ① 株主であること[7]

* 他の株主への招集通知の瑕疵など自己の利益が侵害されてない場合

∴ 原告適格はある(最判昭和42年9月28日民集21巻7号1970頁)

∵ この訴訟は法令・定款を遵守した会社運営を求める訴訟

 ② 取締役であること

 ③ 監査役であること

* 会社債権者は,決議取消事由を争う実質的利害がないので適格なし

* 提訴権者は内部者に限られる

イ 被告適格があること

 ① 被告を会社としていること

* 総会の取締役選任決議の取消しの訴えであっても,当該取締役に被告適格は認められず,共同訴訟参加(民訴52条)はできないが,共同訴訟的補助参加ができる(最判昭和45年1月22日民集24巻1号1頁)とするのが判例

ウ 出訴期間[8]

 決議の日から3ヶ月以内に提起(831条1項)

*期間内に提起された訴訟につき,期間経過後に新取消事由を追加主張の可否

∴ できない

∵ 831条の決議の効力は早期安定という制度趣旨

 

エ 決議取消事由があること

① 招集の手続・決議の方法の法令・定款違反又は著しい不公正(831条1項1号)

* 決議に関する手続上の瑕疵

招集の手続の法令違反

招集の手続の著しい不公正

決議の方法の法令違反

決議の方法の著しい不公正[9]

①取締役会決議に基づかず代表取締役が行った株主総会の招集

②招集通知漏れ

③招集通知期間の不足

④参考書類の記載不備

⑤定時総会における計算書類不備置

取締役会設置会社以外の会社において招集者が総会の議題を一部株主のみに隠して教えないなどが考えられるが,ほとんどこれにあたる事由はない

①説明義務違反

②議決権行使妨害

③定足数不足

④賛否認定誤り

⑤取締役会設置会社における招集通知に記載のない事項の決議

⑥監査役の監査を経ない計算書類の承認

①出席困難な時刻・場所への招集

②不公正な議事運営

② 決議の内容の定款違反(831条1項2号)

 例えば,定款所定の定員を超える取締役の選任

③ 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(831条1項3号)

 ⇒ 決議事項について特別利害関係を有する株主の利益相反的な議決権行使により不当な決議がなされた場合をいう

 * 著しく不当な決議

特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議

①A会社の合併の相手方会社Bが同時にAの大株主であり,Aの合併承認総会において議決権を行使しA側に著しく不利な合併条件を定める合併契約の承認決議を成立させた

②責任を追及されている取締役が議決権を行使し責任の一部免除決議を成立させた

 * 考慮要素

 議決権を行使した者のみが利益を得て他の株主が損害を被る内容の決議が成立する資本多数決の濫用の典型例との距離を考える

オ 訴えの利益があること

 原則⇒形成要件を満たす限り訴えの利益は認められる

 例外⇒決議後の事情の変化により形成判決をする実益がなくなる場合あり

*訴えの利益が消滅する場合の具体例

訴えの利益が消滅するケース

①会社の成立後における株式の発行に関する株主総会特別決議の取消しの訴えの係属中に株式の発行が行われてしまった場合(最判昭和37年1月19日民集16巻1号76頁)

②取締役役員選任の決議の取消しの訴えの係属中にその決議に基づき選任された役員がすべて任期満了により退任し,その後の総会決議により新役員に選任された場合

 ⇒ 『特段の事情』[10]のない限り,決議の取消しの訴えは実益を失う(最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁)

カ 訴訟選択(会社の組織に関する行為の無効の訴えとの関係)

*吸収説の場合

吸収合併の効力発生前

効力発生後

決議取消しの訴え

⇒ 決議取消しの訴えの提起後に合併の効力が生じた場合,原告は訴えの変更の手続により合併無効の訴えに変更できる!!

合併無効の訴え

 

○ 吸収説

∵ 総会決議の瑕疵は会社組織再編行為の無効の一事由にすぎず,合併の効力の発生により,決議取消しの訴えは合併無効の訴えに吸収される

⇒ ただし,遡及効のある救済が是非とも必要な場合は例外的に併存説[11]

 

(2) 効果

 決議取消し判決が確定すると,決議は遡及的に無効となる(遡及効)

 

(3) 既判力の主観的範囲

 原告が勝訴した場合は,判決は第三者に対しても効力あり(対世効838条)

 

(4) 裁量棄却(事情判決の法理)

ア 要件

 ① 瑕疵が招集手続または決議方法の法令・定款違反という手続上の瑕疵

 ② 違反する事実が重大でない

  *この要件は「適正な手続的運営の確保」を目的[12]

 ③ 決議に影響を及ぼさないもの

  *やり直しても同じ結果となるかの蓋然性判断

イ 効果

 違法事由があっても取消しの請求を棄却できる(831条1項2項)

ウ 制度趣旨

 手続的な瑕疵の場合,決議をやり直しても同じ結果が予想され,費用・労力がムダになるだけだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 決議無効確認の訴え

(1) 要件

ア 原告適格

 確認の利益が認められる者であれば第三者でもよい

イ 被告適格

 会社のみ(834条16号)

ウ 提訴期間

 なし

エ 無効事由

 株主総会の決議の内容が法令に違反する場合

*無効事由の具体例

欠格事由のある者を取締役・監査役に選任する決議(331条1項・335条1項)

違法な内容の計算書類の承認決議(438条2項)

株主平等原則に違反する決議(109条1項)

*取消しにしやすいので注意すべき

(2) 効果

 決議は当然に無効であり,誰から誰に対しても無効を主張できる(公定力はないということである)

(3) 既判力の主観的範囲

 原告勝訴の判決は対世効あり(830条2項・834条16号・838条)

 

4 決議不存在確認の訴え

(1) 要件(法定されていないので典型例を挙げる)

 ① 株主総会決議が存在しないのに決議があったかのような議事録が作成

 ② 一部の株主の『会合』が突然株主総会に変身して決議された場合

 ③ 平取締役が取締役会の決議なしに招集した場合

 ④ 招集通知漏れが激しい場合

 * 法的に総会決議と評価できるかがメルクマール

(2) 効果

 誰から誰に対してもいかなる方法でも主張できる

(3) 既判力の主観的範囲

 原告勝訴の判決には対世効(830条1項・834条16号・838条)

(4) 訴訟選択(決議取消しとの関係)

具体例 Y社は,①総会でα決議でA,B,Cを取締役に選任し,Aはその後の取締役会で代取となった。代取Aは,その後,任期満了となったが,②総会を招集しβ決議で重任となった。その後A招集の③総会でγ決議をした。Aは,④総会で任期満了により退任した。その後,①総会の招集通知が激しく漏れていたことが発覚した。

決議取消事由にとどまると

⇒Aは④総会で任期満了で退任しているので「訴えの利益」がなくなる。決議取消しの訴えは却下される

決議不存在事由になると

⇒α決議が不存在となると,その後連鎖的に取締役の地位が否定されるので,①から④の総会はすべて不存在となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三 取締役

第1 権限分配秩序

1 取締役会の設置

原則⇒定款自治

例外⇒①公開会社,②監査役会設置会社,③委員会設置会社は強制(327条1項・976条22号)

2 取締役会設置の効果

 株主総会の権限は限定され(295条2項),他方,取締役会の業務執行の監視のため原則監査役の選任が要求(327条2項)

3 分配秩序モデルと現実との落差

(1) 社会学的な考察[13]

○ 法の想定⇒大規模会社を典型とする

× 現実はワンマン社長も見栄で取締役会設置モデルを使う

⇒ 結果,名目取締役が登場しワンマン社長の思うがままなので取締役会も開催されず(3人いるのでケンカが起きる。そのうち,内紛に発展!!)

∴ 取締役会決議無効確認などの法的構成に仮託して内紛バトルが裁判所へ

(2) 視点

Ⅰ 取締役会決議の瑕疵の対内的・対外的効力をどう考えるか

Ⅱ 株主全員の同意による取締役会手続の省略はできるか

Ⅲ 法定権限の委任できるか

第2 取締役の選任・終任

1 取締役の資格

(1) 原則

 基本的には定款自治

(2) 選任条件に対する制約

 定款上取締役の資格を一定の者に限ることは,各会社の具体的事情に応じて不合理な内容でない限り許される

*ただし,定款による資格制限には,株主限定不可規制あり(331条2項)[14]

∵ 取締役に広く適材を求めることが公開会社制度の理念

⇒ 選任の条件についての定款自治にも限界があることを示す!!

(3) 被選任者に対する制約

⇒ 欠格事由の規律あり(331条1項2号ないし4号)

(4) 社外取締役

ア 要件

 Ⅰ 現在,その子会社の業務執行取締役などでなく

 Ⅱ 過去,その会社の業務執行取締役などになったことがないこと

イ 効果

取締役 ⇒ 会社に対する責任が軽減(427条1項) 

会社 ⇒ 特別取締役の決議に委ねることができる(362条4項1号・2号)

 

2 員数・任期

(1) 員数

 3人(331条4項)

*非取締役会設置会社は1人でもよい(326条1項・348条2項)

 

(2) 任期

ア 法定任期

 選任後2年の総会終結型のみ

イ 定款自治の制約

 短縮はできるが,伸長はできない(332条1項ただし書き)

ウ 剰余金の配当を株主総会ではなく取締役会で定める定款規定あり

 取締役の任期は1年の総会終結型のみ(459条1項)

 

3 選任方法

(1) 典型パターン

ア 決議要件

 普通決議(309条1項)

イ 定款自治の範囲

 定足数を議決権の3分の1未満とはできない(341条)

(2) 種類株主総会での選任パターン

ア 要件

 ① 譲渡制限会社であること

 ② 取締役の選任についての種類株式を発行

 ③ 種類株主総会の決議(普通決議,定足数は3分の1まで縮減可能)

(3) 就任の時期

 会社代表者が被選任者と任用契約を締結したとき(たいてい就任承諾時)

 

4 終任

(1) 終任事由

 ① 任期満了による終任

 ② 取締役の辞任

 ③ 解任

(2) 欠員が生じた場合

 ①と②の終任の場合のみ権利義務を承継(346条1項)

*解任の場合は権利義務を承継しない

⇒ 一時取締役を選任(346条2項3項・868条1項・870条2号)

 

5 職務執行停止・職務代行者

 

 

 

 

 

 

 

第3 取締役・取締役会の活動

1 取締役会の権限

(1) 業務執行の決定

⇒ 業務執行の決定の範囲は株主総会決議事項以外すべて

(2) 委任の可否

原則 ⇒ 法定事項は必ず法定の要件の具備必要

例外 ⇒ 法定事項及び定款事項以外は委任できる

2 取締役会決議の強制(委任禁止)

(1) 要件

 ① 重要な財産の処分及び譲受け

* 当該財産の価額,その会社の総資産の占める割合,当該財産の保有目的,処分行為の態様・会社における従来の取扱いなどの事情を総合的に考慮

 ② 多額の借財

* 当該借財の額,その会社の資産・経常利益に占める割合,借財の目的及び会社における従来の取扱いなどの事情を総合的に考慮して決すべき。借財には,保証予約,デリバティブ取引も射程距離

 ③ 内部統制システムの決議

(2) 効果

 取締役会決議が必要

 

3 業務執行の監督

 取締役会は,業務を執行する取締役の職務の執行を監督し(362条2項2号),不適任と認めた場合には解職すべき(362条2項3号・363条1項2号)

⇒ 取締役がどこまでの行為をすれば監督義務を履行したことになるか

 

4 取締役会の運営・決議

(1) 招集

ア 法定期間

 取締役会を招集するには,会日から1週間前に各取締役に対して招集通知を発しなければならない(368条1項)

イ 定款自治

 実務では3日に短縮する例あり

ウ 招集手続の違法

 ① 定例の取締役会は出席者全員の同意があるので招集手続を省略できる

 ② 定款で招集通知は会議の目的を記載した書面で行われるとされる場合に招集通知の記載のない事項を審議すること

 ∴ 適法

 ∵ 取締役会の制度趣旨

(2) 議事

 ① 代理出席(違法)

 ② テレビ通話方式(適法)

 ③ 会議電話による参加(適法)

(3) 決議

ア 決議要件

 過半数出席の過半数賛成

イ 特別の利害関係を有する取締役

 ⇒ 議決に加われない(369条2項)

∵① 決議の公正を期する必要

 ② 取締役は会社のために忠実に職務を執行する義務を負っていることの表れ(355条)

*典型例

譲渡制限株式の譲渡承認

競業取引・利益相反取引の承認(365条1項)

会社に対する責任の一部免除(426条1項)

監査役設置会社以外の会社における会社・取締役間の訴えの会社代表者の選任(364条)

代表取締役の解職決議(339条1項)[15]

ウ 決議の省略

(ア) 要件

① 定款の定めがあること

② 取締役の全員が書面による同意の意思表示をしたこと(370条)

* ただし,372条2項から3ヶ月に1回は現実に取締役会を招集する必要

(イ) 効果

 取締役会の決議があったものとみなされる

(4) 取締役会決議の瑕疵

ア 要件

 ① 確認の利益があること

 ② 瑕疵があること

*瑕疵の例

 Ⅰ 法令・定款違反

 Ⅱ 株主総会決議への違反

 Ⅲ 招集権者以外による招集

 Ⅳ 招集通知期間の不足

 Ⅴ 招集通知漏れ

 * 一部の取締役に対する招集通知漏れ

⇒ 当該取締役が出席しても,なお決議に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは,当該瑕疵は無効とならず(最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)

* なお決議に影響がないと認めるべき特段の事情

 ⅰ 通知を受けなかったのが名目取締役

 ⅱ すでに決議内容を了解していた

 ⅲ 対立関係が明白だが少数派であり多数派の意見は確定していた場合

 Ⅵ 監査役への不通知

 Ⅶ 定足数不足

 Ⅷ 不十分な審議

 Ⅸ 特別利害関係を有する取締役の参加による決議成立

イ 効果

 瑕疵の性質にかかわらずその決議は当然に無効

∵ 特別の訴えの制度はない

⇒ 取締役会決議無効確認の訴え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5 取締役会設置会社の代表取締役

(1) 選任・就任・終任

(2) 代表取締役の権限

ア 代表権の範囲

 代表取締役の代表権の範囲は,会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為に及ぶものと考えられる(349条4項)

⇒ これを制限しても善意の第三者に対抗できない(349条5項)

イ 専断的代表行為の有効性

 ① 取締役会決議を欠いた重要財産の処分[16]

  原則として,有効であるが相手方が決議を経ていないことを知り,または,知りうべきときは無効とする(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)[17][18]

 ② 募集株式の発行・社債の募集について株主総会・取締役会を欠いた場合

  ∴ 決議を欠いても無効事由とならない

  ∵ 取引の安全が強く要請される

 ③ 株主総会決議を要する対外的行為

  事柄の重要性から原則として無効と解すべき

 ④ 代表権限の濫用

  相手方が当該代表取締役の真意を知り又は知り得べかりしときは無効(最判昭和38年9月5日民集17巻8号909頁)

ウ 表見代表取締役

(ア) 要件

 ① 行為者が代表取締役以外の取締役であること

 ② 取締役に社長,副社長その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付したこと

(イ) 効果

 会社は,その者がした行為について,善意の第三者に対して責任を負わなければならない(354条)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 取締役と会社との関係

1 善管注意義務と忠実義務

(1) 取締役の善管注意義務

ア 要件

 株式会社とその取締役との委任関係(330条)

イ 効果

 善管注意義務を負う

ウ 善管注意義務の程度

 その地位・状況にある者に通常期待される程度

⇒ 専門的能力を買われて取締役に選任された者は,期待される水準は高い

*善管注意義務を問われやすい類型

取締役が何か積極的に行為をした結果損害が生じた場合

監督義務違反[19]を含む不作為の場合

経営判断原則があるので,帰責されにくい

経営判断原則は問題とならないので,帰責されやすい

エ 経営判断原則の審査対象[20]

⇒ 例えば,取締役による資産の廉価処分が善管注意義務違反になるかは,経営判断として許容される裁量の範囲にあるか否かにより特定される。

① 経営判断の前提のなる事実認定の過程(情報収集,分析)の誤りに起因する判断の不合理さの有無

② 事実認定について意思決定の推論過程及び内容の著しい不合理さの存否

 

* 親会社の取締役が経営不振に陥った子会社の再建を支援する場合,融資などの取引を行うとすれば,どのような場合に善管注意義務違反か

∴ 子会社を支援するかは経営判断

考慮要素

① 子会社の倒産から受けるリスクの回避の可能性

⇒ 子会社の倒産を免れることが,自己の会社の信用を維持して,その利益になるとの判断のもとに,金融支援に合理性を認める

② 再建か清算か

⇒ 再建型の支援を行う場合には,子会社が再建可能であることが必要

③ 選択された救済方法を実現するための手段の時期,規模

⇒ ①②を満たせば,取締役が自社の経営上の特段の負担にならない限度で

金融支援を行うことはできる

④ これ以外にⅠ融資の条件,Ⅱ内容,Ⅲ担保の有無,Ⅳ借主の財産,Ⅴ経営の状況,Ⅵ経済的社会的状況などの諸事情の総合判断

 

(2) 取締役の忠実義務

● 忠実義務とは,取締役が地位を利用し会社の犠牲において自己の利益を図ってはならない義務をいう

×① 日本はアメリカ法と異なり,取締役・会社間の利害対立がある場合とない場合を分け,取締役の責任の要件と効果を分ける立法政策を採ってない

 ② 会社との利害対立状況において,私利を図らない義務も善管注意義務の一部にすぎない

○ 善管注意義務を敷衍・明確にして,強行規定とさせる効果があるのみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 競業避止義務

(1) 要件(取締役会設置会社)

 ① 取締役が自己又は第三者のためであること

② 会社の事業の部類に属する取引をすること(競業)

  * 競業とは,会社が実際に行っている取引と目的物及び市場が競業する取引をいう

  * 競業という概念の限界をめぐって[21]

   ● 事業の部類に属する取引とは,会社の定款所定の事業目的に該当する取引をいう

   × 現在会社がまったく行われていない事業の取引に承認はいらない

   ● 事業の部類に属する取引とは,現在会社が行っている定款所定の事業目的をいう

   × 現在行っているもののみに限定するのは相当ではない

   ○ 会社が進出を企図し市場調査を進めていた地域における同一商品の販売は規制対象となると解すべき

* 会社がまだ現実に開業していない定款所定の目的事業を行った場合[22]

 

(2) 効果

 その取引について重要な事実を開示し,取締役会の承認が必要(365条1項)

(3) 承認の効果

 競業により損害が発生すれば当該競業行為に関し任務懈怠のある取締役は責任を免れないものと考えられる(423条1項)

*任務懈怠の認定について[23]

(4) 違反の効果

 その取引によって取締役または第三者が得た利益の額を会社に生じた損害額と推定⇒損害賠償(423条1項2項)

(5) 制度趣旨

 取締役の競業は会社のノウハウ,顧客情報などを奪う形で会社の利益を害する危険が高いので,予防的・形式的に規制を加えたもの[24]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(6) 競業避止義務の射程距離の限界

* 実際の競業取引と法令規制

①株式会社法学館⇒②競業取引のため⇒③Xが法学館社長⇒④Xが某Lを退社

設立+開業準備  引き抜き行為  に就任。Y競業[25]  直後某I塾始める

            

 

 

 

 

 

356条1項1号の競業にはあたらない!!     基本的に不法行為!

取締役在任中は競業行為をしていないから

⇒忠実義務違反となるだけで,423条2項の

推定を受けることはできない!

 

ア 『会社の機会の奪取』

(ア) 定義

 会社の機会の奪取とは,取締役がその職務上知り得た外部情報を会社に無断で自己の事業に用いてしまう場合などをいう

(イ) 競業避止義務との関係

 射程外

(ウ) 事案の処理と問題点

 423条の任務懈怠の認定をどういうスタンスでするかという点に尽きる[26]

イ 退任予定の取締役による従業員の引抜き

(ア) 定義

 退任予定の取締役による従業員の引抜きとは,退任後に会社と同一又は類似の事業を開始することを企図する取締役が,在任中に部下に対して退職して自己の事業に参加するよう勧誘すること

(イ) 競業避止義務との関係

 事業をするのは退職後なので射程外

(ウ) 事案の処理の問題点

 423条の任務懈怠の認定をどのようにするかという点に尽きる

● 在任中に部下に対して退職勧誘をすれば当然に義務違反

×① 会社ではなくワンマン社長に忠実を誓わせる結果となる

 ② 自ら教育をした部下を連れて行きたいと思うのは商慣習では当たり前

 ③ 部下は会社の財産と割り切れば財産権侵害となるが人格を無視している

 ④ 独立をめぐる紛争の実態は共同経営者間の内輪もめに基づく人材確保合戦であることが少なくない(共同経営を解消するのに忠実義務を持ち出すのはおかしい)

○ 取締役と当該部下との従来の関係など諸般の事情を考慮のうえ,不当な態様のもののみが任務懈怠となる[27]

 

 

 

 

 

 

 

3 利益相反取引

(1) 要件

ア 直接取引

(ア) 要件

 ① 取締役が自己または第三者の計算を図る目的があること

 ② 取締役が直接会社と取引をしようとするとき

* 形式的にみて取引の当事者が会社と取締役である場合のみを対象

(イ) 典型例

① 取締役Xが自己所有土地を自分が取締役を務めるP社に譲渡する場合

② P社の取締役XがQ社の代表取締役を兼ねているという場合において,P社の代表取締役YとQ社代取Xとの取引も,Xが第三者であるQ社のために会社(P社)と取引をしている[28]

③ ②のケースでQ社の代取がZである場合[29]

イ 間接取引

(ア) 要件

 ① 会社と取締役以外の者との間の取引であること

② 会社・取締役間の利害が相反する取引であること

 * 外形的・客観的に会社の犠牲において取締役に利益が生ずる形の行為

 * 実質的にみて,取締役が会社の利益の犠牲の下に自己の利益を図る危険性の高い取引について規制の対象とする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(イ) 間接取引規制の射程距離

事例 P社の代表取締役であるXは,代表して,自己が代表取締役を務めるQ社を主債務者とする保証契約をJ社と締結した事案は規制対象となる。では,P社を他の取締役であるYが代表して保証しても規制対象となるかは問題となる(が私見は肯定してもよいと思う)[30]

(2) 効果

 ① 重要な事実を開示すること

② 取締役会の承認が必要であること(356条1項)

(3) 承認の効果

 ① 承認を受けた取締役の利益相反取引は有効

 ② 自己契約又は双方代理になる場合でも108条の適用なし

 ③ 承認を受けてもその取引について任務懈怠のある取締役は会社に対して損害賠償責任を負う(423条1項3項)

(4) 違反の効果

ア 直接取引の場合

 承認を受けない取引は,会社は取締役又は取締役が代理した直接取引の相手方には,常に取引の無効を主張できる

イ 間接取引の場合(間接取引の相手方という第三者との関係)

会社が第三者に対して無効を主張するには,①当該取引が利益相反取引に該当すること,②株主総会・取締役会の承認を受けていないこと―を第三者が知っていることを会社が主張・立証する必要がある(最判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁)

∵ 取引安全の見地

ウ 無効主張適格

 取締役の側から取引の無効を主張することは許されない(最判昭和48年12月11日民集27巻11号1529頁)

∵ 会社の利益保護という規定の目的

(5) 制度趣旨

 取締役が会社の利益の犠牲において自己又は第三者の利益を図ることを防止する趣旨

⇒ 危険性に鑑み一定の類型を予防的・形式的に規律したもので,すべてフォローしきれないのは競業避止義務と同じ

 

(6) 利益相反取引の射程距離

事例 取締役に対して事実上の影響力を有する支配株主と会社との取引(企業グループ内の製品の売買など)

ア 利益相反取引との関係

 射程外[31]

イ 問題意識

 取締役の利益相反取引と同様に会社の利益が害される危険がある

ウ 責任追及の相手方

(ア) Q社の取締役

 423条1項

(イ) P社(親会社)

⇒ 請求原因を基礎付けることができるか

 ① 利益供与禁止規定違反として支配株主は返還義務(120条3項)

 ② 取締役の会社に対する債務不履行に加功したことにより支配株主は債権侵害の不法行為責任を負う

 ③ 会社の事実上の取締役として支配株主は損害賠償責任を負う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4 取締役の報酬その他の職務執行の対価である財産上の利益

視点

  閉鎖型タイプでは報酬は剰余金の配当に代わる機能

 ⇒ 報酬の支払いを確保するための方法を検討しておく必要も!!

(1) 報酬請求権という効果発生のための要件[32]

 ① 定款・総会決議により報酬額が決定されていること(361条1項)

  ∵ 高額の報酬が株主の利益を害する危険を排除することにあるので,定款・株主総会決議により個々の取締役ごとに各事項を定めることまでは必要ない

 ② 定款・総会決議により総額のみを定めた場合は具体的配分を決める取締役の協議があったこと(一任された取締役会がさらに代取に委任すること⇒ 取締役の報酬の個別金額の決定の代取への再委任も可能)

 

*要件事実論(取締役の報酬請求訴訟の請求原因)

 

攻撃防御の種類

要件事実

委任契約の成立

Q社株主総会でXを取締役として選任する決議をして,原告が就任を承諾

Xの報酬請求権の発生

① 定款で定められている

①’総会で報酬金額が決議されたこと

①’

Ⅰ 総会で取締役の報酬総額が定められたこと

Ⅱ 具体的配分を取締役会決定に一任する総会決議があったこと

Ⅲ 取締役会決議で原告の報酬金額が決議されたこと

Ⅲ’取締役会決議によって,具体的配分を代取に再委任し,代表取締役が原告の報酬金額を決定したこと

報酬支払期限の経過

 

 

* 違法な取締役報酬の支払いを事後的な総会決議で治癒できるか[33]

* 使用人兼取締役が使用人として受ける給与の金額には361条の適用あるか[34]

 

 

 

 

 

 

 

 

* 報酬額の決定について取締役会から代取への再委任の可否[35]

      

単なる計算の再委任          裁量で決定金額を再委任

 ∴ 適法である              ∴ 争いがある!!

 ∵ 単なる機械的な計算の再委任

 

 

*取締役会に金額決定を一任した株主総会の決議の趣旨,目的を解釈!

 趣旨 ①再委任を許さない趣旨        再委任は許されない!!

    ②再委任を許容する趣旨

    Ⅰ一定基準に従うと         再委任は許される!!

いう枠がある場合

    Ⅱない場合             再委任は許されない!!

 

 

(2) 退職慰労金請求権という効果発生のための要件

 ① 定款・株主総会決議があること

  * 総額を明示しない決議方法の有効要件

   Ⅰ 無条件に取締役会に決定を一任するものではないこと

Ⅱ 支給基準を株主が推知しうる状況であること

 ⇒ 基準を株主に説明する体制が必要!!(規則82条2項参照)

Ⅲ 当該支給基準に従い決定すべきことを委任する趣旨であること

 ② 取締役会決議により額を定めたこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* 要件事実論

 

攻撃防御の種類

要件事実

委任契約の成立

Qの株主総会が原告Xを取締役に選任する決議をしてXが就任承諾

退任の事実

Xが取締役を退任したこと

退職慰労金請求権発生

① 定款に定められていること

①’総会でXに対する退職慰労金額が決議されていること

①’

Ⅰ 総会で退職慰労金額の決定を取締役会決定に一任する決議が行われたこと

Ⅱ 取締役会でXの退職慰労金額が決定されたこと

Ⅱ’取締役会の決定により,さらに再委任された代取がXに対する退職慰労金額を決定したこと

 

* 株主総会は退職慰労金の決定を取締役会に一任できるか

∴ 株主総会において明示的若しくは黙示的に,退職慰労金支給に関する基準を示し,具体的な金額,支払期日,支払い方法などは,同基準によって定めるべきであり,その決定を取締役会に任せることは許される

考慮要素

① 退任取締役の退職慰労金支給について,一定基準が慣行・内規で確立

 * 内規は,取締役会で決議されたもので足りる

 * 支給基準は,お手盛りを防止できるだけに具体的,すなわち,明確性及び裁量の限度を有した合理的基準である必要

 * 実務では,報酬月額に取締役在任年数及び各役位ごとの一定の係数を乗じた金額の合計に,3割以内程度の功労金を加算する余地を認める内容の内規が通常

② 基準の推知可能性

* 会社法施行規則82条2項は,依拠する基準の内容を株主総会参考書類に記載する措置を採ることにより基準の推知可能性は満たされる

 * 判例は,株主が取締役会の議事録を閲覧することにより,支給基準に関する内規の存在を知ることができ,かつ,総会で株主から質問が出れば支給基準を説明できる体制があった場合は,基準の推知可能性を認める傾向

 * 株主総会決議において,明示又は黙示に支給に関する基準を示し,当該退職慰労金の金額などを同基準によって定めることを取締役会に任せたことが必要

 * 判例は黙示による取締役会への一任も認めているが,基準の推知可能性が欠ける可能性もあるので,明示の一任決議がなされるべき

(3) 報酬額の減額という効果発生のための要件

 当該取締役の同意があること

* ①当該取締役の職務内容に著しい変更があったこと,②株主総会特別決議があったこと―を主張立証しても,報酬額が減額されたとの効果を生じないので,抗弁として成り立たず主張自体失当となる(最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁)[36]

 

 

 

 

(4) 退職慰労金の不支給

事例 中小企業P社でワンマン社長Y(一人会社)と専務のXとの間に内紛が生じ,Xは解任されたうえに退職慰労金が支給されない(なお,定款には,退職慰労金は株主総会の決議に基づいて支払うものとするとある)

ア 原則的処理

請求原因のうち,「株主総会決議があったこと」という要件の具備がないので,請求を基礎付けることができず,主張自体失当となるのが原則

イ 下級審のプラクティス[37]

 Ⅰ 要件①’を設定するプラクティス

ⅰ 「総株主の黙示の同意」をもって要件①に代えてしまう

ⅱ 信義則に基づいて要件①をデリートしてしまう

 Ⅱ 別の請求を模索するプラクティス

ⅰ 退任取締役は従業員としての地位を有していたと認定する

   ⇒ 従業員の場合は就業規則の定めがあれば決議は要件とならないから

  ⅱ 代取とXとの間に「決議を成立させる約束」があったとして415条

  ⅲ 決議を成立させないのが709条

* 退任取締役Xは,Q会社に対して,退職慰労金支給の株主総会決議をするよう請求をすることができるか[38]

* 株主総会からの一任にもかかわらず,退職慰労金の決定を取締役会が行わない場合はどうか(具体的請求権が発生しているか)[39]

* 株主総会において,退職慰労金額が決定した後に,退任取締役の不祥事が発覚したため,Q社としては退職慰労金の支払いを拒むことができるか[40]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(5) 報酬のデザイニング

ア 新株予約権の付与

事例 会社が取締役Xに対し職務執行の対価として新株予約権を発行する場合において,Xは「100万円相当の金銭でない報酬を受けることを認められた取締役(361条1項3号)」である。この場合に,会社が公正な評価額100万円の新株予約権を発行する場合

(ア) 要件

 ① 新株予約権の発行規制との関係

  取締役会の決議があること(240条1項)

 ② 報酬規制(361条1項1号3号)との関係

  Ⅰ 株主総会の普通決議があること

  Ⅱ 報酬の規制として権利の具体的に内容が相当である理由を説明していること(361条2項)

 * 新株予約権の公正な評価額がXの場合,100万円を超えなければ有利発行規制を受けることはない

(イ) 効果

 取締役は新株予約権者(243条,245条1項1号) 

(ウ) 制度趣旨

 インセンティブ報酬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5 取締役の責任

1 会社に対する責任・株主代表訴訟

*提訴前のディスカバリー

 ① 単独株主権である会社の取締役会議事録の閲覧請求(371条2項3項)

 ② 少数株主権である会社の会計帳簿閲覧請求権(433条)

(1) 請求原因の要件

ア 訴訟要件

 ① 会社法上の取締役の責任の追及のためであること

 ② 公開会社では6ヶ月前から引き続き株式を保有していること

 ③ 提訴請求から60日経過したこと(847条1項3項)

イ 実体要件

 ① 任務懈怠があること

 ①’利益相反取引によって会社に損害が生じたこと(423条3項)

 ①’株主の権利の行使に関し会社の計算において財産上の利益を供与したこと(120条4項)

 ①’剰余金の配当について分配可能額を超える金銭の交付があったこと(462条1項)

* 代表訴訟(847条ないし853条)

 代表訴訟は,第三者の訴訟担当である

∵ 第三者である株主が当事者適格を持ち,受けた判決の効力は権利主体である会社に及ぶ

(2) 抗弁の要件

ア 全部に対する抗弁

 ① 総株主の同意があったこと(120条5項・424条・462条3項ただし書)

 ② 消滅時効の完成(民法167条1項)

イ 一部に対する抗弁

 ① 取締役は職務を行うことについて善意・無重過失であったこと

 ② 株主総会の特別決議(425条1項)

株主総会の特別決議があること(309条2項8号)

 ②’定款の定めに基づく取締役会の決定(426条1項)

  Ⅰ 取締役が2人以上おり,監査役設置会社であること

  Ⅱ 定款の定めがあること

  Ⅲ 取締役会決議があること

 ②’責任限定契約―社外取締役

  Ⅰ 定款の定めがあること

  Ⅱ 会社と社外取締役とが契約を締結すること

  * 事後的に取締役会決議が行われないということはない

* 取締役Xは自民党幹事長に賄賂を渡して法令違反を侵したが,その結果受注を確保することに成功し,賄賂供与額を上回る利益を得た場合に損益相殺の主張をできるか[41]

 

*要件事実論(請求原因)

① Yが取締役としてⅠ法令,Ⅱ定款違反の行為をしたこと

② 会社に発生した損害及びその数額

③ ①及び②の因果関係

* 法令違反の要件事実

①競業避止義務違反

②経営判断の違法

③監視義務違反

③監督義務違反

①Xが取締役として競業取引をしたこと

②損害及び数額

③因果関係

①Xが取締役として一定の経営事項について判断決定をしたこと

②①につき裁量を逸脱したことを評価根拠事実

③損害及び数額

④因果関係

①取締役Zが違法行為で会社に損害

②Xは取締役として①について監視義務違反をした評価根拠事実

③損害及び数額

④因果関係

①従業員が不正行為

②Xは取締役として従業員の監督を怠ったことの評価根拠事実

③損害及び数額

④因果関係

 

(3) 効果

 連帯責任(120条4項・430条・462条1項・464条1項・465条1項)

*減責可能性[42]

 

 

 

 

(4) 訴訟の当事者など

ア 訴訟参加(民訴52条1項)

 ① 会社が提起した取締役の責任を追及する訴え

  ⇒ 株主が共同参加できる

 ② 株主が提起した取締役の責任を追及する訴え

  ⇒ 会社又は他の株主

イ 補助参加(民訴42条)

 ① 取締役に責任がないと考える会社

  ⇒ 補助参加には,監査役の同意(849条2項1号)[43]

(5) 判決の効果

 代表訴訟の判決の効果は,勝訴・敗訴のいずれでも会社に及ぶ(民訴115条1項2号)

(6) 再審の訴え

ア 要件

 ① 取締役の責任を追及する訴えであること

 ② 原告と被告取締役が共謀して訴訟の目的である会社の権利を害する目的をもって裁判所に判決をさせた場合

 ③ 共謀当事者ではない会社又は株主であること

イ 効果

 再審の訴えをもって不服を申し立てることができる(853条1項)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 第三者に対する責任(429条)

(1) 要件

ア 悪意・重過失による任務懈怠があること

イ 任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係があること

(ア) 直接損害と間接損害という概念について思うところ[44]

(イ) 相当因果関係が認められる直接損害

 直接損害とは,取締役の悪意・重過失により,会社に損害がなく,直接に第三者が損害を被る場合をいう

典型例 P社が倒産に瀕した時期に取締役Yが返済の見込みのない金銭借入れ,代金支払の見込みがない商品購入を行ったことにより契約相手方である第三者(契約の相手方である売主)Xが被る損害[45]

(ウ) 相当因果関係が認められる間接損害

 間接損害とは,取締役の悪意・重過失による任務懈怠から会社が損害を被り,その結果,第三者に損害が生じる場合をいう

典型例 取締役の放漫経営や利益相反取引により会社が倒産した場合に会社の一般債権者が被る損害[46]

(エ) 相当因果関係が認められない間接損害

⇒ 株主の被る間接損害の救済は429条否定[47]

∵① 株主の被る間接損害は,会社に損害が生じた結果生じる拡大損害である

 ② 代表訴訟という別の制度で目的を達成することができる

ウ 取締役であること

(ア) 原則的処理

 ① 株主総会での選任決議があったこと

 ② 就任承諾をしていること

(イ) 例外的処理―名目取締役

Ⅰ 論理的帰結

要件①,②はいずれも満たす

⇒ 429条の責任を負って当たり前!!

Ⅱ 下級審のプラクティス

従来 会社法制定前は,小規模なものも含め株式会社すべての3人以上の取締役を要求しているという法制が名目取締役を生んでいるという認識があった。そこで,下級審は監督義務を尽くしてもマンマンの暴走を止めるのは不可能ということで任務懈怠と第三者の損害との因果関係を否定したり,報酬をもらっていない以上重過失を基礎付ける基本的な注意義務の中に監視義務が含まれないなど

新法 新法下では機関構成の自由度が増大しているので名目取締役の監視義務については,再び厳しい判断がされるとする見解もある(江頭462)[48]

 

* 責任否定の論理

① 監視義務違反がない

⇒ 監視が不可能として作為義務を否定する方向

② 重過失がない

⇒ 著しい作為義務違反としての重過失の存在の否定

③ 相当因果関係がない

⇒ 条件関係を否定する要素

④ 名目的取締役であるが故に責任が限定(学説)

 

 

 

 

 

 

 

*監視義務発生の前提となる事実についてのまとめ 

前提事実

弁護士としての主張

裁判官の評価

①職務免除の特約

 

特約自体が機関の権限分配の強行規定に反し無効

②無報酬・過小報酬

 

名目性を基礎付けるが④以外責任否定に結びつかない

③就任期間の長短

短ければ監視の前提となる予見可能性を欠く

 

④取締役会不開催

事実上の影響力の欠如

監視義務が強いことの根拠

⑤他の仕事の兼業 

 

むしろ,任務懈怠肯定事情

⑥遠隔地居住 

 

⑤と同様

⑦病気,老齢 

就任後の一時的な病気は任務懈怠否定事情

⑤と同様

⑧専門的知識欠如 

 

当然備えるべき知識が欠落していた場合は責任否定されない

⑨影響力の欠如

条件関係を否定する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ウ) 事実上の取締役

Ⅰ 論理的帰結

 要件①,②は満たさない

Ⅱ 事実上の取締役の法理[49]

「事実上取締役として会社を主宰している」ことが要件①’②’となる

* 会社の業務運営,執行について取締役に匹敵する権限を有し,これに準ずる活動をしている必要

(エ) 登記簿上の取締役

Ⅰ 論理的帰結

 要件①,②は満たさない

Ⅱ 判例法理

ⅰ 積極態様型

判例(最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁)は,「取締役として登記されることを承諾し,不実の登記の出現に加功した」ことを要件①’②’

∵ 上記の者は会社法908条2項の類推適用により取締役でないことを第三者に対抗できず,したがって,会社法429条1項の責任を免れない

ⅱ 消極態様型(辞任登記未了の残存取締役)

 判例(最判昭和62年4月16日判時1248号127頁)は,「辞任後もなお積極的に取締役として対外的・内部的な行為をあえてしたが,または不実の登記を残存させることについて登記申請者に明示的な承諾を与えていた場合」に要件①’②’を認める

 

*要件事実論(請求原因)

① Yについて,取締役として会社に対する任務懈怠があった

② Yは任務懈怠について悪意重過失ある

③ ①及び②の因果関係

 

 

 

(2) 効果

 当該取締役は,連帯して,第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(429条1項・430条)

(3) 制度趣旨

 会社は,経済社会において重要な地位を占めるので取締役の職務も重要である。そこで,第三者の保護の立場から,取締役が悪意・重過失による会社に対する任務を懈怠し第三者に損害を生じさせた場合は,任務懈怠行為と第三者の損害との間に因果関係がある限り,損害賠償責任を負う(最判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁)

 

3 違法行為の差止請求権

(1) 要件

ア 訴訟要件

 ① 6ヶ月前から引き続き株式を有する株主であること(360条1項)

 ② 被告は取締役であること(会社に被告適格はない)

イ 実体要件

 ① 取締役が法令・定款に違反する行為をしていること

 ①’法令・定款に違反する行為をするおそれがあること

 ② その行為において会社に回復することができない損害を生じるおそれがあること(監査役設置会社・360条3項)

(2) 効果

 株主は会社のためにその行為の差止を請求することができる(360条1項)

⇒ 会社のために単独株主が行為をする仕組みは代表訴訟に共通

* 差止請求権は通常,仮処分により行使される

*具体例

招集手続に重大な瑕疵のある株主総会開催の差止め

善管注意義務に違反する重要な業務執行行為の差止め

株主総会決議を経ない自己株式の取得・事業の重要な一部の譲渡の差止め

手続に瑕疵のある社債発行の差止め

(3) 仮処分違反の効果

 仮処分の効果の射程は,「取締役に会社に対する不作為義務を課す」という点にとどまるので,仮処分違反の代表行為の効果には影響を与えない

 

 

 

 

 

 

 

 

第四 監査役

第1 意義

1 原則

 取締役会設置会社 ⇒ 監査役設置義務あり(327条2項)

∵ 取締役会設置会社は,業務執行の決定を取締役会が行うので株主総会の権限が制約されている。そこで,監査役は,株主に代わる取締役の監視機関

2 例外

 譲渡制限会社 ⇒

① 監査役の権限を会計監査に限定することもできる(389条1項)

② 会計参与を置くことにより監査役を置かないこと(327条2項ただし書き)もできる

∵ 譲渡制限会社では株主の異動が稀であり,株主が直接に取締役の業務執行を密接かつ継続的に監視することが可能なので,株主に代わる取締役の監視機関を置く必要性に乏しい

 

第2 監査役の選任・終任

1 兼任の禁止(335条2項)

∵ 監査する者と監査される者が同一では監査の実が上がらないから

(1) 顧問弁護士などの監査役資格

 335条2項の射程距離は,弁護士資格を有する監査役が特定の訴訟事件について会社から委任を受けて訴訟代理人になることを禁止するものではない

⇒ 顧問弁護士としての訴訟代理が「業務執行機関に対して継続的従属性を有するか」により実質的に判断すべき

(2) 横滑り監査役

 それまで取締役であった者が監査役となると,自己が取締役であった期間について監査する「自己監査」の事態を生じるので335条2項の趣旨に反するかが問題となる。これは程度問題であり,その期間の長短により判断は変わってくるものと思われる(江頭471)

2 社外監査役

 監査役会設置会社では,監査役の半数以上は社外監査役!!

*社外監査役とは,過去にその会社または子会社の取締役・会計参与・執行役・使用人となった者がない者(2条16号)をいう

3 員数・任期

(1) 員数

 監査役会設置会社⇒3名以上

 それ以外の監査役設置会社⇒1人でもよい

(2) 任期

 選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(336条1項)

*任期を短縮することはできない(332条1項但書対比)

4 選任方法

(1) 一般論

 *取締役との違いは累積投票の制度がないことだけ

(2) 監査役の独立性保持のための権限

 ① 監査役は,取締役が監査役選任議案を株主総会に提出する前にその提出に同意するかの権限を有する(343条1項3項)

 ⇒ 拒否権を有する!!

 ∵ 監査役の地位の強化

 ② 監査役は,取締役に対して監査役の選任を株主総会の目的とするよう請求することができる(343条2項前段)[50]

 ∵ 監査役は拒否権だけではなく積極的イニシアティブをとれる

 ③ 株主総会における意見陳述権(345条3項1項)

 ∵ 監査役に株主総会における意見陳述権を保障することにより監査役の選任議案に関する取締役会の決定に監査役の意向が反映されやすくすることを期待

5 終任・職務執行停止

 * 解任は取締役と異なり特別決議(343条4項・309条2項7号・324条2項5号)

 

第3 監査役の活動

1 職務

 ⇒ 取締役の職務執行を監査すること(381条)

 * 譲渡制限会社では,監査役の監査の範囲を会計監査に限定可能(389条1項)

2 権限

(1) 監査権限の範囲

 監査役設置会社の監査役の監査の範囲は,原則として業務執行の適法性(法令・定款違反)に限られる。したがって,経営判断については,著しく不当な事項を指摘することできるにとどまる(384条)

 ⇒ 監査役の監査についても,業務執行の不当性が一定限度を超えると善良注意義務違反で違法になるから,不当性に目を向けるのが監査の出発点

 * 監査役が違反の有無を監査すべき法令には,株主・会社債権者の利益保護を目的とする具体的規定だけではなく,取締役の善管注意義務・忠実義務違反など一般的な規定まで含まれる(330条・355条)

 

 

(2) 具体的な調査権限

ア 監査するために資料を収集するプロセス

 ① 取締役などに対して事業の報告請求及び業務財産調査権限(381条2項・976条5号)

 ② 取締役に課された「会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見した時」の監査役に報告する義務(357条1項)

 ③ 「必要があるとき」は子会社に対して事業の報告を求め調査する権限(381条3項・976条5号)

* 子会社の親会社との非通例取引

 ⇒ 子会社監査役にとっては親会社に報告を求め調査するのが有益であるが,調査権は認められていない!!

 

イ 違法状態を発見した場合にそれを是正するプロセス

 ① 取締役会に報告し(382条)するために取締役会の招集可能

 ② 取締役の行為の差止めを裁判所に請求(385条1項)

 ③ 会社が取締役に対して訴えを提起する場合の代表(386条1項)

 ④ 会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条2項)及び株主総会決議取消しの訴え(831条1項)の原告適格あり

 ⑤ 株主総会に対する報告権限(381条1項・436条1個負う・437条・442条)

 

ウ 免責などの監視

⇒ 監査役の同意権限

 ① 取締役の会社に対する責任を一部免除する議案を株主総会に提出する場合(425条3項1号)

 ② 取締役会の決定により,取締役の会社に対する責任の一部が免除できる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合(426条2項)

 ③ ②の定款に基づく責任免除について取締役の同意を得る場合および責任免除議案を取締役会に提出する場合(426条2項)

 ④ 株主代表訴訟について会社が取締役側に補助参加する申出をなす場合(849条2項1号)

 

(3) 独立性を保障する制度

 監査費用

⇒ 会社は,その費用が監査役の職務の執行に必要でないことを証明しない限り拒むことができない(388条)

∵ 費用の必要性を監査役が証明しなければならないとすると,費用面から十分な監査が妨げられるおそれがあるので証明責任を転換することにより監査の充実を図ろうとするもの

 

3 監査役会

⇒ 監査役会設置会社では,全員で監査役会を組織する(390条1項)

(1) 監査役会の権限

 監査役会は,その決定をもって,監査の方針,会社の業務・財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項を定めることができる(390条2項3号)

 ⇒ 各監査役の権限の行使を妨げるものではないので,個々の監査役が独自に取締役の責任追及訴訟の提起を阻害されることはない

(2) 制度趣旨

 監査役会制度の下での監査役の独任制は維持されているところ,監査役会の機能は,各監査役の役割分担を容易にし,かつ,情報の共有を可能にすることにより,組織的・効率的監査を可能にする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 監査役と会社との関係

1 善管注意義務

 監査役は,職務遂行について善管注意義務を負う

∵ 330条,民法644条

* 監査役は業務執行を行わないので利益相反取引など会社との利害対立に関する規定はない

 ⇒ 監査役には忠実義務がないということを意味せず,単に,利益相反取引のような規定で,予防的・形式的な規定により予め防止するほどの必要性はないという意味にすぎない(監査役が職務上知りえた会社の営業秘密を利用して私利を図るなどの行為により会社に現実に損害を生じさせた場合は,善管注意義務違反となる)

2 監査役の報酬

(1) 株主総会決議(387条1項)

∵ 監査役の場合の趣旨は,適正な報酬を確保しその独立性を保障すること(お手盛りの防止ではない)

* 株主総会において取締役の報酬と一括して決議することできない(387条3項)

(2) 具体的な分配

ア 報酬について

 取締役に配分の決定を一任することはできない

⇒ 定められた総額の範囲内で監査役の協議により配分を決める(387条1項)

*特定の監査役への取締役に対する配分の一任や原案を示すことは許される(江頭489)

イ 退職慰労金について

 株主総会で具体的金額・支給期日・支給方法の決定を一任する決議

⇒ 監査役の協議に一任する

ウ ストック・オプションなど

 職務内容からして不合理であるが,ベンチャー企業において人材を確保するために認められる場合あり(江頭489)

 

第5 監査役の責任

1 会社に対する責任

(1) 任務懈怠の推定なし

 監査役会設置会社では,監査役会の決議に参加した監査役で議事録に異議をとどめないものは決議に賛成したと推定(393条4項)

⇒ 監査役会の決議に賛成しても,任務懈怠は推定されない(120条4項・433条3項3号・462条1項・465条1項)ので個々に立証が必要

(2) 免除

ア 原則

 総株主の同意(424条)

イ 例外

(ア) 責任の一部免除

 425条・426条

(イ) 社外監査役

 定款の定めにより責任限定契約ができる(427条)

(3) 責任の追及方法

 会社が監査役の責任を追及する場合は,代表と知りまり役が会社を代表する(349条4項)。また,代表訴訟の対象(847条ないし853条)

2 第三者に対する責任

* 429条1項・430条は中小企業で問題になるところ,中小企業の監査役は権限が会計監査に限られているのでこの責任はあまり認められない

* 問題となるのは監査報告の虚偽記載の責任(429条2項3号・430条)



[1] この点は議題提案権と議案提案権の異なるところと考えられる。たしかに,議案提案権が無視された場合,当該議題についての決議に瑕疵がったと評価しやすい。また,瑕疵があると把握できる決議が存在しやすいので攻撃の目標としやすい。こり対して,議題が無視されてしまうと論理的には,瑕疵のある決議が存在しないということになるから,攻撃の目標が存在しないということになると考えられる。このような視座に照らして考えると,取消事由該当性の有無の違いが分かりやすい。

[2] この点について思うところを補足的に述べておきたい。まず,当該定款規定について,定款が会社法の強行規定に違反していれば当然無効と解される。この点,310条は,株主の議決権行使の機会の拡大を趣旨としているから,全面的に禁止することはできないとする強行規定性を有するのではないかと思われる。もっとも,そのように解したからといって,定款の規定は「代理人資格」を限定しているにすぎない。そうすると,「代理人により議決権を行使できる」という命題を否定するものではないから,310条に反するとすることはできない。もっとも,議決権は,株主に与えられた最も基本的な権利であるから,これに対して,制約を加えるには,合理的な理由があり,手段として相当であることが必要であると解される。このような基本的視座に立って,総会屋による混乱を防止するという点は合理的であり,かかる目的と手段との間に合理的関連性のある株主資格の限定をしていると評価することができるのであれば,公序良俗に反するということにもならないと解する。この点,江頭314は「代理人が非株主であるという理由で議決権代理行使が拒まれるとその株主の総会参与権が事実上奪われることになる場合」は当該定款規定の効力は及ばないと解すべきとしている。このような場合は,手段が量的に過剰であり,目的と手段との間が合理的に関連しないとする趣旨と解することができる。このような場合にどのような視座に立って判断するべきかは難しいところであるが,基本的には,総会屋による撹乱防止という目的との関係で手段が過剰といえないかにより判断するべきと考えるのが一つであろう。このような考え方からすれば,「特段の事情がないのに株主が弁護士を代理人とする場合」も量的に過剰と考えることもできるであろう。

[3] 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権などの株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を会社が第三者に供与する行為は,「株主の権利の行使」に関しなされたものとして利益供与に該当するとするのが判例(最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁)。

[4] したがって,対価は合理的であっても,総会屋の関係する企業に優先的に発注する行為は,「財産上の利益を供与したこと」にあたるものと考えられる。

[5] この点,「子会社の取締役の任免に関する議決権行使」に関して,親会社に「非通例」な有利な条件を付されたものである場合は利益供与にあたるものと考えられる。

[6] 結局,株主に対してその議案について判断するに十分な情報が提供されていると評価することができるかという観点から判断されるものと解される。例えば,退職慰労金の具体的な金額を明示して決議がなされる場合において,株主は,退任する取締役の略歴・功績に関する情報が与えられれば議案への賛否の判断が可能となる。このような視座からすれば,「退職慰労金の金額がいかなる計算式・基準に基づいて算出されたかの説明を求めること」はできない(大阪高判平成2年3月30日判時1360号152頁)

[7] なお,訴訟承継については相続などの一般承継の場合は承継が可能であるが,特定承継の場合は承継の余地はないので注意が必要である。すなわち,株式が譲渡された場合には,譲渡人は原告たる地位を失い,譲受人もその地位を承継できるわけではない(最判昭和45年7月15日民集24巻7号804頁)

[8] なお,決議の「無効確認」を求めた場合において無効原因として主張された瑕疵が決議「取消事由」に該当するものであり,しかも決議取消しの訴えの原告適格・出訴期間の要件が満たされている場合は,決議取消しの主張が出訴期間経過後になされても,決議無効確認訴訟の提起時から決議の取消しの訴えが提起されていたものと取り扱われる(最判昭和54年11月16日民集33巻7号709頁)

[9] 決議の方法自体が法令に違反するとまではいえないが,会社や議長が株主総会の開催にあたり裁量権を逸脱したとみられる場合が典型例として想定されているといえよう。

[10] この判例は頻出であるが,アプリオリに訴えの利益がなくなると言い切っているわけではなく,役員選任決議取消し訴訟には遡及効が認められるのであるから,すでに退任した役員の地位も遡及的に失われることになるので法律上何らかの効果が生じることは間違いがない。そこで,判例は遡及的に地位を失わせることで生じる具体的実益の論証を原告に求めている。なお,下級審の中には,「特段の事情」には,会社の損害を回復する不可欠の手段をいうとして,役員報酬の根拠が失われる程度では足りないとするものがある。

[11] 論理的に承認決議の取消事由は,合併無効事由に包含される関係にあるという理解を前提にしていると考えられる。もっとも,吸収説は概念法学的な理由付けに基づくものであるから,利益衡量上は不当な事態も考えられる。例えば,現在では,組織再編に債権者保護手続や株券提供公告が求められないケースがある。このような場合は,承認決議の翌日に効力が生じてしまう可能性がある。これは,株主サイドとしては,仮処分(決議取消しの訴えを本案とする合併決議の執行停止の仮処分)を申し立てる余地に乏しいケースが生じている。この場合,事後の合併無効などの救済では遡及効が認められず,違法決議を主導した者が無効判決確定前に株主を排除した側の会社で何を行っても株主は打つ手がないという事態が考えられる。このように考えてくると,論理的に遡及効のある決議取消しの訴えによらなければ救済されないというケースも考えられる。このような場合は,両者の包含関係を否定し,決議取消しの訴えは吸収されずに存続すると解すべきである(併存説)

[12] 裁量棄却については,要件②と③は別方向に働く場合があるので注意が必要である。すなわち,「やり直しても同じ結果となるのでムダ」という場合,③の要件との関係では裁量棄却に傾きやすい。しかし,そうすると,閉鎖会社ではオーナー社長がいるのですべて裁量棄却となりかねない。すなわち,③の要件の安全弁が②という関係にある。最高裁の判例では,原審が③を重視して裁量棄却しているにもかかわらず,最高裁は②を重視して原審を破棄するというケースが目立つ。この点,実務家の文献をみると,③のあてはめについての論述が目立つが,江頭344は,②の判断を充実させるのが正しいとする。もっとも,違法収集証拠排除法則の議論と同じで,違法の重大性か排除相当性かいずれを重視すべきかという議論はあまり意味がないであろう。決議に影響が出るおそれがあるものが違法が重大ともいえるからである。結局,総合的な判断によることになるであろう。

[13] 少し社会学的な実態も考慮に入れてこの紛争について敷衍してみよう。多くの会社関連の紛争は中小企業の内紛に起因することがほとんどである。典型的には,ワンマンな社長がいて,その暴走を他の取締役が止めようとしたら,かえって権力を背景に返り討ちに遭うという場合が挙げられる。判例百選に登載されている事案はほとんどがこのような背景がある。もっとも,ワンマンがいけないというわけではない。もしそういう会社運営をしたければ,小規模会社らしく取締役会を設置しないという選択肢がある。この点,ワンマンの社長はたいてい大株主で単独で特別決議も成立させられるほどの議決権をもっているケースが珍しくもない。そうすると,わざわざ取締役会など設置するメリットもないのだが,「取締役会会長」のような肩書きで見栄を張りたいために必要のない取締役会を設置し,グリコのおまけ方式で必要のない監査役も登場してくるわけである。ところが,ワンマンは,大規模会社並みのガバナンスをするつもりなどはなからない。そこで,どうするかというと,すべて取締役である自分以外の機関を形骸化させるために名目的なものにとどめるということをやるわけである。名目取締役や名目監査役となった者も最初はそれでよいと思って会社に入ってくるわけであるが,いざ内紛となると突然違法事由を主張し出すということである。要するに,タヌキとキツネの化かしあいという側面があり,ワンマンばかりが悪いとは言い切れない。紛争解決の方向性としては,機関の選択を間違えただけで取締役会非設置会社ならとりたてて問題視することではないと考えれば有効という方向となり,わざわざ取締役会を設置したにもかかわらずあえて形骸化させたと考えれば無効という方向性も出てくる。会社法では機関設計が自由化されているわけであるから,後者の方向性にバイアスがかかりやすいかもしれない。とはいえ,取引の安全との利益衡量を欠かすことはできないので,結論的には従来とあまり変わらず,やはり有効とすべきであろうというのが大きな視点といえよう。

[14] この議論は,憲法でいわれるところの「違憲の条件」とパラレルに理解することができると思われる。例えば,東京都管理職登用事件最高裁判決の論旨は,調査官解説(外国人に公務就任権はない)を併せて読むと,「外国人を公務員にするか否かは自由裁量であるが,一度雇ってしまった場合は,昇進につき違憲の条件を付すことはできないが,本件は合理性があるので違憲の条件ではない」という議論を展開していると解される。すなわち,会社は誰を取締役に選任しようというのは基本的に株主総会の自由裁量であるが,「自由だからといって,会社制度の目的に反するような条件を定款で定めてはいけない」という趣旨と解される。選任が自由だからといって,選任の条件も自由との割り切りを許さないわけである。そうすると,会社制度の目的,ここでは公開会社の理念が何かということが問われなければならないであろう。そうすると,広く人材を求めるという趣旨が達成できなくなるかという視点から,その制限が合理的なものにとどまっているかを考えていくということになる。なお,近時,敵対的買収の防衛策として,「取締役は日本国籍及び日本に住所を有する必要がある」と定めることが考えられる。この点,決議要件が株主総会特別決議によっていることを考えると,スティール・パートナー事件1審判決を踏まえてみると(著しく不合理であることが明白である必要があるとする),331条2項の趣旨に反するとまで言い切ることには躊躇するところもあろう。

[15] 判例(最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)は,当該代表取締役が私心を去って会社に対して忠実に議決権を行使することは困難であるから特別利害関係を有する者にあたるとする。これに対して,特に閉鎖会社の場合は,会社・取締役の利害対立よりも,むしろ,取締役同士の利害対立が中心となる。そうすると,閉鎖会社の場合は経営方針をめぐる二派の争いといえる。そうすると,特別利害関係人を有するとして議決権を行使することを排除すべきではないとする見解もある。

[16] この点,会社法349条5項の問題とした場合と比較すると,判例のように民法条ただし書きを適用する場合と比較すると,軽過失のある相手方が保護されないことになる。

[17] このように判例の見解は相手方の過失の有無も問題としている。というのも,判例は通常の代表権の制限は定款でなされるものであり,これを認識することができないのは無理もないが,法令上の権限の制限についてはそれに関して決議が必要であるということが明らかなのであるから,相手方は相応の調査義務を負うとの理解がある。このような理解を背景に軽過失も問題にするという態度を示しているものと考えられる。

[18] この点に関して思うところを述べることとする。判例のように理解すると,相手方は,取引をする場合,①その取引が重要な財産の処分であるか,②重要な財産にあたるとすれば取締役会決議がなされたか―について調査する義務が生じる。これに対して,江頭392は,「無効主張は,普段取締役会を開催したこともなく,すべての業務執行を代表取締役に専決させている会社が,たまたま損失の出た取引について機会主義的になす可能性が高いので,相手方に厳格な注意義務を要求するのは公平の見地から適当ではなく,重過失の相手方に対してしか主張できないと解すべき」としている。このような見解は,実は判例の理解と平仄が合うところがある。というのも,たしかに,判例は無過失を要求しているが,現実には取引の実態や慣行を重視して,「注意義務を尽くしていたか」という評価を緩やかに行っている。そのため,現実に「過失があるとはいえない」と認定されるケースが多い。このように,判例が過失の認定を緩やかにしているというのは,学説は重過失にしぼるべきだという主張を実質的に取り入れているものと考えることもできる。つまり,判例は注意義務は基本的なものに限らないわけであるが,その履践は簡単に認めてしまうので,あまり,「軽過失も含むか,重過失に限られるか」という議論の立て方はプラクティスでは意味が乏しいものと考えられる。

[19] 最判昭和48年5月22日民集27巻5号655頁は,「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから,取締役会を構成する取締役は,会社に対し,①取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず,②代表取締役の業務執行一般につき,これを監視し,必要があれば,取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職務を有するものと解すべき」とする。

[20] 東京地判平成5年9月16日判時1469号25頁は,「取締役は会社の経営に関し善良な管理者の注意をもって忠実にその任務を果たすべきであるが,企業の経営判断は,不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的判断であるから,その裁量の幅はおのずと広いものとなり,取締役の経営判断が結果的に会社に損失をもたらしたとしても,それだけで取締役が必要な注意を怠ったと断定することはできない。会社は,株主総会で選任された取締役に経営を委ねて利益を追及しようとするから,適法に選任された取締役がその権限の範囲内で会社のために最良であると判断した場合には,基本的にはその判断を尊重して結果を受容すべきであり,このように考えることで初めて,取締役を萎縮させることなく経営に専念させることができ,その結果,会社は利益を得ることが期待できるのである。このような経営判断の性質に照らすと,取締役の経営判断の当否が問題となった場合,取締役であればそのときどのような経営判断をすべきであったかをまず考えたうえ,これとの対比によって実際に行われた取締役の判断の当否を決定することは相当でない。むしろ,裁判所としては,実際に行われた取締役の経営判断そのものを対象として,その前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったかどうか,また,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかどうかという観点から審査を行うべきである。その結果,前提となった事実認識に不注意な誤りがあり,又は意思決定の過程が著しく不合理であったと認められる場合には,取締役の経営判断は許容される裁量の範囲を逸脱したものとなり,取締役の善管注意義務又は忠実義務に違反するものとなると解するのが相当」とする。

[21] 上記の論証をみてみると,「競業」の概念の限界を画定するのは難しいことが分かる。つまり,競業という概念からすれば,現実に会社が行っていない行為をして競業になるというのは,その概念を拡大しすぎている疑いがある。また,現実に行っているという点のみに限定しすぎてしまうと,今度は進出の蓋然性がある場合については,会社の利益が守られないという問題がある。そうすると,結局は,会社が実際に行っている事業の部類と将来行う蓋然性のある事業の部類に含まれるかを基準に判断すべきと考えられる。そして,その蓋然性判断のメルクマールが,判例のいう「会社が進出を企図し市場調査を進めていた」という客観面に求めているものと思われる。ただ,あくまでも蓋然性判断ということになるので,市場調査を進めていたというよりも進出計画がどれほど具体的に現実化が予想されるかという観点の方が重要であるように思われる。ここで注意をしなくてはならないのは,蓋然性判断ということになると,「情報を悪用した」という点にフォーカスが集まりやすい。しかしながら,競業避止義務というのは,情報の悪用を射程距離に入れることは絶対に不可能である。したがって,あくまでも,蓋然性がある事業については,すでにその会社の事業であるということに含めてしまい,そのうえで考えると競業の概念におさまっているという思考過程をたどるのであろう。東京地判昭和56年のケースも,現実に会社は大阪の地域では事業を行っていないのであるから,『語感』からすれば競業の概念に納まるとはいい難いと思われるので,一種,拡張解釈をしたものと理解できよう。

[22] そもそも,「会社の事業の部類に属する取引」とは,通常は定款所定の事業目的に該当する事業をいう。しかしながら,356条の趣旨は会社と取締役との間で利益の衝突を来たす取引の利害調整にあるから,ここでは会社が実際行っている事業と市場において競合するものをいう。競業取引として規制される「会社の事業の部類に属する取引」とは,会社が実際現実に行っている事業と市場において競合し,会社と取締役又は第三者との間で利益の衝突を来たすおそれのある取引と解する。

 もっとも,すでに会社が準備に着手している事業,現に開業準備に着手していないが,会社の事業の種類,状態,事業方針からみて,その開始が合理的に予測される新規事業をすることが相当程度確実になった事業は含まれる。

[23] 江頭400は,わが国では,競業承認は取締役を系列会社に代表取締役として派遣するなどの正当な事業目的に基づきなされることが多いので,結果的に損害が生じたからといって,「簡単に競業取締役または承認を与えた取締役(369条5項)の任務懈怠を認定してはならない」と指摘するが,これも会社法の過失の認定は,民法と同じ感覚でやってはいけないということを示唆するものとうかがえる。

[24] 要するに,競業避止義務は忠実義務違反の行為のうち,一定の範囲を類型化して取締役会の承認が必要という枠をはめたものと考えられる。そうすると,忠実義務を履行させるためという目的との関係では,競業避止義務というのは過少包摂の関係にある。したがって,競業避止義務違反ではなく「競業」の要件にあたらないとしても,損害を生じさせた場合には忠実義務違反が別に問題となる。この点,取締役が「営業秘密を利用して私利を図る(トレード・シークレット)」という行為は,「競業」の概念には入らないので,競業避止義務として規律することはできない。このように,競業避止義務は目的を達成するとの関係では,過少な概念であり,すべてフォローすることができていないというイメージを持っておきたい。だからこそ,「競業」とは何か。どこまで射程距離を拡大できるのか,越えてはならない一線は何かということを理解しておく必要があろう。そういう意味では,実質的利益衡量からすれば,際限なく拡張解釈をした方がよいに決まっているので,あとは,概念法学上の理由でどこまで無理できるのかということにかかっているということであろう。

[25] 株式会社法学館のすべての株式を所有しているXについて競業取引でないと解してその責任を否定してしまうと,競業避止義務による利益調整はほとんどムダになってしまう。そこで,『事実上の主宰者』と構成しXを株式会社法学館の取締役と同視するという考え方がある。この点,競業取引といえるためには取締役Xが自ら株式会社法学館で競業取引をする必要がある。この場合,Xは第三者の代表者又は代理人として対外的行為を行うことをいうと限定的に解すべきである。そうすると,本件では原則としてXは競業取引を行っていないということになるが,例外的に株式会社法学館の100パーセントの株式を所有しているなどの事情に着目して,356条1項1号を類推適用することになる。

[26] すなわち,会社が関心を持つはずの新規事業機会を取締役が自己の事業にしてしまうことが忠実義務違反ということになるのであれば,そこで問題とされる任務懈怠とは,「会社が関心を持つはずの新規事業機会の情報を会社に提供する義務」ということになるであろう。問題は,そこにいう「情報」がどこまで義務の射程距離に入ってくるかであろう。というのも,個人の資格において得た情報まで会社に提供する義務があると解してもよいであろうか。この点は難問であるが,会社が上場会社か閉鎖型のタイプか,その取締役の社内的な立場によって変わってくると解すべきとするのが江頭説である。ということは,やはりこの点についても,業界の慣行なども考慮して安易に任務懈怠を認めては商業の世界は成り立たないという点を意識しておく必要があるように思われる。江頭402は上場会社については,個人の情報も提供義務が生じると解しているようであるが,もっと具体的に考えるべきであろう。例えば,誰でも知っているような大企業で経営のプロフェッショナルをわざわざ取締役として迎えているという場合は,それなりの報酬も得ているはずであるから,個人の資格で得た情報も提供すべきであろう。しかしながら,上場会社であるからといってそれほど取締役の身分保障があるというわけではないから,江頭のいう閉鎖型タイプの会社に近づけて考えるということがあってもいいように思われる。少なくとも,忠実義務というツールは独立を妨害し会社ではなくワンマン社長に忠実を要求するだけに終わるというケースがみられることはその判断をするにあたって意識しておく点と思われる。そうすると,報酬の多寡や権限,将来の保障がどれくらいあるかなども考慮して総合的に判断すべきもので,江頭のいうような分類できれいに割り切れるというものではないであろう。

[27] 難しいところであるが,「自分が教育した部下を在任中に退職勧誘してはならない」という任務を認めることは難しいということになるであろう。そこで,おそらくは,「会社に与える影響が過大となるような退職勧誘をしてはならない」という任務を認めるのが限界であろう。そうすると,「自己が教育した部下を引抜く」という行為をしたところで,その影響が限定的であれば,任務懈怠は否定されるという方向性になるであろう。いずれにせよ,重要なことは民法と同じような感覚で過失を認めると,商業の世界は成り立たないということである。

[28] 直接取引の重要なメルクマールは,要件②で挙げられてる「取締役が直接会社と取引をしている」という形式面である。典型例②をみてみると,P社の取締役であるXは,「形式面」に着目すると,Q社の代表者として直接P社と取引をしているので,「(P社の)取締役が直接会社と取引をしている」という形式面を満たすということになるわけである。そうすると,この場合はXはP社の側では代表権を持っていないのであるが,その形式面を満たしてしまうので,356条1項2号の規律対象となってしまうわけである。

[29] この場合は,P社においては取締役会の承認はいらない。というのも,2号に該当するには,形式面において,「取締役が直接会社と取引をしている」ということが必要である。ところが,XはQ社の代表取締役ではあるが,現実にQ社を代表せず,したがって,P社と取引を直接していない。2号は,形式的にみて取引の当事者が会社と取締役である場合のみを対象にする以上,2号に該当するということはできないのである。

[30] 間接取引のおもしろいところは,直接取引と異なり,「会社と取引を行う取締役が当該取引について利益相反取引があるか」という形式面を問題にしないという点にある。そうすると,「取締役と会社の利害が対立すればその射程距離に入ってくる」ということになりかねない。しかしながら,そのように解すれば,3号の外延が不明確になると解される。そこで,利益相反が会社とその取締役個人または取締役が代理または代表する者との間に存することが,外形上明確な場合に限られると解される。

[31] 例えば,P社がQ社の株式を45パーセント保有して支配株主となっている場合を想定すると,P社がQ社の取締役Xに対して「事実上の影響力」を行使して,不当な価額で売買契約の締結をさせるなどすることがあり得る。このような場合は,XとP社側のYが取引をするという場合,XはP社の役員を兼ねていないと言う場合は直接取引とするのは無理であろう。また,直接利益を受けるP社とQ社は取引をしているわけであるから,間接取引の要件も満たさないように思われる。そうすると,利益相反取引でこの取引を規律することはできないであろう。

[32] 最判平成15年2月21日金判1180号29頁の原審は次のように判示していた。すなわち,X社が代表取締役Yに対して株主総会の決議がないのに報酬を請求した点について,「株式会社の取締役と会社との関係においては,通常の場合,有償である旨の黙示の特約があるものと解され,同特約がある以上,株主総会の決議がない場合には,取締役は会社に対し社会通念上相当な額の報酬を請求することができると解するのが相当である。このように解しても,株主総会の決議がある場合には,それに従うべきことになるし,同決議がない場合には,社会通念上相当な額に抑えられるから,取締役の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するという361条1項の趣旨を損なうことはない」として,X社の請求を棄却した。ところが,最高裁は,「株式会社の取締役については,定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ,具体的な報酬請求権は発生せず,取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。けだし,361条1項は,取締役の報酬額について,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために,これを定款又は株主総会の決議で定めることとし,株主の自主的な判断にゆだねているからである。そうすると,本件取締役の報酬については,報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく,株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから,その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず,被上告人が上告人に対し,報酬請求権を有するものということはできない」としてX社の請求を認容した。

[33] 最判平成17年2月15日判時1890号143頁。A社について株主総会決議でなく取締役会決議で報酬を定めていたという事案について株主Xが取締役に対して報酬の返還を求めたものである。ところが,本件では訴訟の提起後に株主総会が開催され,本件会社の設立時にさかのぼって効力が生じる条件付決議をして株主総会決議を行った。判例は,「361条,387条1項の趣旨目的は,取締役の報酬にあっては,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止し,監査役の報酬にあっては,監査役の独立性を保持し,双方を通じて,役員報酬の額の決定を株主の自主的な判断にゆだねるところにある。そして,株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても,後に株主総会の決議を経ることにより,事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられる・・・。当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになる・・・。このように,本件会社の株主総会において,本件決議により既に支払済みの本件役員報酬の支払を適法有効なものとすることが許される以上・・・本件役員報酬の支払は,本件決議がされたことによって適法なものとなるから・・・本件会社が本件役員報酬相当額の損害を被っていることにもならない」と判示し,Xの請求を棄却する控訴棄却の自判をした。

[34] 使用人給与は役員報酬とは異なるから,総会決議は不要である。もっとも,取締役が会社から使用人として給与を受け取ることは利益相反取引に該当する。そこで,予め取締役会の得た一般的に定められた給与体系がある場合には,一種定型契約と同視することができるので,利益相反取引には該当しないが,かかる体系が存在しない場合は,取締役会の承認が必要であると考えられる(356条1項,365条1項,最判昭和43年9月3日参照)。なお,実質的に361条の脱法が目的である場合については損害賠償で対応するべきである。例えば,取締役報酬を20万円にしておき,使用人給与を3億円とするような場合である。判例は,使用人として受ける給与体系が明確に確立されている場合は,361条の潜脱行為にはあたらないとする。このように見てくると,明確な給与体系がない以上,利益相反となり取締役会決議が必要となる。また,361条の脱法であるとして,会社に対して不当利得返還請求や損害賠償を求めることも検討されるべきである。

[35] 代表取締役への一任が許されるかは,株主総会の一任決議が再委任を許す趣旨を含むか否かにより決せられる。そうすると,本件では特段再委任を許す明白な趣旨は含まれないと考えると,原則として再委任をすることは認められないと考えられる。もっとも,361条の趣旨は,株主の利益保護のためにあるから,株主の利益保護が図られている場合,すなわち,一定基準に従うという枠によって株主保護が図られている場合は,退職慰労金額の決定を代表取締役へ再委任しても違法ではないと考えられる。

[36] 少し補足すると,まず,すでに発生している報酬債権を減額することは,債権を放棄させることに等しいわけであるから,明示の同意が必要と解すべきであろう。もとより,すでに発生している債権を放棄するには合理的な理由がない限りしないことが通常であるから黙示の同意の余地を論じるのは正しくない。問題は,変更後に発生する報酬債権についてということを押さえておく必要があろう。なお,上記の2つに加えて,③「取締役の報酬が役職ごとに定められているという慣行があること」,④「当該取締役は慣行を了知したうえで取締役に就任したこと」―を主張立証すれば「黙示の同意」となるので,請求権が減額されるとの効果を生じると論じる判例(東京地判平成2年4月20日判時1350号138頁)もある。たしかに,変更後であれば,同意は黙示のものであっても足りることがあると考えられるが,そもそも,対立派の取締役を追い出し復讐のために報酬も支払わないというのが紛争の背景であることがほとんどであることに照らすと,通常の労働事案や通常の役員の人事異動と異なるとも考えられるわけであり,安易に黙示の同意を認めてしまうことが当人の意思に反すること著しいという事態も十分考えられる。そもそも,取締役の場合,任期の定めは2年であることが期間の定めのない労働者と大きく異なるところであり,労働者のように柔軟に報酬を減額できるという解釈論(合理的変更法理)を展開する必要はない。突き詰めてゆくと,合理的変更法理の根拠は,解雇権濫用法理により契約自由が修正されているためと解される。ところが,役員は委任関係に基づいており,いつでも解任することができるのであるから,労働法制と異なり契約自由の修正がないといえるのであるから,同意をないがしろにしてよいとする論拠はない。なるほど,判旨は「報酬が役職ごとに定められている」という事実たる慣習があれば,同意はいらないとする趣旨かもしれないが,そもそも,労働契約と異なり,役員の委任契約は白地性が強いものではなく,このような解釈は疑問である。しかも,仮にこのような解釈を認めるにしても,事案を詳細に検討すると,結局内ゲバの争いが背景にあり,そのような事実たる慣習を認定できるケースは少ないようにも思われる。このように見ると,任期が異様に長い場合を除けば,会社側に報酬を支払わせるというのが契約の拘束力との関係でも一番素直な帰結である。なお,弥永は役職の変動について正当事由を要件に付け加えることで黙示の同意を認めてもよいとするようである。なるほど,役員は解任は容易であるが,その反面で報酬は安易に減額できないとするのが労働法制の思考と平仄がとれるのは確かである。しかしながら,役員の配置も経営判断であるから広い裁量を認められることに照らすと,その司法審査の濃度は薄いものにならざるを得ず,したがって,正当事由があると判断されるケースがほとんどではないかと思われるので,あまり現実的な解決を示しているとはいえない。このように見てくると,黙示の同意を安易に認めるべきではなく,したがって,報酬の減額は基本的に認められないという点を視座に定めるのがよいであろう(江頭414)。

[37] L弁護士の請求原因基礎付けの試みについて考えられるものを説明する。

(1) 主張①―同族会社には会社法361条の適用はないと解すべき

● 361条の制度趣旨はお手盛を防止し,会社ひいては株主の利益を保護することにあるところ,会社の運営や機関構成が実体を持つ会社においては役員報酬のお手盛即株主としての自らの不利益となる故,役員報酬についてのお手盛のおそれはない

× 最判昭和56年5月11日は,同族会社であっても,「361条にいう報酬として定款又は株主総会の決議によってその金額を定めなければならない」とする。

(2) 主張②―実質的に会社を支配するKがXと任用契約を結んだのに,支払わないのは信義則に反するとの主張

● 361条の趣旨を考えてみると,代表取締役の行為に信義則違反があるからといって,株主の利益を犠牲にして退職慰労金の支払強制は疑問

× 諸事情を総合勘案して,代表取締役KがXに対して退職慰労金の支払いを約束した行為が株主全員の実質的承諾のもとに行われたと評価できれば,361条の株主総会決議があったと同視できる

⇒ 本件会社は,K一族による同族企業であり,その株式はすべてK一族が所有している。すべてをKが所有しているわけではないが,株主総会はここ5年ほど開催されておらず,株主は実質的に株主総会決議事項に関しても代表取締役に委任していたと評価できる。Xには退職慰労金請求権が発生している

(3) 主張③―会社が故意に総会決議を妨げているから条件成就の妨害にあたるとの主張(民法130条)

∴ 民法130条は適用されない

∵ 民法130条による条件は,「法定条件」は含まれない

[38] 請求することは認められない。たしかに,Xは,Q会社との間で退職慰労金付与特約を締結しており,少なくとも抽象的な退職慰労金請求権を有している。ここから,抽象的な退職慰労金請求権の効果として,かかる具体化請求権を導く考え方もあり得る。しかし,株主総会の決議事項の決定は取締役会の専属である(298条1項,4項)。明文がないにもかかわらず,取締役会以外が株主総会の決議事項を決めることができるとはいえない。ただし,例外的に株主に総会の議題提案権(303条)が認められているから,かかる要件が満たされる場合には退職慰労金支給の株主総会決議を議題として加えるよう請求できるにとどまる。

[39] 株主総会が退職慰労金の金額の決定を取締役会に委任した場合は,取締役会決議がない限り,具体的請求権は発生しないのが原則である。しかしながら,具体的請求権が株主総会決議のみで発生する場合も考えられる。すなわち,株主総会の意思を解釈してみると,まず,①取締役会への一任が単に計算を委ねる趣旨にすぎない場合は,すでに株主総会決議によってすでに請求権の内容は具体的に確定しているといえる。そうであれば,①の場合は取締役会に裁量がまったく与えられていないといえるので,Xは取締役会決議を欠いている場合であってもQ社に対して退職慰労金を請求することができる。これに対して,②内規の支給基準に,減額,不支給条項がある場合には株主総会から一任決議を受けた取締役会などが減額,不支給規定がある場合は,取締役会が減額,不支給事由の有無などの確認をする必要があり,そのことについて裁量が認められているから,株主総会決議の意思としては取締役会決議がない限り具体的請求権を発生させない趣旨と解される。さらに,③減額,不支給規定はないが功労加算金規定がある場合が問題となる。たしかに,株主総会決議の意思としては,減額,不支給規定がない以上,基本金額については具体的請求権が発生していると解する余地がある。しかし,実際上株主総会が両者を区分して一方は具体的権利を発生させる意思である場合は稀である。また,支給方法や支給時期についても取締役会の決定を委ねられている。したがって,特段の事情のない限り,取締役会決議の存在がない限り具体的請求権は発生していないと考えられる。

[40] 退職慰労金は,株主総会によって具体的金額が定まることにより具体的請求権として発生する。とすれば,すでに請求権をXが得てしまった以上これを株主総会決議や取締役会決議によって一方的に奪うことはできない。また,Q社は株主総会決議が錯誤により無効であると主張する可能性があるが,株主総会の無効原因は「法令違反」に限られているため(830条2項),決議内容に法令違反がない以上,株主総会決議の無効を主張することは難しいと考えられるので,錯誤無効の主張も失当である。そうすると,会社としては,Xに対する損害賠償請求(423条)を自働債権として,退職慰労金請求権を受動債権として対当額で相殺することによりその支払いを免れることができるにすぎない。

[41] 損益相殺の対象とされる利益は,423条1項の趣旨に照らして当該違法行為による会社の損害を直接に填補する目的・機能を有する利益である必要がある。これを本件賄賂についてみると,賄賂は不法原因給付であり返還を求めることができないから,その分はまるまる会社の損害となる。他方,賄賂の効果で仕事を得ることができたとしてもそこから生じる利益は直接には工事を行ったため得られる利益と評価するべき筋合いである。そうだとすれば,賄賂による損害を直接填補する目的,機能を有するものではない。以上のとおり,損害の原因行為たる賄賂交付行為と法律上相当因果関係があるとはいえず,損益相殺の対象とすることは許されない(東京高判平成6年12月22日参照)。

[42] 取締役の連帯責任については寄与度に応じた減責可能性を認める見解が有力である。というのも,423条の制度趣旨は,会社の損害の回復よりも任務懈怠を防止する手段として位置付ける見解が有力である。とすれば,任務懈怠の程度に応じて,連帯責任を負担すべきであるという思考に流れやすい。そこで,損害の予見可能性,任務懈怠の認められる期間,寄与度などに差異がある場合は,各人が賠償すべき額は異なるということになる。江頭436もこうした寄与度減責を認める必要性は否定しがたいとする。

[43] なお,民訴法によると補助参加をするには補助参加の利益が必要であるが,会社が取締役が敗訴することについてどのような法律上の利害関係があるかが明らかではなく,一般論として補助参加できないとする見解に加え,補助参加の利益がないからできないとする見解もあった。そこで,849条1項は「補助参加の利益」を補助参加の要件からデリートしてしまっている。

[44] 間接損害と直接損害という概念について若干の補足的コメントを付すことにする。私見によると,この概念の対立は相当因果関係の有無をめぐる要件の中に位置付けるのがよいと考えたわけであるが,突き詰めてゆくと,この概念は相当よく分からないものであるということが分かるように思われる。すなわち,その言葉遣いから考えると,相当因果関係がある場合は直接損害,ない場合は間接損害と言っているようにも見える。たしかに,間接損害の定義に現れるように,Y取締役の任務懈怠⇒会社に損害⇒第三者に損害ということであれば,任務懈怠と損害との間に中間損害があるわけであるから,第三者の損害というのは拡大損害に位置付けられるということができよう。そうすると,相当因果関係が否定されやすいことは認められると考えられる。しかしながら,考えてゆくと,どうも「相当因果関係がない場合が間接損害,ある場合は直接損害」という仮定は誤りのように思われる。というのも,判例も「任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係があれば,間接損害と直接損害のいずれかを問わず」帰責できるという。そうすると,判例は,間接損害でありながら,相当因果関係が認められるということを想定しているように思われる。現実にも,Y取締役の任務懈怠から,同時に2つの⇒が出て,「く」の字型に会社と第三者に同時に損害が生じるということも考えられるが,これも間接損害の定義を満たしそうである。そうだとすれば,429条との関係で重要なのは相当因果関係があるかということにあるのであって,間接損害か直接損害というのは,「社会学」に基づく紛争の類型論にすぎないのではないかと思われる。そうすると,直接損害であるからAとか,間接損害だからBというような議論の運びはできないように思われる。もう少し敷衍すると,「間接損害だからB」というような議論は不十分である。すなわち,重要なのは相当因果関係があるかということであるところ,先の会社の損害が中間項になっているケースでは相当因果関係は否定されやすい。これは株価の下落などがこれにあたるように思われる。ところが,「く」の字型の方は,相当因果関係が認められる。したがって,間接損害を論じるにあたっては,私見のように,「中間項が入り,拡大損害となってしまっている」と評価できるのか否かが議論を分ける分水嶺となるのであろう。直接損害と間接損害の分類は紛争解決の指標となり得ず,概念自体が極めて大雑把といわざるを得ない。したがって,ここでの議論は相当因果関係に置き換えて理解するのが相当であろう。逆にいえば,相当因果関係の議論にストレートに結びつかないこれらの概念はまったく役に立たないクズ概念といえよう。

[45] 典型例について429条の要件にあてはめて検討してみよう。まず,Yには重過失による任務懈怠があるかが問題となる。この点,Xの損害との関係で相当因果関係のある任務というのは何かが問題となる。というのも,重過失による任務懈怠とは,取締役としての基本的な善管注意義務違反に限られるところ,本来資金調達をするということはP社の利益になるはずであって,P社の任務を懈怠するとはいえないとも考えられるからである。この点,取締役には会社の再建可能性・倒産処理を検討すべき義務があるものと考えられる。なぜなら,債務超過の会社は投機に走りやすく,営業を継続すれば会社の損失は拡大すると会社債権者の損害も不必要に拡大するおそれがあるので,①債務超過に陥っていること,②営業を継続すれば会社の損失は拡大すること―を認識した場合は,上記注意義務が生じると考えられるからである。このように考えれば,本件についてXの重過失による任務懈怠を認めることができるように思われる。次に,相当因果関係であるが,本件の場合,「再建可能性・倒産処理を検討しなかった」という任務懈怠により会社が倒産処理に移らず会社の損害が拡大し,債権者が損害を被ったというのである。これは,通常生ずべき損害として予見可能なものであるから,相当因果関係は認められると考えられる。なお,上記のあてはめからも分かるように,「直接損害」という言葉がかなり適当な概念であることが再確認できる。というのも,商法学説の議論はかかるケースでは会社は利益しか受けていないから損害はないが債権者には損害はあるという理解をしている。たしかに,社会学的には正確な分析であるが,法学的には,任務の内容を「再建可能性・倒産処理」ととらえてしまうと,その任務懈怠の結果,会社に損害が生じていると考えざるを得ないであろう。そうすると,「直接損害」の定義を満たさないのではないかという疑問が生じてくるところである。要するに,直接損害・間接損害というのは,どうでもいい概念ということである。

[46] もはや訳が分からなくなってきたわけであるが,ここでの議論と直接損害の議論で異なるのは債権者が一般債権者であるか,任務違背行為としての取引の相手方である債権者か―という違いしかない。そうすると,間接損害の場合であっても,任務自体が再建可能性を検討すべき義務ととらえれば,もはや任務懈怠もあり,相当因果関係を放漫経営をすれば当然予見すべきものであろうから,やはり結論は変わらないと思うし,厳密に区別する意味すらあるか疑問であるし,現実に両者を区別することができるかについても疑問であろう。思うのは,間接損害と直接損害というのは「会社に損害があるか」という法的に無意味な視点(因果関係を切断する一つの考慮要素を絶対概念と誤解している点が誤りである)で区別をしてしまっているために様々なレベルの議論がさも同一レベルであるかの如く,ごちゃごちゃに混ぜられてしまっているイメージを受ける。

[47] この論点を処理するにあたり気をつけることは相当因果関係が認められるかということである。この点,取締役の任務懈怠により会社のみに損害が生じてその結果ということであれば相当因果関係は否定されやすい。これに対して,取締役の任務懈怠によって同時に株主と会社に損害が生じた場合は因果性は直接的であるから,相当因果関係は認められるので株主による429条も肯定すべき場合はあるのである。このことと代表訴訟があるという議論は平仄が合わないわけではない。というのも,代表訴訟では423条の責任が問題になるにすぎないわけであるが,429条の責任が追及可能ということであれば,代表訴訟があるからといって,429条を封ずべきだという根拠にはならない。そうすると,争点は「因果性の直接性」ということになるのであろう。

[48] 実務書においても,取締役の業務執行の監督は,取締役として一般に要求されている知識及び識見を基準に善管注意義務を尽くしているかによって決められるべきで,個々の取締役の多忙,病気,あるいは老齢といった個人的事情で注意義務が軽減されるべきでない,という原則論に回帰する可能性があると指摘されているが,個別具体的事情ではやはり名目取締役の責任を否定する場合もある。

[49] 親会社の代表取締役の地位を有する者について子会社の事実上の取締役であるとして,その監視義務違反を任務懈怠と捉えて429条1項の責任を認めた異例の裁判例(京都地判平成4年2月5日)がある。判旨は,「被告花子の言動と丙川の経営状況の浮沈との間には密接な対応関係がみられる。また,被告花子は,丙川の経営と相当深い関係をもっており,親会社である乙山有限の代表取締役として,また,会社創設者である乙山松夫の相続人で,丙川の実質的所有者として,事実上丙川の業務執行を継続的に行ない丙川を支配していた。このことに照らすと,丙川の事実上の取締役に当たるというべきであり,この認定に反する証拠は,措信し難く他にこれを覆すに足る証拠がない。以上の各事実,弁論の全趣旨に照らすと,被告花子は,丙川の事実上の取締役として,重大な過失により被告太郎の前認定の任務懈怠行為に対する監視義務を怠ったものというべきであって,被告花子はこれにより生じた原告の損害を事実上の取締役の第三者に対する責任として商法266条の3第1項により賠償すべき責任がある」とする。

[50] 裁判所は国会に対して議案提出権を有していないし,仮にこれを付与する立法をした場合でも合憲であるかについては議論があるところであろう。そうすると,それとの対比においても監査役の権限を強化していこうという試みがみられるといよう。

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